1991年のHPC(その一)

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Jul 4, 2022, 4:41:53 AM7/4/22
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HPC界のみなさま

二十世紀の語り部小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、6月27日から1991年に入り、6回にわたって連載します。最初の2回を簡単にご紹介します。

前年初めから日本の株価は下がり、バブルは崩壊していたのに、甘く見ていた人が多かったようです。湾岸戦争が勃発し、日本は派兵を迫られます。4月筆者は東大に移りましたが、筑波大学のQCDPAXは本格稼働に入り、CP-PACS計画も進みます。立花隆氏が筑波大学に来訪してルポルタージュを書きます。第五世代は最終年度を迎え、新情報(RWCP)の準備が進みます。

アメリカは8月第二次日米半導体協定を強要して、日本国内で生産する半導体規格をアメリカの規格にあわせることや、日本市場でのアメリカ半導体のシェアを20%まで引き上げることを露骨に要求しました。スーパーコンピュータでも、日本のスーパーコンピュータの性能は見せかけだと批判し、日米で性能評価ワークショップがハワイで開かれ、筆者も参加しました。

航空宇宙技術研究所では、三好甫先生を中心として、アメリカの批判を招かないようにしながら、VP-400より100倍高速な数値風洞計画が進みます。なお、「数値風洞」の項は7月4日から全面改訂しましたので、もう一度お読みください。

Supercomputing Japanの2回目が池袋で開催されます。リクルートISRは、SX-2Aの計算時間400時間をアカデミアに提供するほか、青山でワークショップを開催します。たまたまですが、リクルートISRの所長であったRaul Mendez氏のインタビューも本誌で7月4日公開されています。

アメリカから「日本では公的な研究機関でも、企業の研究部門でもMPPの開発は盛んにおこなわれているが、商品のMPPは作っていない。企業は非常に保守的である。」との批判がなされています。日本のMPPは10年以上の遅れをとっていたと言われます。

小柳義夫

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Jul 19, 2022, 12:46:58 AM7/19/22
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HPC界のみなさま

二十世紀の語り部小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、6月27日から1991年に入り、6回にわたって連載しています。真ん中の2回を簡単にご紹介します。先週は第100回となりました。前回の連載で100回になったのは2003年の記事なので、だいぶペースがゆっくりです。

各社のPIMやAP1000など日本も超並列機を開発していますが、松下電器はスーパースカラプロセッサOHMEGAを独自開発し、超並列機ADENART-IIに向かいます。日本鋼管は、井戸禎光氏ら約10名の技術者をDallasのConvex本社に派遣し、超並列機(後のExemplar SPP)の共同開発に入りました。このことは製品が出てから知りました。

日本でもようやく電子メールやニュースが普及し始め、アカデミアだけでなく産業界にも広がり始めました。BITNETとWideとの電子メール交換が正式に開始しました。まだ漢字はダメでした。インターネット接続も広まりつつあります。

SC91のBoFでHPF (High Performance Fortran)への動きが始まり、精力的に開発が進みます。データの分割だけを指示することにより、データ並列性を検出し、自動的に並列化する言語です。同時並行的にMPIの標準化の動きも進みます。

アメリカのブッシュ政権は、上院議員ゴアなどの提唱するHPCC計画を始めます。1993年にはクリントンーゴア政権に継承されます。その一つとしてPetaFLOPS Initiativeも始まります。

これに対抗して、ヨーロッパはいかにすべきか、ECはCERN所長Rubbiaに検討を依頼し、Rubbia委員会は「ハードは無理なので、ハードは諦めアプリ開発で優位を取れ」と勧告します。筆者は「それではよいアプリはできない」と批判記事を書きました。

高エネルギー研のコンピュータ関係で大変お世話になった番野善明技官が帰宅時交通事故で亡くなられました。実はアマチュア天文家としても知られ、小惑星番野 (3394 Banno)は番野氏を偲んで命名されました(最近知りました)。

1991年の最後は、は国際会議やアメリカなおdの産業界です。CM-5が発表されます。

小柳義夫



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Aug 1, 2022, 10:40:39 PM8/1/22
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二十世紀の語り部小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、8月1日の第103回で、1991年の記述を終わりました。最後の2回について簡単にご紹介します。(全目次は、バナーの「特集記事」のプルダウン・メニューがらご覧ください)

科学研究費総合研究島崎班は、福岡で国際会議ISS'91を開催しました。全プログラムを掲載しましたが、講演者や題目を見ると当時のHPCの状況が浮かんできます。

HPCに関連の深い高エネルギー物理学関係の2つの国際会議CHEP 1991とLattice 91がつくばの高エネルギー物理学研究所で開催されました。前者では、岩崎洋一が格子QCD専用計算機について総合報告を行いました。

第4回目のSCはニューメキシコ州のAlbuquerqueで開催されました。、私は出席できませんでしたが、会議中のBoFからHPF Forumが始まりました。ISCの前身である第6回Mannheim Supercomputing Seminarでは、基調講演を含む過半数のプレゼンがドイツ語だったようです。

シリコンバレーのSanta ClaraではSupercomputing USA/Pacific 91という単発の「国際会議+展示会」が開催され、日米の有名人が講演を行いました。私は日本からの訪米団の団長を務め、周辺の研究所も訪問しました。

本格的なMPPがアメリカの企業から登場します。TMCはCM-5を発表し、Intel社はParagonのプロトタイプであるTouchstone DeltaをCaltechに設置しました。KSR社はKSR1を出荷しました。Cray社はC90を発表するとともに、MPPの計画が報道されます。Convex社もCray互換のベクトルだけでなくRISCチップを搭載したMPPの開発を始めています。アメリカでは超並列の花盛りですが、日本では??

ドイツのParsytec社は、T9000を搭載したGCシリーズを予告していましたが、T9000は夢に終わります。

1991年に創業された企業としては、HPFコンパイラで有名なApplied Parallel Research社、筑波大学のT2Kを製造したAppro社、A84FXの設計でも使ったBroadcom社(の初代)、そして武田喜一郎のソフテックなどがあります。

終焉を迎えた企業としては、Stardent社、FPS社、Digital Research社(CP/Mで有名)などがああります。

次回は1992年に入りますが、公開はお盆明けの8月22日からを予定しています。

小柳義夫@RIST

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Aug 22, 2022, 2:42:11 AM8/22/22
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二十世紀の語り部小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、本日の第104回から1992年に入りました。7回に分けて連載します。初回の記事を紹介します。これまでの記事は、バナーにある「特集記事」のプルダウン・メニューからご覧ください。

その前に訂正があります。第102回に国際会議ISS'91のプログラムを掲載しましたが、これは準備段階の素案でした。島崎眞昭氏から最終プログラムをいただきましたので、修正しました。また、高エネルギー物理学関係の2つの国際会議CHEP 1991とLattice 91の開催場所ですが、CHEP1991が筑波大学、Lattice 91が高エネルギー物理学研究所でした。これも訂正してあります。

社会では、『ミンボーの女』が公開され、伊丹十三が暴漢に襲われます。新聞に不思議なGコードの掲載が始まります。米国留学中の服部剛丈君が射殺されました。ブッシュ(父)に代わり、クリントンが大統領に選ばれます。風船おじさんという話題もありました。

日本のHPC界では、第五世代が終了し、通産省はRWCPを発足させます。文部省関係でも、科研費の重点領域「超並列原理」、筑波大学のCP-PACSプロジェクト、広島大学のINSAMなど超並列処理の研究プロジェクトが始まります。小柳研究室は「超並列原理」に「場モデルによる超並列処理の研究」という課題で応募し採用されたので、マルチグリッド前処理共役勾配法の研究を推進しました。

学術情報センターはSINETの運用を正式に開始し、大学関係でのインターネットの利用が急速に発展します。

次回は1992年(b)で、国内の会議と日本の企業の動きなどについて書きます。

小柳義夫@RIST

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Sep 4, 2022, 11:02:45 PM9/4/22
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二十世紀の語り部小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、すでに1992年に入っています。7回に分けて連載します。先週と今週の記事を紹介します。国内会議、日本企業、標準化、性能評価、ネットワーク、日米貿易摩擦、中国のスーパーコンピュータなどです。

横浜で開かれたJSPP92では、パネル討論会「並列計算機の実用化・商用化を逡巡させる諸要因とは?――その徹底分析と克服――」が企画されました。30年後の今なら考えられないテーマです。筆者は、「悪玉」(ベクトル計算機擁護派)としてパネリストに引き出されました。さて善玉は誰か?

アメリカではParagonやCM-5など本格的並列計算機が登場しているのに、日本では、S-3800やVPP-500などベクトル計算機の花盛りです。日本でも、やっと高並列計算機AP1000やCenju-IIが登場します。ベクトル計算機の時間貸し事業を行ってきた計算流体力学研究所とリクルートの両社は事業から撤退します。世界を驚かせたビジネスでしたが、バブル崩壊には勝てませんでした。

日米関係では、アメリカの大学や政府関係では日本のスーパーコンピュータを拒否しながら、日本には買え買えと圧力を強めています。核融合科学研究所(土岐市)では、クレイリサーチ社と日本の3社が応札し、日本電気が落札しましたが、クレイリサーチ社は日本政府のスーパーコンピュータ調達審査委員会に苦情を申し立てました。たしか当時委員長は故森正武先生だったと思います。委員会は申し立てを却下しましたが、クレイリサーチ社はなおも引き下がらず、研究所は、翌年3月の設置後、異例の「公開デモ」を行いました。

中国では、Cray-1に似た銀河1号(1983年)に続き、X-MPに似た銀河2号を開発し3台が稼働します。実用機であるところがすごい。

次回は1992年(d)で、世界の学界の動きと国際会議です。WWWが広がり始めますが、これがインターネットの主要な利用形態になると私は不覚にも理解しませんでした。

小柳義夫@RIST

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Sep 20, 2022, 1:28:13 AM9/20/22
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二十世紀の語り部小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、1992年を7回に分けて連載しています。先週と今週の記事を紹介します。「世界の学界の動き」と「国際会議(特にSC92)」です。

前信で紹介したように、筑波大学では計算物理学のためのCP-PACSの開発を始めていますが、世界中で同様なプロジェクトが進んでいます。QCD Teraflops Project、APE100、GF11などです。APE100やGF11はSIMDですが、他はMIMDで、それぞれ自分のが最適と謳っています。

第6回のICS会議は初めてアメリカで開催され、富士通は300 GFlopsを越える並列ベクトルスーパーコンピュータを予告します。後のNWTとVPP500です。AIHENP 92(南仏)とCHEP1992(アヌシー)では、Tim Berners Leeが自らWWWのデモをやっていました。

コロンブスの新大陸到着500周年のSC92は”Voyage and Discovery”というタイトルの下にミネソタ州Minneapolisで開催されました。Larry Smarrは基調講演”Grand Challenges! Voyage of Discovery in the 1990’s”において、スーパーコンピュータの意義を強調しました。Steve Chenは招待講演で、Virtual Prototypingについて詳しく語りましたが、彼の作ったSSI社の動向については一言も語りませんでした。案の定、翌年には破綻します。

SC92の最終日(金)に、Seymour Crayの生まれ故郷のChippewa Falls(Wisiconsin州)にあるCray Research社の工場を見学しました。同社が開発中の超並列計算機(後のT3D)について面白いやりとりがありました。

次回はアメリカ企業の動きなどです。超並列の花盛りです。

小柳義夫

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Oct 2, 2022, 10:20:55 PM10/2/22
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HPC界のみなさま

二十世紀の語り部小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、本日公開の「新HPCの歩み(第110回)-1992年(g)」
で1992年(全7回)を終了しました。ご愛読を感謝します。先週と今週の記事を紹介します。

1980年代に創業した超並列ベンチャからは、MP-2(MasPar Computer社)やCM-5(Thinking Machines社)が出荷されますが、押しも押されぬ半導体の大企業のIntel社も、超並列機Paragonを出荷します。大企業の登場で、吹けば飛ぶようなベンチャ達はどうなるのでしょう。Alliant Computer社が倒産します。しかし、これはまだ序幕に過ぎませんでした。

高性能なマイクロプロセッサがいろいろ登場します。SuperSPARC(Sun Microsystems社)、PA-7100(Hewlett-Packard社)、R8000(MIPS Technologies社)、Alpha 21064(Digital Equipment社)、PowerPC 601(IBM社)などです。これらで超並列機を作れば鬼に金棒でしょう。

本誌(HPCwire Japan)の親誌であるHPCwire(米国)は、1992年9月2日に創刊されました。わたしはすぐ有料購読者($195/年)になりました。今年は30周年です。

今週号では、1992年時点で日本に設置されていたベクトルスーパーコンピュータ一覧を公開資料に基づいてまとめました。膨大なので間違いもあるのではないかと思います、ご教示ください。(「設置時期」の定義が、「搬入」「据え付け」「稼働」「検収」「運用開始」などあいまいです)日本設置の(商用)並列スーパーコンピュータについては1993年のところで一覧を示します。ご期待ください。

小柳義夫@RIST

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Oct 17, 2022, 1:03:09 AM10/17/22
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に掲載中の『新HPCの歩み』は、先週から1993年に入っています。ご愛読を感謝します。余談ですが、1993年のノーベル化学賞はPCR法の発明(1983年)に与えられました。新型コロナでこんなに使われるとはMullis氏もびっくりでしょう。先週と今週の記事を御紹介します。

1993年1月に発足したクリントン政権は、日本へのアメリカ製スーパーコンピュータ輸出に血道を上げ、日米スーパーコンピュータ摩擦がさらに燃え上がります。日本は景気対策の補正予算で10台強のスーパーコンピュータを購入することになり、アメリカからの圧力がさらに強まります。

航空宇宙技術研究所では、三好甫氏の主導のもと富士通と共同開発したNWT(数値風洞)が稼働し、飛行機の研究などに活躍します。11月のTop500では堂々のトップを取り、その後も含め合計4回トップを取っています。

この年、情報処理学会の数値解析研究会が、HPC研究会に進化しました。広島大学INSAMには3月にParagonが入り、翌年3月には東大の情報科学専攻に富士通のAP1000+が入ります。

リクルートISRは3月閉鎖されますが、Mendez氏は自分の会社ISRを立ち上げます。つくば第一ホテル(その後オークラを経て、ホテル日航つくば)で、ISRワークショップが開かれます。この場で、アメリカの並列機ベンダは、補正予算でスーパーコンピュータ調達を予定している日本の組織関係者と出会います。

富士通は、NWTと同じ技術によるVPP500を発表し、発売します。また、AP1000を中心に並列ワークショップPCW'93を開催します。日本電気もMIPSアーキテクチャのプロセッサを搭載したCenju-3を発表します。

IBM社は2月世界中にSP1を発表し、日本でも大々的に披露します。後に書くように、同年Cray Research社も超並列コンピュータT3Dを発表します。前年のIntel Paragonを含め、世界的大企業が超並列に乗り出してきました。

IIJ(株式会社インターネットイニシアティブ)が商用インターネットを始めるために、ユーザ企業になりそうなところに出資を要請しましたが、「インターネットが事業で使われるようなことになれば、全裸で逆立ちして銀座を歩いてみせますよ」とのたもうた大幹部がいたとか。パソコン通信と同様にホビーとしてしか見られていなかったのでしょうか?

小柳義夫@RIST

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Oct 30, 2022, 10:15:49 PM10/30/22
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二十世紀の語り部小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、すでに1993年に入っています。ご愛読を感謝します。先週と今週の記事を御紹介します。

先週号では、1993年時点で日本に設置されているアメリカ製並列コンピュータの一覧を掲載しました。日本のメーカはまだ及び腰だったので、大学も民間も多数の米国製並列コンピュータを設置しています。でも、アメリカ政府はもっと売り込みたいようです。

並列化ソフトの標準化としては、PVM、MPI、HPFが並行して進んでいます。MPI標準化は順調ですが、HPFの議論は少し発散気味です。

Top500が始まりましたが、私は「Forbesの長者番付でもあるまいし、どうして順位をつける必要があるんだ」とバカにしていました。Meuer教授から参加を勧められましたが断りました。今と違って、マスコミが注目することもなく、ひっそり発表されました。日本では、関口智嗣氏の尽力により、「性能評価の標準化」調査研究が始まります。

アメリカ政府のHPCCは、ブッシュ(父)大統領時代の1991年から始まっていますが、クリントン・ゴア政権は、省庁を越えて多額の予算を投入します。ゴア副大統領は情報スーパーハイウェイ構想を打ち出します。これは、ゴアの父親Al Gore, Sr.が、上院議員であった1956年にInterstate Highwayを推進したことにちなんでいます。

Gordon Bell氏は「つぶれるべきコンピュータ会社が政府(特にARPA)の援助により生き延びている」と批判しました。結果的に1994年にはTMCやKSRが経営破綻に至ります。

NSFは有識者によるパネルを設置し、「デスクトプからテラフロップへ、HPCにおけるアメリカの優位を活用して」と題した報告書を出し、NSFへの投資の重要性を強調しました。1985年からの4スーパーコンピュータ・センター体制の次期計画はどうなるのでしょう。

ヨーロッパやアジアの政府関係機関もスーパーコンピュータの設置や利用に力を入れています。いよいよスーパーコンピュータ時代の到来です。

来週は1993年に開催された種々の国際会議の話題を書きます。

小柳義夫@RIST

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Nov 13, 2022, 8:53:17 PM11/13/22
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二十世紀の語り部小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、すでに1993年に入っています。ご愛読を感謝します。先週と今週の記事を御紹介します。テーマは国際会議です。今週号はSC93について、その他の国際会議は先週号に載せました。

HPC分野のヨーロッパベースの国際会議として、第1回のHigh Performance Computing and Networking(HPCN)がアムステルダムで5月17日~19日に開催されました。その後、日本からもかなり参加しましたが、2001年の第9回で終わりました。ドイツで6月に開催されているMannheim Supercomputer Seminar(後のISC)に負けたようです。

ACM SIGARCH主催のICSの第7回が初めて日本で開催されました。組織委員長は村岡洋一、プログラム委員長は田中英彦。最終日に「1998年(5年後)のスーパーコンピューティング」というパネルがあり、日米のベンダーがパネリストとして各社のロードマップを披露しました。翌日には、早稲田大学の同じ会場で、科研費島崎班の最終年シンポジウムを兼ねてWBPE(代表、津田孝夫)が開かれました。

アジアを中心とした計算物理の国際会議ICCP-2が北京で開催され、私は“Parallel Computers for Computational Physics”という講演を行いました。私としては2度目の中国でしたが、再び故宮を見学し、万里の長城(八達嶺)に登りました。八達嶺では、公開されている東側の端から西側の端まで制覇しました。その後、1999年にICCP-5を金沢で開催します。

第6回目となるSC'93がポートランドで開催されました。テーマがネットワークの方に広がり、展示は初めて100件を越えました。日本からも富士通や日本電気が出典しています。昨年からですが、K-12(幼稚園から高校3年まで)という標語で特別のプログラムや展示が企画されていました。高校生などのスーパーコンピュータ利用の成果が発表され、ハイスクールの先生が多数参加していました。日本の高校にはパソコンすら整備されていないのに。

第2回のTop500が会議に合わせて発表されました。ただし、Top500 BoFが開かれるのはSC'94からで、会議中にイベントはありませんでした。NWTが遂に堂々の1位にランクインし、2位のCM-5の倍以上でした。しかし今と異なり、とくにマスコミで話題になることもありませんでした。10位以内には、社内とカナダにある2件のSX-3が入っています。合計、富士通は35件、日本電気は32件、日立は25件が載っています。すべてベクトルです。

来週はお休みで、次回は11月28日です。Cray社やIBM社が遂に本格的な超並列機を導入します。

小柳義夫@RIST

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Dec 4, 2022, 7:18:39 PM12/4/22
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二十世紀の語り部小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、本日で1993年分を完載いたしました。ご愛読を感謝します。先週と今週の記事を御紹介します。

誰かが「Killer Micros」と言ったように、マイクロプロセッサの進歩が著しく、超並列機もこれまではカスタムCPUが主流でしたが、高性能な汎用品のCPUを搭載する超並列機が台頭してきました。特に、この年に登場したIBM社のSP1とCray Research社のT3Dは衝撃的でした。吹けば飛ぶようなベンチャーではなく、歴とした大企業が社運を賭けて開発したこともあり、あっという間にこの業界を席巻しました。グラフィックスの会社であったSGI社もChallengeシリーズでHPC市場を狙っています。ヨーロッパでも、Parsytec社、Parsys社、Transtech社、Meiko社などが活躍します。

そのあおりを食らってか、これまで超並列の雄として君臨してきた、CM-5のThinking Machines社や、Kendall Squares社や、nCUBE社や、MasPar社などを暗雲が覆います。翌1994年には決定的になります。

他方、大会社も安泰かというとそうではなく、IBM社はダウンサイジングによる大赤字でCEOが交替し、Cray Research社の業績も上向きません。IBM社はなんと食品会社ナビスコからCEOをスカウトしました。

一人わが道を行くSeymour CrayのCray Computer社は、やっと最初で最後のCray-3をNCARに設置したものの、資金が足りなくなり、経営陣は金策に走り回っていました。でもSeymourは強気で、「Cray-4、Cray-5と作り続ける」と豪語しました。これも翌1994年決定的になります。

Intel社はx86のシリーズとしてPentiumを発表し出荷しました。奇しくも先日、2023年からPentiumやCeleronのプランド名を使わない、との発表がありました。30年は長いというべきか。

1993年、台湾出身のアメリカ人Jen-Hsun Huang(黄仁勲)らはNVIDIA社を設立します。その後の活躍はご存じの通り。

次回はいよいよ1994年です。超並列業界に激震が走ります。

余談ですが、先日、江沢民元国家主席が亡くなられましたが、一度だけ生の江沢民主席を見たことがあります。WCC2000でのことでした。対日強硬派だそうですが、テクノクラートとしてかなりの迫力でした。前回のシリーズに書きました。「HPCの歩み50年(第74回)-2000年(c)-」https://www.hpcwire.jp/archives/10124

小柳義夫

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Dec 19, 2022, 1:26:33 AM12/19/22
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二十世紀の語り部小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、先週から1994年に入っています。先週と今週の記事を御紹介します。6月に松本サリン事件、10月にはスイスで太陽寺院の信者53人が謎の集団死と、いよいよ世紀末が近づいています。

スーパーコンピュータの性能評価に関する日米ワークショップが、1991年の第1回に続いて、ハワイ島コナで開催され、6名ずつが参加しました。先日大噴火を起こしたマウナロア山のある島です。前回、アメリカ側は現実サイズの問題での全体性能評価の重要性を強調したのに対し、日本側は技術要素ごとの評価の重要性を強調し、対立しましたが、2回目では相互に理解するようになりました。翌年の国際ワークショップPERMEAN95(別府)の企画を全参加者で詰めました。なお、第1回の日本側代表を務めた島田俊夫氏(当時電総研、後名古屋大学)は、去る11月23日に亡くなられました。ご冥福を祈ります。

大学関係では、筑波大学とKEKにVPP500が、東工大と東北大流体研にCray C90が導入されます。

航空宇宙技術研究所は、NWTでGordon-Bell賞に応募し、Honorable Mention(準賞)を受けました。日本から同賞への初登場でした。

電子技術総合研究所(産総研の前身の一つ)ではNinfの開発が始まりました。従来のライブラリがソフトウェアを自分の使うコンピュータに実装して問題を解くのに対し、RPCによって直接に解が得られるような環境を作ろうとするものです。グリッドのさきがけの一つです。

この年3月、第1回のHOKKEが開催されました。5月のJSPP94では、大学生・院生・高校生などを対象に、並列ソフトウェアコンテストPSC94を開催しました。富士通研究所からAP1000(64プロセッサ)を使わせていただき、整数データ4800万個のソーティング課題を出しました。26チームが参加し、1,2位は東大院生、3位はANUの学生でした。PSCはこのあと数年続きます。第7回のSWoPP 94は、7月に那覇市で開催されました。ある日おやつに山のようなサーターアンダーギーが出ましたが、なぜでしょうか。

9月のIBM HPC Forumでは、当時NASA AmesのD. Baileyを講演に招待しました。

来週は、日本の企業の動きや標準化活動などです。来年は1月10日から連載を開始します。

小柳義夫

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Jan 9, 2023, 11:33:00 PM1/9/23
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新年おめでとうございます。二十世紀の語り部小柳義夫です。
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に掲載中の『新HPCの歩み』は、1994年の出来事を書いています。前回(去年最後)と今週の記事を御紹介します。「日本の企業の動き」「標準化」「性能評価」(ここまで先々週の記事)、「アメリカ政府関係の動き」「日米貿易摩擦」「ヨーロッパの政府関係の動き」「アジアの政府関係の動き」(本日公開の記事)です。ぜひともご笑覧ください。

中でも印象深いのは「日米貿易摩擦」です。筆者自身その渦中にありました。これを書き出すと血が騒ぎます(歴史を語る者としては慎むべきですが)。1993年のところに書いたように、日本政府は平成5年度補正予算に10件のスーパーコンピュータ新規導入案件を含め、アメリカ側のいう通り、[入札価格]/[評価点]を使った公正な総合評価方式で落札者を決めました。アメリカ側はほとんどを取る勢いだったのですが、日本企業もねばり、結果的に、10件のうち6件7台がアメリカ製に決まりました。しかし不満だったのは日本クレイで(当時営業だったHPCwire Japanの西克也編集長ごめんなさい)、単独応札の2件しか取れませんでした。競合相手は日本のベンダではなく、アメリカの同業他社でした。

日本の企業では、日本電気が初のCMOSベクトルスーパーコンピュータSX-4を発表し、最大構成で1 TFlopsが可能だと豪語しました。世界中に多数売れましたが、公表されている最大構成は東北大学とカナダ大気環境省のピーク256 GFlopsでした。「最大構成で1 TFlops」を標榜したTシリーズのFPS社や、CM-5のTMC社は経営破綻したので、「二度あることは三度ある」にならないか心配しました。

標準化では、MPIは順調に規格制定が進みましたが、HPFは漂流を始めました。Unixの標準化について対立していたOSFとUIは、共通の敵であるMicrosoft社への対抗のため遂に合併しOSFとなります。他方、Red Hat Linux 1.0が公開されます。

Tom Sterlingは、30 cm角の立方体でPetaflopsが実現できる超伝導スーパーコンピュータなどという夢想を振りまく一方、汎用品(COTS)のハード・ソフトを使ったBeowulf clusterの概念を提唱しました。

アメリカのクリントン・ゴア政権はNII構想をどんどん進めています。(日本以外の)アジア諸国でも自作や輸入のスーパーコンピュータがどんどん設置されています。

来週は、NCSA Mosaicが登場し、Shorが量子コンピュータにより因数分解が多項式時間で解けることを証明します。

小柳義夫

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Jan 22, 2023, 8:38:32 PM1/22/23
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HPC界のみなさま

二十世紀の語り部小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、1994年の出来事を書いています。先週と今週の記事を御紹介します。「世界の学界の動き」と「国際会議」です。

CERNのTim Berners-LeeがWWWを提唱したのは1989年ですが、これが広まるにはweb browserの普及が必要でした。その嚆矢がAirMosaicで、トップの表示画面には蜘蛛の巣(web)と地球儀の絵が出ています。地球儀はぐるぐる回っていた記憶がありますが、この版かどうかは分かりません。

最近政治家まで「量子コンピュータ」を口にするようになりましたが、この年、Bell研究所にいたアメリカの数学者Peter Shorは、量子コンピュータを用いれば、整数の素因数分解が多項式時間で解けることを証明しました。RSA暗号も真っ青!? あと、コンピュータとは関係ありませんが、Fermatの最終定理の証明が提示されます。翌年受理。

アメリカでは、CalTechの近くで2月にPetaflopsに向けた会議が開かれ、その可能性、技術課題、それを活用する応用などが議論されます。このころ世界的にも、日本のNWT(数値風洞)がやっと100GFlopsを達成したばかりなのに、その1万倍を目ざすとは、さすがアメリカのチャレンジ精神ですね。

翌1995年に開く予定の第一回のHPC Asiaに向けて、準備会議(後のsteering committee)が2月、工業都市の新竹にあるNCHCで開かれ、アジア太平洋各国のHPCの現状を分析しました。その後、開催場所を募ったところ、台湾と1997年に返還を控えている香港とが立候補しましたが、投票により、台北で開催されることが決まります。当時円高で、日本は二の足を踏んでいます。

6月には、Mannheim Supercomputer Seminar(後のISC)で3回目のTop500が発表され、SNL (Sandia National Laboratory)がParagonで、NWTを越えて念願のトップ (Rmax=143.4 GFlops)を取ります。しかし11月の第4回では、NWTがチューニングで抜き返します。どちらのTop20でも半数は日本に設置されている日本製のスーパーコンピュータです。このほか日本製ではカナダにSX/3が設置されています。

ヨーロッパ版の IBM HPC Forum であるSup’Eur 94 が、1994年10月2日~5日にオランダAmsterdamの自由大学で開催され参加しましたが、SP1などの並列コンピュータでどんどん実用的なアプリが稼働していることが報告されていました。GMDの若手が、ADAPTERというオープンなHPFコンパイラ(トランスレータ)を開発した話にも興味を持ちました。。

第7回のSC 94は、首都Washington DCで開催され、空前の参加者でした。首都ということもあり、DOEのHazel O’Leary長官が開会式に登場し、彼女はNIIにおいてDOEがいかに重要な役割を演じているかを強調しました。前にも述べたように、NWTによる等方一様乱流のシミュレーションの論文がGordon Bell賞のHonorable Mention(一種の準賞、現在はない)として表彰されました。

1994年はあと2回、来週はアメリカの企業の動きなどです。

小柳義夫

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Feb 5, 2023, 5:29:08 PM2/5/23
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HPC界のみなさま

二十世紀の語り部小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、本日(2月5日)で1994年を終了いたしました。先週と今週の記事を御紹介します。

この年の最大の事件は、超並列ベンチャの雄と目されていたTMC (Thinking Machines Corporation)とKSR (Kendall Square Research)の2社が相次いで経営破綻し、連邦破産法第11章(Chapter 11)の適用を申請したことです。TMCは経営判断のミス、KSRは不正経理とインサイダー取引と原因は違いますが、背景にはIBMやCray Researchなど大手が超並列業界に進出したことと、冷戦終結による軍事予算の縮小などがあったと言われています。

そのIBM社はSP1に続いてSP2を発表し出荷します。1996年11月のTop500では、トップは筑波大学のCP-PACSですが、何と1/4がSP2です。日本にも10台以上が設置されます。(当初、日本の設置個所の一つに「動燃」と書きましたが、「原子力発電技術機構」の間違いで、訂正しました)Convex社はPA RISCを搭載した超並列機SPP1200/SPP1000を発表し出荷します。販売は順調に見えますが、損失を出し続けています。

同じく超並列で注目されていたnCUBE社とMasPar Computer社は、HPCとは違う方向に活路を探します。

Cray ResearchはCMOSのベクトル計算機J90を発表しますが、経営は苦しく、合理化を迫られています。Seymour CrayのCray Computer社はGaAsのCray-4を華々しく発表しますが、債務超過も膨らんでいます。

ヨーロッパでは、Transputer T9000を搭載する超並列機が開発されていましたが、T9000がなかなか売り出されず、ひと昔前のT800に他の演算用のCPUを組み合わせたノードで、つなぎのマシンを作ります。T9000は開発があまりに遅れたので、他のプロセッサに追い越されてしまい、結局商品にはなりませんでした。

SGIの創業者のJIm Clarkは、Mosaicの発明者AndreesenとNetscape Communications社を創業します。同社でCookieが発明されます。

次は1995年。アメリカではASCI計画が始まります。日本では阪神淡路大震災やオウム事件が起こります。

小柳義夫

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Feb 19, 2023, 7:24:07 PM2/19/23
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HPC界のみなさま

二十世紀の語り部小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、先週から1995年に入っています。先週と今週の記事を御紹介します。

日本でもネットワークが急速に普及しています。日本のネットユーザは、ニュースグループに流れて来た田中眞紀子科学技術庁長官のメッセージに驚きました。

政府調達におけるスーパーコンピュータの定義は、1990年の日米協議で決まった「300 MFlops以上」のままでしたが、関係者の尽力により、やっと「5 GFlops以上」に改められました。直近のTop500のRmaxでは121位以上に対応します。

日本原子力研究所は、1957年にいち早く計算室を設置していますが、1995年、これを改組して駒込に計算科学技術推進センターを設立しました。目的は、原研内部の計算需要に応えることはもちろん、当時ようやく実用化しつつあった並列処理に関する基盤技術を政官学の共同研究によって開発し、その成果を科学技術庁傘下の研究期間へ普及させることでした。

同じころ、現在わたしが所属しているRIST(高度情報科学技術研究機構)が、原子力データセンターを改組して設立され(更田豊治郎理事長)、三好甫氏を副理事長に迎えます。7月には「地球環境シミュレーションシステム開発推進委員会」が設置されます。(理事長名は、14日(火)に加筆しました)

今から考えると、この原研とRISTの動きは「地球シミュレータ」開発への一連の布石のように思われます。

東大大型計算機センターは、汎用コンピュータを含めて予算の見直しを行い、T3E級の超並列型スーパーコンピュータを導入することとなりました。外国系2社、国内1社が応札し、日立がSR2201/1024で落札しました。このマシンは、1996年6月のTop500で見事トップを取ります。大学の共同利用センターがトップを取るのは空前絶後でした。

東京工業大学総合情報処理センターは、ETA10に代えてCray Y-MP C916を導入します。これを用いて高校生向けのプログラミング・コンテスト「SuperCon’95」を開催し、私立六甲高校のチームが優勝しました。このコンテストはその後毎年開催されています。

Top500で上位を保っている航空宇宙技術研究所のNWT(数値風洞)は、Gordon Bell賞のPerformance部門で、昨年のHonorable Mention(佳作)に続き、QCDの計算で本賞を受賞しました。

高エネルギー物理学研究所は、VPP500/80を1995年1月に設置し、5月から正式に稼動させました。NWTに続く最大構成のVPP500でした。

2回目のHOKKE(HPCとアーキテクチャの評価に関する北海道ワークショップ)が札幌で開催されました。懇親会のスナップ写真がWeb上に残っています。懐かしい顔が見えます。

昨年に引き続き、学生(高校生から大学院生まで)を対象としてPSC(並列ソフトウェア・コンテスト)'95が開催され、各社から資源をご提供いただいたAP1000、Cenju-3、SR2001、SP2の上で、密行列連立1次方程式の直接解法を競いました。表彰はマシン毎です。3位までの入賞者には各社から豪華な賞品が贈られました。日本クレイからは参加賞(Tシャツ?)。

科研費重点領域「超並列」は最終年度を迎え、10月からは産学連携の並列・分散コンソーシアム(PDC)が始まります。

日本ではいろんな企業が、ユーザ向け・一般向けの研究会を開いています。今年から始まった日本電気のNEC HPC研究会の他、日本IBMのIBM HPC Users’ Forum、日本サンのNSUG(日本サン・ユーザ・グループ)シンポジウム、日立のHAS研、富士通のSS研などです。

統計数理研究所の外部評価に参加し、貴重な経験をしました。また、HPCとは関係ありませんが、オウム真理教でも貴重な体験をしました。生番組「報道2001」(フジテレビ系列)に1時間ほど出さされました。

ご笑覧いただければ幸いです。総目次はhttps://www.hpcwire.jp/new50history

小柳義夫

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Mar 5, 2023, 7:14:10 PM3/5/23
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二十世紀の語り部小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、すでに1995年の第4回まで書き進んでいます。先週と今週の記事を御紹介します。

日本の3社はスーパーコンピュータの新製品を出しています。富士通はVPP300を、日立はSR2201を発表し、日本電気はSX-4を出荷します。

HPF標準化の作業はいよいよ熱気を帯びています。HPF Forumなどのプログラムが出て来たので、先週の公表後、水曜日に追加しました。Ken KennedyとかJohn Levesqueとか、ビッグネームも見えます。でもHPFはどこに行くのでしょう。

アメリカではASCI計画が始まります。1997年6月にCP-PACSからトップを奪うASCI-Redの仕様が次第に明らかになります。

1984年から始まったNSFのスーパーコンピュータセンター群は、10年後のリストラを迎え、将来計画を一から設計するためにHayes氏を主査とするパネルが設置されました。結果が発表されるのは1996年です。

SC95では、I-Wayという大規模なメタコンピューティングの実験が行われ、その成果の上に、グリッド環境を構築するために必要な基板技術の開発を行うプロジェクトGlobus Projectがが始まります。

日本に数年滞在していたDavid Kahanerは、欧米と日本、アジアの間の技術情報ギャップを埋めるためATIPをニューメキシコ州で設立します。

最も古い半導体の国際会議ISSCCではソニーの山田氏が基調講演をしています。

Mannheim Supercomputer Supercomputer(後のISC)で発表されたTop500では、相変わらず航技研のNWTがトップを占めています。

前年のHawaiiの会議で開催が企画された「計算機性能と解析に関する国際ワークショップ -- PERMEAN'95 --」が、別府でSWoPP直前に開催されました。当時日本では、性能チューニングは、達人の技のように考えられていましたが、欧米ではこれを科学として発展させる方向が出ていました。

リオデジャネイロで開催されたCHEP95では、日本からの参加者の川口湊福井大学教授が、市電乗車中にひったくりに遭って路上に転げ落ち、亡くなりました。


ご笑覧いただければ幸いです。総目次はhttps://www.hpcwire.jp/new50history
です。

小柳義夫

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Mar 19, 2023, 10:30:15 PM3/19/23
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二十世紀の語り部小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、すでに1995年(全8回)の後半に入っています。先週と今週の記事を御紹介します。HPC Asia 95とSC95(第1部)です。

第1回のHPC AsiaであるHPC Asia 95は、1995年9月に台北で開催され、technical sessionに600名以上参加しました。展示では、日米各社に加えて地元台湾からの出展も多く、盛況でした。長い沈黙を破ってSteve Chenは、招待講演において、汎用プロセッサを用いた共有メモリ計算機を開発していると発表しました。日本の3社からも、三浦謙一、河辺峻、渡辺貞が総合講演を行いました。

San Diegoで12月に開催されたSC95では、アメリカの研究予算が減少し、スーパーコンピュータセンターの数も減るという中で、いかに新しい展望を開いていくかが論じられていました。

展示のGala Openingの行われる12月4日(月)に、IEEEのSSS (Scientific Supercomputing Subcommittee)が会場近くのホテルで開かれ、三浦謙一氏と私の企画で、「日本におけるHPCC活動」に関するプレゼンテーションが行われました。3社の他、NWT、GRAPE、RWC-1の発表がありました。最後に、Thorndyke氏が、日本視察の報告をしました。実装技術が要と見ています。Top500の上位にしばしば登場するものの、日本のHPC活動はアメリカではあまり知られていないので、よい機会であったと思います。SC95の続きは来週です。

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Apr 2, 2023, 9:56:42 PM4/2/23
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1995年のHPC(その四)

HPC界のみなさま

二十世紀の語り部小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、本日、全8回にわたる1995年の記事掲載を完了いたしました。先週と今週の記事を御紹介します。SC95の後半と、アメリカ企業の動き、ヨーロッパ企業の動き、企業の創立・終焉などです。

SC95では、第一回から続いているCenter Directors’ Round Tableが開催され、細りゆくNSF予算のなかで、今後の方針が議論されました。HPFについては、Workshopはドタキャンされましたが、HPF ForumはBoFとして開催され、HPF2.0への拡張が議論されました。HPFコンパイラは各社頑張っていますが難しそうです。

Gordon Bell賞では、航技研、山形大、広島大連合が、NWTの128プロセッサでQCD計算を行い、179 GFlopsを出してPerformanceカテゴリーの賞を獲得しました。牧野淳一郎・泰地真弘人は、GRAPE-4で112 GFlops相当の速度を出し、special-purpose machineカテゴリーで入賞しました。Price/Performance賞はMITの人に。

11月(実際は12月)のTop500は、上位5位までは前回と同じでNWTが相変わらず首位です。上位20位までに日本設置のマシンが9件入っています。

わたしは気づきませんでしたが、SC95ではI-Wayという最初の大規模なメタコンピューティングの実験が行なわれ、全米17カ所の計算センターを結合し60以上のアプリケーションを走らせました。この成果を基にGrid ComputingとくにGlobusの開発が進みます。

汎用マイクロプロセッサは、どんどん進化します。Pentium Pro, Alpha21164, UltraSPARC-I, SPARC64などです。最後の2つは、世界初の64ビットSPARCです。これらはPCやサーバのみならず、超並列コンピュータのエンジンにも使われていきます。

Cray Research社は、ベクトルではT90、超並列ではT3Eを出します。しかし収益という点では一向に改善せず、1994年CarlsonがCEOを辞任し、1995年Samperが指名されます。努力も空しく翌年にはSGIに吸収されます。

超並列の雄と目されていたnCUBE社はOracleに編入され、ストリーミングサーバのメーカに転身し、MasPar社は意思決定ソフトウェアの会社に変身します。TMC社も再建計画が進み、翌年にはChapter 11の保護から脱却します。Convex社は、協力関係にあったHewlett-Packard社に買収されます。

Steve Chenが設立したSSIは1993年に破産しましたが、その技術を引き継ぐChen Systems社はついにSMPサーバCS-1000を発表しました。でも、翌年、Sequentに吸収されます。

省電力で一時活躍したTransmeta社が設立され、Yahoo!社も立ち上がります。他方、Cray Compter社は、再生の見込みがないので連邦破産法第7章(Chapter 7、日本の破産法に相当)の清算処理に移行しました。

次は1996年です。アメリカのNCARでのスーパーコンピュータ調達において、大騒動が巻き起こります。

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Apr 16, 2023, 10:43:00 PM4/16/23
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HPC界のみなさま

二十世紀の語り部小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、先週から1996年に入っています。全8回です。先週と今週の記事を御紹介します。日本政府の動き、日本の大学センター等の動き、日本の学界(アカデミア)の動き、国内会議などです。企業関係の一般向けテーマの会合は国内会議に入れています。

1996年は、村山首相の退陣のあと、橋本龍太郎の自社さ連立内閣で始まりました。菅直人厚生大臣が、厚生省エイズ研究班の資料を役所の倉庫から発見したのもこの年です。前年制定された科学技術基本法に基づき、第1期の科学技術基本計画(5年間)が閣議決定されました。これにより、地球シミュレータ計画や、日本学術振興会の未来開拓学術研究推進事業なども始まります。日本原子力研究所の計算科学技術推進センターは駒込から中目黒に移り、国内外の5台の並列コンピュータを設置して並列数値計算ライブラリプログラムの開発を推進しました。わたしもそこに足しげく通うことになります。

東京大学大型計算機センターは、1996年2月にHITACHI SR2201/1024を設置し、6月のTop500において首位を占めました。大学の一般向け共同利用センターがトップを取るなんて初めてで、おそらく今後もないと思われます。なぜなら、この後は国家主導のスーパーコンピュータセンターでなければ首位を取れなくなるからです。インターネットが普及し始め、京都大学大型計算機センターでは公衆回線(音声電話経由での接続)を廃止しました。他のセンターも同様と思われます。

筑波大学計算物理学研究センターも、東大のSR2201に続いて3月にCP-PACS/1024を設置しました。ピークは300 GFlosでしたが、メモリが小さいのでTop500には出しませんでした。おそらくLinpack性能は180 GFlops程度で、出せば2位には入れたと思います。その後2048プロセッサに増強し、11月のTop500では、Linpack性能368.2 GFlosで、見事1位に輝きました。

1024プロセッサの段階で、某新聞社(朝日です)が、「NECのSX-4は1 TFlopsだから、その方が高性能だ。CP-PACSはチャンピオンではない。」などと珍奇なことを言い出しました。SX-4の1 TFlopsは、カタログ性能に過ぎず、実機のCP-PACSと比較するのは無意味と反論したのですが、今週号に載せた「どれがチャンプ」などという珍奇な記事を出しました。

記事をよく読むと、「日本クレイの杉原正一総合企画部長は「製造能力はあるわけで、筑波大に抜かれたとはおもっていない。今年中には、筑波大の二倍の六百ギガフロップスのマシンを実際に出荷する」。NEC広報部は「筑波大のは研究用で、うちのスパコンとは市場が異なる。直接比較はできない」。富士通広報部室は「組み上げたという意味では筑波大が最高速になるのでしょう」と反応は様々だ。」とあり、クレイは負け惜しみっぽいが、各社とも分かっています。ちなみに、600 GFlops以上のCray T3Eが登場するのは翌1997年11月のTop500で、SX-4の最大の実機はピーク256 GFlopsでした。

高エネルギー物理学研究所は、前年に設置したVPP500/80の資源を使って、公募型の「大型シミュレーション研究」を開始しました。

関口智嗣(電総研)氏の主導により、大学、国立研究所、企業の研究部門などで開発した応用ソフトウェアを産業界の実用段階まで育成しようということで、企業からの会費により、産業基盤ソフトウェアフォーラム(SIF)を設立し、3年半活動をつづけました。現在の私のRISTでの活動にもつながっています。また、日本版netlibを作ろうと、有志でPHASEプロジェクトを始めましたが、ミラーサイトとしてだけしばらく続きました。余談ですが、「棟上(とうじょう)」とフリガナを振ったら、MS Wordが「むねあげ」のお間違いでは、と警告を出しました。余計なお節介です。

JSPP並列ソフトウェア・コンテスト(PSC 96)は第3回で、私が委員長を仰せつかりました。問題は「3,276,800個の1次元複素データの高速フーリエ変換および逆変換」としました。浮動小数演算量はO (n log n) ですが、データ移動がポイントでした。PSCもそろそろネタに困るようになりました。

ご笑覧いただければ幸いです。総目次は https://www.hpcwire.jp/new50history
です。

小柳義夫

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May 7, 2023, 10:56:04 PM5/7/23
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二十世紀の語り部小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、1996年に入っています。先週は連休中で休載しましたが、先々週と今週の記事を御紹介します。日本企業の動き、標準化、性能評価、アメリカ政府の動き、日米貿易摩擦、ヨーロッパや各国の動き、世界の学界の動きです。

最大の事件は、NCAR(アメリカの国立気象研究所)のスーパーコンピュータ導入をめぐる政治介入です。技術審査と入札によって日本電気のSX-4を中心としたシステムが落札したにも関わらず、民主党の下院議員が政治介入します。曰く、「アメリカの税金を日本や他の国の企業を助成するために使うべきでない」と。連中は、日本には、日本の税金でアメリカのスーパーコンピュータを買えと言っています。研究者は高性能のマシンを使いたいだけなのに、それを「企業への助成」ととらえるところに助成体質がしみ込んでいます。クレイ社はダンピング提訴に踏み切り、事件は年を越します。

さて、富士通はVPP300の並列度を上げたVPP700を発表します。日本だけでなく、イギリス、ドイツ、フランスなどに売れています。また超並列機としてはAP3000を発表しました。AP1000はテストベッド的でしたが、これは実用的な超並列サーバです。日立は、CP-PACSの商用版であるSR2201を出荷し、既報のように東京大学のSR2201/1024は6月のTop500でトップを飾ります。

標準化ではHPF Forumが精力的に作業を進め、HPF 2.0原案がまとまります。日本関係からは、富士通アメリカの三浦謙一氏や、1995年までRice大学に滞在していた日本電気の妹尾義樹氏が参加しています。また、グリッド関係では、Globusプロジェクトがオープンソースプロジェクトとして始まります。

5月からSNL (Sandia National Laboratory)にASCI Redの設置が始まります。11月22日にはLinpackで327 GFlopsを出していたそうで、もう一歩早ければ筑波大学CP-PACSの1位は幻になったかもしれません。3 TFlops級を狙う次のASCI Blueは、IBMとSGIの提案から一つを選ぶのではなく、両方を採択しLLNLとLANLに設置することになりました。

NSFのスーパーコンピュータセンターのリストラでは、現4センターがPACI計画の最終候補になりました。来年にはここから2センターを選ぶことになります。さて、残るのはどこか?

BostonのThe Computer Museumのいわば西海岸支所として、101号線に近いMoffett FieldにThe Computer Museum History Centerが開設されました。1999年にはBostonが閉館となり、すべてがこちらに移ります。

中国は、Alpha21164を使った312 GFlopsの「神威I」を完成しました。神威藍光や神威太湖之光の遠い先祖です。

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May 21, 2023, 9:42:10 PM5/21/23
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二十世紀の語り部小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、1996年の話の後半に入りました。先週と今週の記事を御紹介します。内容はこの年に開かれた国際会議ですが、SC96については、今週と来週の2週に分けて詳しく書きます。今週は前半だけ。

1993年にヨーロッパベースの国際会議として始まったHPCN Europeは、4回目をBrusselsで開催し、展示も講演も力(リキ)が入っていましたが、恐らくこの年がピークで、その後衰退の一途をたどり、2001年が最後となります。

Manheim Supercomputer Seminar(後のISC)で発表された7回目のTop500では、東京大学大型計算機センターのSR2201/1024が堂々トップに入り、日本の新聞は小さく報道しました。トップ20位までの22件中、9件が日本設置のマシンでした(内8件は日本製)。Top500全体では93件が日本設置。

1997年にSeoulで開く予定の第2回HPC Asiaの準備会がMaui HPC Centerで開催され、私は初めてマウイ島を訪れました。

今週号はSC96の前半です。11月にペンシルバニア州のPittsburghで開催されたSC96での最大の話題は、スーパーコンピュータの父Seymour Crayの不慮の事故死でした。すばらしい追悼講演が行われ、Seymour Cray賞の創設が宣言されました。

私は初めて委員(Round Table委員会)を務めましたので、当時のPanelやRound Tableのプログラムが決まる内幕の一端を紹介しました。

初めての女性IBM FellowとなったFrances Allenの基調講演は、聞いたときは「つまらない」という印象でしたが、その後読み返してみると、30年近く前の発言としては、現在のIT社会の到来を正しく予言しているところがあります。彼女はバーチャル企業の出現が社会を変えると予言しましたが、まさに言い当てています。ただ、その主役がBoeingやChryslerや大保険会社だろうと予測したのは外れていて、主役はGAFAなどとなりました。情報社会がpeople-centricでなければならない、と断じたところも現代の問題に通じます。

ECMRFのDavid Burridge所長が、プログラム委員長のBill BuzbeeをOHP係として総合講演を行い、NCARでのSX-4問題への皮肉を交えながら、天気予報におけるHPCの重要性を述べました。

次回はSC96の後半です。

5月8日の「新HPCの歩み(第138回)-1996年(d)-」では、「世界の学界の動き」を書きましたが、一つ重要な動きを忘れていました。「Groverのアルゴリズム」です。Groverは、「量子コンピュータを用いれば、N個の要素を持つ未整序データベースから指定された値を、O(N^1/2)の計算量で検索できる」ことを証明し、5月の国際会議で発表しました。付け加えておきます。

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Jun 5, 2023, 5:42:21 AM6/5/23
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二十世紀の語り部小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、今週で1996年の話を終わりました。先週と今週の記事を御紹介します。先週はSC96の後半、今週はアメリカその他の企業、企業の創業や合併吸収などです。

SC96では、基調講演に続いて、ASCIについてのパネルが午後まで3コマ開かれました。およそ1年半毎に3倍の性能増を実現するマシンを次々設置するという飛んでもない計画で、度肝を抜かれました。核実験禁止条約のもとで核抑止力を維持するために、核実験を計算機実験に置き換えようという当初計画でしたが、計算科学全体にも大きな影響を与えることになります。

Petaflopsに向かう計画も進んでいます。アーキテクチャの議論は具体的ですが、Petaflopsが応用になにをもたらすかはまだイメージに留まっています。

Gordon Bell賞は、性能部門で、NWTが流体力学で本賞を、GRAPE-4が専用計算機としてHonorable Mention(佳作)を受賞しました。

アメリカ企業として最大の動きは、Cray Research社を吸収合併したことです。SGIの会長CEOであるEdward R. McCrackenは、「両社の組み合わせにより世界をリードするHPCの会社を創造するであろう」と強気の発言を行いましたが、果たしてどうなるでしょう?

1987年に創立されたTera Computer社は、10年目の今年、ついにMTA-1を動かしました。コア当たり最大128スレッドを動かし、メモリレイテンシを隠ぺいするアーキテクチャです。SDSCに設置する予定です。

Seymour CrayはSRC社を創立して独自の超並列の設計を始めましたが、その矢先、自動車事故で他界しました。1994年には、Thinking Machines社とKendall Square Research社が表舞台から姿を消しましたが、今度はMasPar、nCUBE、Chen Systems、Weitek、Meikoなどかつてのビッグネームがまた終焉を迎えます。

次は1997年、日本では情報科学技術部会が、アメリカではPITACが設置されます。ご笑覧いただければ幸いです。総目次は https://www.hpcwire.jp/new50history です。

小柳義夫

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Jun 11, 2023, 11:12:21 PM6/11/23
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二十世紀の語り部小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、今週から1997年に入りました。9回にわたって連載します。今週の記事を御紹介します。「1997年の社会の動き」で始まり、「地球シミュレータ計画」、「日本政府の動き」、「日本の大学センター等」です。

地球シミュレータ計画では、大循環モデルAGCMを5 TFlopsの実効性能で稼働するという目標を定め、ピーク30 TFlops程度のベクトル計算機を開発することとしました。日本電気と富士通の概念設計の中から、日本電気を開発業者に選定しました。アプリ関係では「地球フロンティア研究システム」を創設し、真鍋淑郎氏をアメリカから地球温暖化研究プログラムの領域長に招聘しました。

日本政府は第1期科学技術基本計画の具体的方策の一つとして、「未来を拓く情報科学技術の戦略的な推進方策の在り方について」について新しく情報科学技術部会を設置して審議を進めることにしました。1999年まで16回開催されます。

日本学術振興会の未来開拓事業は2年目ですが、私も頑張って「計算科学」という新しいプロジェクトを立ち上げます。予算は5年間で総計25億円です。

前年、中目黒に移転した日本原子力研究所計算科学技術推進センターは、5台の並列計算機をプラットフォームとして、並列処理の実用化を進めます。

新情報処理開発機構(RWCP)は、後半の5年に入り、「実世界知能技術分野」と「並列分散コンピュータ技術分野」にターゲットを定め、PCクラスタをプラットフォームとしてシステムの開発を進めます。

大型計算機センター群で開催する「スーパーコンピュータ研究会」では、並列処理、HPF、MPIなどについて話を聞きました。

次回は日本の学界の動きと国内会議です。ご笑覧いただければ幸いです。総目次は https://www.hpcwire.jp/new50history です。

小柳義夫

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Jun 25, 2023, 11:00:17 PM6/25/23
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HPC界のみなさま

二十世紀の語り部小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、先々週から1997年に入っています。先週から深海探査艇タイタンの事故が話題になっていますが、映画『タイタニック』が公開された年です。一般公開は12月ですが、11月1日に東京国際映画祭で上映されています。

先週と今週の記事を紹介します。「日本の学界の動き」「国内会議」「日本の企業」「標準化」「アメリカ政府の動き」などです。

三好甫(高度情報科学技術研究機構副理事長)の主導により、超並列機を、応用分野のユーザが現実の問題を解くために利用するには、HPFの活用がカギであるとの認識に基づき、「HPC合同検討会(JAHPF)」を発足させ、拡張仕様を精力的に検討します。その成果をSanta Feで開催された第1回HPF Users Group Meetingで発表したところ、先端ユーザとベンダ3社が協力して仕様の検討を進めていることが国際的に評価されました。三好先生は同時に地球シミュレータ計画を推進していましたが、完成を見ることなく2001年末に他界されます。『情報処理』誌は、2月号で『HPF言語の動向』を特集しました。

JSPP'97は、1995年の大震災から復興途中の神戸で開催され、基調講演で星野力氏は並列計算の核心はノイマンの呪縛からの脱出だと論じました。併設された並列ソフトウェアコンテストでは、「ナップザック問題」を出しましたが、適度な難度の問題を生成するのに苦労しました。

SWoPP阿蘇97の前日、HPCS'97がHPC研究会の主催で開催されました。これは単発の企画でしたが、その後2002年から2017年まで毎年HPCSが開催されました。

国内では、外資系を含め各社がオープンな(または近い)シンポジウムを盛んに開催しています。

日本でも、若干遅まきながら、SR2201、AP3000、Cenju-4と実用化を目指す超並列機が揃いました。

前年、Cray Research社がSGI社と合併したことにより、日本でも、日本シリコングラフィックス・クレイ株式会社が発足します。その披露パーティーに行きましたが、何と……

Fortran 95がやっとこの年公表されます。これはマイナー改定ですが、大改訂のFortran 2000の方向性も決定しました。

アメリカでは第1期のPITACが始まり、「連邦政府は、即効性のある短期的な研究より、リスクの高い長期的な課題を支援すべき」だという方向が出ています。どこかの国とはだいぶ違います。

NSF PACI構想では、結局SDSCとNCSAが選ばれ、全米を高速ネットワークで繋いでアカデミアに資源提供を行うことになりました。

ご笑覧を感謝いたします。次回は日米貿易摩擦など。総目次は https://www.hpcwire.jp/new50history です。

小柳義夫

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Jul 9, 2023, 9:36:27 PM7/9/23
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HPC界のみなさま

二十世紀の語り部小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、1997年の第5回まで来ました。先週と今週の記事を紹介します。「日米貿易摩擦」「各国の政府関係の動き」「世界の学界の動き」「国際会議(前半)」です。

日米貿易摩擦では、三浦謙一博士、Bill Buzbee博士などがITCの公聴会で堂々と正論を論述しましたが、聞く耳を満ちません。「日本のスーパーコンピュータはアメリカのスーパーコンピュータメーカー市場に脅威を与えている」との裁定を根拠もなしに下しました。日本電気とHNSX社はCIT(米連邦国際通商裁判所)に訴えます。結論が出ないうちに、NSFはNCARへのSX-4の導入を中止します。Buzbee博士は引退を決意します。

アメリカ政府は、インドは原水爆開発国であるとして、Cray社のスーパーコンピュータの購入を拒否します。インドの電総研であるC-DACは、自力で100 GFlopsから1 TFlopsのスーパーコンピュータを開発すると発表しました。

1960年代にIBMでOut-of-Order実行の基本原理を確立したRobert Tomasuloは、この年Eckert-Mauchly賞を受賞します。

3月にSanta ClaraのホテルでHPC in Japanという小さなワークショップが開かれ、日本のHPCの現状をアメリカのHPCの重鎮やジャーナリストに開示しました。私はCP-PACSについて講演しましたが、質問は全部地球シミュレータについてでした。地球シミュレータについての講演がなかったからでしょう。

ヨーロッパを舞台に1993年から開かれているHPCN Europeは、4月にWienで開催されましたが、いよいよ風前の灯です。

6月のTop500ではASCI Redが登場し、前年11月にTopを取った筑波大学のCP-PACSは2位に転落しました。新登場したT3Eの進出も目覚ましく、上位20件のうち9件を占めます。

次回は「国際会議(後半)」で、私が参加したPC'97などについて書きます。SC97はその次に。

ご笑覧を感謝いたします。総目次は https://www.hpcwire.jp/new50history です。

小柳義夫

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Jul 24, 2023, 10:25:49 PM7/24/23
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HPC界のみなさま

二十世紀の語り部小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、1997年に開催された国際会議について書いています。先週と今週の記事を紹介します。「国際会議(1997年後半)」および「SC97(その一)」です。

ヨーロッパとアメリカが共同で交互に開催している計算物理の国際会議PC'97が、UC Santa Cruzを会場として開催され、私も出席してCP-PACSについて講演しました。このころ私は、「並列処理のEvangelist」とかおだてられてそこら中でCP-PACSについて講演しています。CP-PACSの安定性、分割運転、将来計画など多くの質問が出ました。またASCI計画の関連では全体講演が7件もあり、熱心な議論が行われました。

10月にSan Joseで開催されたMicroprocessor Forum 1997では、Intel社とHewlett-Packard社が共同開発しているIA-64命令セットアーキテクチャの詳細が開示されました。でも初代のMercedの開発は遅れに遅れています。

私はプログラム委員会で反対したのですが押し切られ、SC97は500語のアブストラクトで論文募集しました。案の定これは大失敗でした。教育プログラムK-12ではプルトニウムを発見したDr. Glenn Seaborgが講演しました。

日米スーパーコンピュータ摩擦が激しくなっていましたが、日本の3社(日本電気、富士通、日立)は堂々と企業展示に参加しました。今年はなんと Compaq も出展しましたが、翌年のDEC買収の伏線だったかもしれません。

State-of-the-field talk(各分野の最先端講演)で、J.L. Hennessyは5-10年後にベクトルコンピュータは消滅すると述べましたが、5年後に巨大ベクトルコンピュータである地球シミュレータが登場して、世界を驚かせます。

もう一つのState-of-the-field talkでは、Ken Kennedyが、HPCの並列処理、特にHPFについて、「グランドチャレンジが技術を無視して性能を求めたことが失敗の原因である」と断じました。これは議論のあるところでしょう。

次回は「SC97(その二)」です。アーキテクチャやPACIに関するパネル、Gordon Bell賞、Sidney Fernbach賞、Top500など。

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Aug 6, 2023, 10:01:21 PM8/6/23
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HPC界のみなさま

二十世紀の語り部小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、本日公開の第150回で、1997年の記述を終了しました。ご笑覧に感謝します。先週と今週の記事を紹介します。「SC97(その二)」と「アメリカの企業の動き」「ヨーロッパの企業」「企業の創業・終焉」です。

SC97のアーキテクチャに関するパネルでは、Hennessyが「メモリのモデルとして、一様だが遅いSMPか、自分のメモリは速いが他のメモリは遅いDSMか、である」とSunのStarfire (E10000)をけなしたので、Greg Papadopulosが噛みつきました。

PACIに関するパネルでは、NSFのHayes Panelの一人から、予算の総額がgivenだったので、二センターに絞らざるを得なかったが、科学の発展のためにはfixed budgetではだめだ、と述べました。

聴衆の意見を聞くTown Hall Meetingsとしては、「インターネットに関して」「PITACに関して」「SC会議の今後に関して」の3件が開かれ、インターネットに関するTHMでは、メタコンピューティングの重要性が強調されました。

原著論文では、HPFに関する論文が4件採択され、その実用性が議論されました。

Gordon Bell賞のfinalistsはASCI Redのオンパレードで、日本からは一つも通りませんでした。

Top500のトップ20位までの22件では、9件が新顔で、内6件はT3E 900でした。SGI/CrayとしてはOriginとT3EをSN1として統合する計画でしたが、2000年にはCray部門がTeraに売却され、Crayは独自に進化を遂げます。

CPUの高性能化が進みます。Intel社はPentium IIを、Sun社はUltraSPARC IIを発売します。

Tera社のMTAはついに稼働し、SDSCに設置されることが決まります。ISベンチマーク(1プロセッサ)でT90やVPP500を凌駕しますが、プロセッサ当たり4KWの電力消費は大問題です。早くCMOS化しないと。

ヨーロッパでは、Meikoの技術を継承したQSW社は、高速相互接続網のベンダとして羽ばたき、一時Top500の上位で活躍します。

分散コンピューティングのEntropia社が設立されます。グリッドの時代の幕開けです。

次回は1998年(a)で、8月28日公開予定です。ご笑覧を感謝いたします。総目次は https://www.hpcwire.jp/new50history です。

小柳義夫

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Aug 27, 2023, 9:09:15 PM8/27/23
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二十世紀の語り部小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、1997年分の終了後お盆休みをいただいておりましたが、本日1998年分の連載を始めました。7回掲載の予定です。ご笑覧に感謝します。今週の記事を紹介します。

ACMとIEEE/CSが共同して運営するEckert-Mauchly Awardは、「多重ベクトルパイプラインとプログラム可能なベクトルキャッシュをもつスーパーコンピュータのアーキテクチャ設計」への寄与に対して、日本電気のSXシリーズの設計者である渡辺貞氏に授与されました。政治での日本たたきへの逆張りという意味もあったのかと思います。

地球シミュレータの開発中核機関として動燃が抜け、原研が加わりました。日本電気は、ピーク32 TFlops以上のスーパーコンピュータを開発すると正式に発表しました。私が座長を務めた中間評価委員会において、いろいろ意見は出しましたが、開発OKと結論しました。

JSTは、日本で初めての(分野を問わない)計算科学技術の応募制研究プロジェクトACT-JSTを始めました。その課題の中には、現在のHPCIの研究課題につながるものも、またデータ科学につながるものもあります。委員長は土居範久氏。

学術振興会未来開拓事業「計算科学」は、第1回計算科学シンポジウムを開催します。

期間10年の後半に入ったRWCP(新情報処理開発機構)では、PCクラスタの実用化に進みます。このころMyrinetやQuadricsなど高速な相互接続網が出てきます。

来週は1998年(b)で、日本の大学センターの動き、学界の動き、国内会議(Hokke、INSAM、JSPP、SWoPPなど)です。各社の主宰する研究会/シンポジウムも盛んです。ご笑覧ください。総目次は https://www.hpcwire.jp/new50history です。

小柳義夫

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Sep 10, 2023, 10:07:26 PM9/10/23
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二十世紀の語り部小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、先々週から1998年分の連載を始めました。先週と今週の記事を紹介します。日本の大学センター、学界、国内会議、日本の企業の動き、標準化などです。ご笑覧に感謝します。

前回も書きましたが、日米貿易摩擦の中での、渡辺貞氏(日本電気)のEckert-Mauchly賞受賞は快挙でした。また高田俊和(日本電気基礎研究所)は化学反応の分子の動きを3次元で見ることのできるVRMSを公表しました。残念ながら高田俊和氏は2022年9月に亡くなられました。

このころ西森秀稔(東工大)は量子アニーリングのアイデアを発表しました。翌1999年、これを実用化するために、カナダのベンチャー企業D-Wave Systems社が創業します。このころ、DNAコンピューティングも盛んに研究されていました。

5回目のPSC98は、4種の並列プラットフォームの上で疎行列連立方程式の解法を競いましたが、上位入賞者が固定化してきました。SWoPP98では、雨のおかげで長岡花火大会に参加できました。

日本電気はSX-5を、日立はSR8000を発表しました。富士通にも次期機種の噂が。

MPI-2の規格書がIJHPCA誌の合併号として発表され、解説書も発行されます。HPFについては、日本のJAHPFがHPF 2.0の言語仕様書の日本語訳を公開します。また、HUG’98がPortoで開催されました。他方OpenMPでは、C/C++のためのOpenMPが公開されます。

企業連合による標準化されたUnix(とくにIA-64向けの)を開発しようとするProject Montereyが、IBM、SCO、Sequent、Intelにより始まりました。他方、Linuxも商用化の道を進み始めます。

来週は1998年(d)で、アメリカ政府の動き、日米スーパーコンピュータ摩擦、各国政府の動きなどです。ご笑覧ください。総目次は https://www.hpcwire.jp/new50history です。

去る9月8日(金)に、前のシリーズ『HPCの歩み50年』(2014年~2020年、全222回)https://www.hpcwire.jp/50history
の掲載完了記念パーティを催していただきました。コロナで3年延びました。ありがとうございました。

小柳義夫

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Sep 24, 2023, 10:12:20 PM9/24/23
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二十世紀の語り部小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、1998年の5回目となりました。先週と今週の記事を紹介します。「アメリカ政府の動き」「日米貿易摩擦」「その他の政府関係の動き」「世界の学界の動き」「国際会議」などです。

アメリカ政府は、Gore副大統領を中心にHPCやネットワークや基礎研究に莫大な予算を注ぎ込み、戦略的に推進しています。1996年末に設置されたASCI Redに続いて、3 TFlops級のASCI Blue Pacific (LLNL)とASCI Blue Mountain (LANL)が動き出しました。前者が搬入されたときには、Gore副大統領直々に歓迎のメッセージを出しました。村上氏が当時の新聞記事をコメントでいくつか紹介してくださいました。

ところが、11月のTop500の締め切りまでに、前者は3セクターのうち1セクターしか動かずRmax=547 GFlops、後者も、幾晩も徹夜したにもかかわらず690.9 GFlopsしか出ませんでした。1 TFlops級のASCI Redが相変わらず1位を保っています。SGI社はSC98の会期中に記者会見を開き、「実はすでに1.61 TFlopsの性能を実測した」と負け惜しみを述べました。ところが、翌1999年6月には、ASCI Redも増強したので、1位は取れませんでした。

他方NSFのPACIプログラムでは、旧4センターの内、SDSCとNCSAをそれぞれ中心とする2グループが採択されましたが、Pittsburghも全国レベルのセンターとして生き残りました。Cornellは学内センターに転換しました。

NCARは1996年に入札でSX-4導入を決定しましたが、連邦下院議員が政治介入し、契約を中断させました。商務省はCray社(当時はSGIの子会社)からの提訴をうのみにし、1997年にダンピングを認定し、入札は白紙となりました。日本電気はITC(米国際貿易委員会)に訴えましたがダンピングの判定が出たので、CIT(国際通商裁判所)に訴え、こちらは根拠不十分としてITCに差し戻しましたが、1999年、ITCは再びダンピングを判定します。他方、これに対し日本電気は、米国憲法修正第5条に反するとしてCAFC(連邦巡回区控訴裁判所、特別な二審裁判所)に訴えましたが退けられ、最高裁に上訴しました。いよいよ泥沼です。

国際会議はますます増えています。私が出席したものはわずかですが、他の会議も残っている資料から紹介しています。省電力チップに関するCOOL Chipsが、HOT CHIPS対抗のようですが日本で始まりました。6月のTop500では、トップ20位までの21件のうち、新顔が10件で、ほとんどがT3Eであるところが印象的です。3日目となるHPC Asia 98はシンガポールのRaffles City Convention Centre において開催され、Sid Karinは基調講演でスーパーコンピュータと他のコンピュータとの連続性を強調しました。

次回はOrlandoのSC98です。

わたくしごとですが、本日80回目の誕生日です。ご愛読に応えて、ボケない限り書き続けますので、よろしくお願いします。少しボケかけていますが。

小柳義夫

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Oct 9, 2023, 6:38:43 AM10/9/23
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二十世紀の語り部小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、今週で1998年を完了いたしました。先週と今週の記事を紹介します。「SC98(Orlando)」「アメリカの企業の動き」「ヨーロッパの企業の動き」「中国の企業の動き」「企業の創立」「企業の終焉」です。

第11回目にあたるSC98は、第1回と同じOrlando(フロリダ州)で開催されました。筑波大学CCPは初めて研究展示を出しました。電総研と続きの場所を取り、Tsukuba HPC Allianceと称してミニプレゼンなどを行いました。記事には1995年に筑波大学が初めて出展したと書きましたが、私の記憶違いのようです。慶応義塾大学SFCの村井純教授は、展示会場から母校の授業を行ったそうです(アメリカでは夜です)。

アメリカではGore副大統領が先頭に立って推進しているHPCCの進展を見て、HPCでもネットワークでも、日本は遅れていると焦燥感を感じました。

3 TFlops級のはずのASCI Blue Mountain/Pacific はTop500に登場しましたが、1 TFlops級のはずのASCI Redの後塵を拝しています。Top10から日本設置のマシンが消えました。Gordon Bell賞でも、少し前はNWTやGRAPEが続々入賞していましたが、今やDOE一色です。

さて、SGI社はベクトルコンピュータCray SV1を発表し、出荷しましたが、その後の改良型でも最大ピーク性能64 GFlopsで、Top500には一度も載りませんでした。SX-4は20位以内に2台も入っているのに。他方MPPでは、バンド幅を増強したCray T3E1200Eなど高性能機満載です。SGIは今後どうする気か?

IBM社は完全64ビットのPOWER3とそれを搭載したWSを発表します。MPPは翌年です。

Sun Microsystems社はE10000(コード名Starfire)を500台も販売しています。次はSerengetiです。

Intel社は、サーバ用に、Pentium II Xeonを発表、発売しましたが、IA64(Merced)は遅れに遅れています。サーバ各社は、みなIA64ベースに次期システムを設計しているのに。

DEC社はCompaq社に買収されましたが、Alphaの高性能化は続き、Alphaを搭載したCray T3Eも順調です。

1999年には、各プロセッサがGHzの壁を破るべく突進します。

Tera Computer社のMTA-1は、年末に4プロセッサがSDSCに設置されます。現実問題の不規則アクセスにはMPPよりMTAの方が適していると主張しています。GFlops当たり4kWの電力はちょっと問題ですが。

この年、Google社、VMware社、Avaki社(の前身)、DDN社などが創業されています。

さて次は1999年、世紀末も近づいています。情報科学技術部会は最終答申を出すとともに、「先導プログラム」が始まります。クリントン政権は、PITAC報告を受けて「21世紀の情報技術」イニシアティブを提唱します。

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小柳義夫

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Oct 15, 2023, 11:33:07 PM10/15/23
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HPC界のみなさま

二十世紀の語り部小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、今週から1999年に入りました。世紀末まで残すとこあと1年。ノストラダムスの大予言が話題になりました。今週の記事をご紹介します。「社会の動き」「地球シミュレータ計画」「日本政府の動き」です。

1997年から始まった科学技術会議の情報科学技術部会は、諮問25号「未来を拓く情報科学技術の戦略的な推進方策の在り方について」に対する答申を出しました。私は議論の中で、2010年ごろを目途にペタフロップスを実現することの必要性を力説し、一応文言は入りましたが、委員たちの支持は強くありませんでした。ネットワークを主軸とする情報化社会の方に注目が集っていました。

同じく1997年に始まった未来開拓「計算科学」は中間評価を受けましたが、忘れもしない1986年のQCDPAXプロジェクト提案のヒアリングで「速い計算機を作りたいのか、物理を研究したいのか、どっちかはっきりしろ」と詰問して提案をつぶした時の長倉先生が評価部会長だったので思わず身構えました。幸いこのときは好々爺でした。中間評価委員会からは、「なんで汎用の計算機を買うのでなく、専用の計算機やプロセッサを開発するのか」という根本的な質問が出されました。そこで、単にショーウインドーに並んでいる計算機を買ってくるだけでは最先端の研究はできない、今の言葉でいえば「コデザイン」が必要だと主張しました。

日本学術振興会の国際科学協力事業のためのチェコ訪問団に加わり、プラハの大学、研究所、教育省などを訪問しました。チェコは初めてで、カレル橋からモルダウ(ヴルタヴァ)の流れを眺め、古城ヴィシェフラドの廃墟を散歩しながら、スメタナの組曲『わが祖国』を思いました。

客員研究員としてお手伝いしていた日本原子力研究所計算科学技術推進センター(目黒)では、並列数値計算のライブラリを開発していましたが、その名称を所内の研究員から募集しました。SAMMA(「目黒」だからか)などという面白い案もありましたが、PARCELに決まりました。

さて次は日本の大学センターと学界の動きです。大学センターを結んでいたN-1ネットワークが、2000年問題が原因で停止し、TCP/IPに移ります。

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小柳義夫

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Oct 30, 2023, 9:00:23 AM10/30/23
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このころ、7つの大型計算機センターは名称を変更しました。東大は教育用計算機センター等と合併して「情報基盤センター」です。大型計算機センターを各大学のセンターの汎用計算機と接続していた日本独自のN-1ネットワークは、2000年問題に対応できないため、1999年10月運用を停止しました。

星野研究室で1990年に完成し、筑波大学計算物理学研究センターに移管されて稼働を続けていたQCDPAXは、故障や経年劣化を縮小構成でカバーしてきましたが、ついにシャットダウンとなりました。私にとっても思い出深いマシンでした。東工大の松岡研究室ではPRESTO IIが完成します。

11回目となるJSPP'99は、エポカルつくばで開催されました。地球シミュレータの完成を前に、松野太郎氏が「気象・気候の数値シミュレーション」という基調講演を行いました。PSC99は6基のプラットフォームの提供を受け盛況でしたが、入賞者の固定化が目立ちます。

富士通は最後のベクトルスーパーコンピュータVPP5000を発表します。

日本でのADSLサービスはこの年に始まっています。

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小柳義夫

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Nov 12, 2023, 4:14:30 PM11/12/23
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1999年のHPC(その三)
二十世紀の語り部小柳義夫です。現在、SC23(11/12-17)が開催中のDenverにおります。こちらはまだ12日(日曜)の昼です。午前中はSustainable HPCのWSに出ましたが、問題の整理がまだできていないようです。

電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、すでに1999年に入っています。6日「-1999年(d)-」と13日「-1999年(e)-」の記事をご紹介します。「標準化」「「アメリカ政府の動き」「日米貿易摩擦」「アジア太平洋の政府関係の動き」「ヨーロッパの政府関係の動き」「世界の学界の動き」です。

HPF合同検討会 (JAHPF)は、日本語版「High Performance Fortran 2.0 公式マニュアル」を出版しました。HPFの運命や如何に?

SC98におけるBoFで提案された」Grid Forumに主としてアメリカから100名が結集しました。ヨーロッパでもアジアでも動いています。

IEEEは、2.4 GHz帯に続いて5 GHz帯の無線LAN規格を制定しました。

アメリカでは、PITAC第1会期の最終報告書が提出され、クリントン政権はこれに基づいて「21世紀の情報技術IT2」イニシアティブを推進します。

ASCI Blue Mountainに続いて、ASCI Blue Pacificもフルシステムが稼働し11月のTop500で目出度く2位となりましたが、1 TFlops級であったはずのASCI RedがプロセッサをPentium IIに変えて1位をキープしています。

NSF関係では、PACIプログラムに採用されたNCSAとSDSCは資源を整備していますが、採用されなかったPittburghセンターもしぶとく頑張ります。

日米摩擦では、連邦最高裁も理由なく日本電気の訴えを棄却し、ITCも再び被害を認定します。日本電気はもちろん、富士通も強烈に反発します。

筆者はシンガポールとスイスのスーパーコンピュータ組織の外部評価に加わりました。外国の事情を見ると、日本にも参考になることがたくさんありました。ワインのテイスティングも。

SETI@homeが有名になりましたが、グリッドといえば「遊休グリッド」だという誤解も広がりました。SETI@homeのスクリーンセーバを記事に貼り付けましたが、クリックすると動きます。元々Wikipediaにあったものです。

そろそろMooreの法則の行き止まりが見えてきました。

BostonのThe Computer Museumが閉鎖され、西海岸Moffett Fieldの支所に収蔵品が移されます。

今週はSC23でしたので、20日はお休みし、次回は27日に公開します。1999年中の国際会議の話題です。

ご愛読を感謝します。総目次はhttps://www.hpcwire.jp/new50historyです。

小柳義夫

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Dec 3, 2023, 7:51:12 PM12/3/23
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1999年のHPC(その三)

二十世紀の語り部小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、すでに1999年に入っています。先週11月27日および本日12月4日の記事をご紹介します。先週は国際会議一般、今週はSC99のその一です。

私自身も参加した2月の第2回Petaflops会議(Santa Barbara)は非常に印象的でした。このままでは日本が取り残されるという危惧を感じました。

現在所属しているRISTは、ハワイ州立大学東西交流センターを会場に“International Workshop on Next Generation Climate Models in the Advanced Computing Facilities”を開催しました。2002年に完成予定の「地球シミュレータ」をにらんでのWSです。

6月10日に発表された第13回目のTop500リストでは、1位にはPentium IIに差し替えたASCI Redが、2位にASCI Blue Mountain (LANL)が、8位にASCI Blue Pacific CTR (LLNL)が揃いました。でもASCI Blueたちはまだ本調子とは思えません。日本設置では東大のSR8000/128が4位に、産総研のSR8000/64が12位に入ります。

樋渡保秋教授(金沢大学理学部)の尽力により第5回のICCP(計算物理国際会議)を日本に招致し、10月金沢で開催しました。その後、アメリカ物理学会とヨーロッパ物理学会が共同して開催しているCCPと合流します。

StarFireのユーザ会とも言うべきSUPerGが10月オーストラリアのシドニーで開催され、わたしも参加しました。HPCよりビジネス利用の方が主流でした。

オレゴン州Portlandで開催されたSC99には参加できませんでしたが、多くの方のレポートから会議の様子を紹介します。

招待講演において、Dona Crawford (SNL)は、「ASCIでは数年後に100 Teraflops級のマシンの導入が予定されており、100 Gbit/secのWANが必要である」と述べました。またAndrew A. Chien (UCSD)は、LinuxではなくWindows NTを搭載したsuper clusterの重要性を強調しました。

さて、次回はSC99のその二で、パネル、BoF、Top500などです。

ご愛読を感謝します。総目次はhttps://www.hpcwire.jp/new50historyです。

小柳義夫

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Dec 18, 2023, 7:59:21 PM12/18/23
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1999年のHPC(その五)

二十世紀の語り部小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、12月18日に1999年を終了しました。先週と今週の記事をご紹介します。SC99の「その二」と、アメリカの企
業の動き、その他の企業の動き、企業の創業と終焉です。

11月19日(金)のパネルの一つ“Meet the CTOs”では、日米スーパーコンピュータ9社のCTOがパネリストとして、各社の製品の動向を解説しま
した。米国メーカはそれぞれ個性豊かなプレゼンを行っていたのに対して、日本の会社は「くそ真面目」(失礼)な説明を行いました。

Gordon Bell賞は、Peak Performance 1件、Price/Performance 1件、Special
2件がfinalistsとしてプレゼンを行いましたが、全部をしかもすべて1位として表彰しました。HPC Gamesでは、電総研を含む欧米日の合同チーム
が最高賞を取りました。

Top500では、相変わらずASCI Redが1位を保持し、ASCI Blue PacificとMountainがそれに続きました。本当は逆のはずで
す。東大のSR8000は5位、京大のVPP800は15位でした。台数では、初めてIBM社がトップとなり、SGI/Crayを抜きました。もちろ
んRmaxの累計では依然SGI/Crayがトップです。

遅れに遅れていたIntel社のIA-64プロセッサMerced(コード名)は、7月にtape-outしたと発表され、10月にはItaniumという名
称も発表されました。Monterey/64はMerced上で動く最初の商用Unixと発表されましたが、Linuxや64-bit Windowsも動いてい
るとか。2000年半ばに量産が始まるとのことですが、みな眉につば。Compaq社は情勢を見て、自社版のUnixであるTru64
UnixをMerced上で稼働させる計画を中止しました。

他方AMD社は、10月、64ビットプロセッサSledgeHammer(コード名、後のOpteron)のOSとして、x86アーキテクチャの64ビット拡
張であるx86-64を発表しました。TFPと呼ぶ新しい浮動小数命令(対応するレジスタ)も入っています。Intel社はこれを「革新性がない」と批判しました
が、結局この路線に乗ることになります。

IBM社は前年発表したPOWER3を搭載した並列コンピュータRS/6000 SPを発表しました。さらに10月にはPOWER4プロセッサを発表しま
す。Merced対抗と報じられました。12月、同社はBlue Geneという超並列コンピュータをMD用に開発すると発表しました。1 PFlopsで500
GBメモリというあまりの常識外れに驚きました。SGI副社長も「この提案は珍奇であり、実現は疑わしい。」「今まで馬鹿でかい数のCPUをもつ大規模コンピュー
タはしばしばアナウンスされて来たが、実現したものは少ない」と批判しています。さて、どうなるか?

Burton SmithのTera Computer社はついに8プロセッサのMTAをSDSCに設置し、SDSCは16プロセッサへのアップグレードを発
注しました。CMOS版のMTA-2のプロセッサもtape-outと発表されます。お金も集まっています。

Grid関係ではParabon Computation社とUnited Devices社とGridware社が創業されます。イスラエルで
はMellanox Technologies社が、ハルマゲドンで有名なメギド山の近くで発足します。特記すべきことは、量子アニーリングに基づく量子コン
ピュータを開発するために、カナダでD-Wave Systems社が創業されたことです。2011年にD-Wave Oneを発表します。

さて、次回は1月で、二十世紀最後の年2000年に入ります。Tera Computer社は、SGIからCray Divisionを名前ご
と買い取り、Cray社と改名します。

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小柳義夫
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Jan 8, 2024, 11:19:37 PM1/8/24
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2000年のHPC(その一)

二十世紀の語り部小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、本日から2000年に入りました。20世紀最後の年です。今号は、「社会の動き」「地球シミュレータ計画」「日本政府の動き(その一)」です。

「社会の動き」は、読み飛ばされている方が多いようですが、私としてはかなりリキを入れています。この年、小渕首相が緊急入院して内閣総辞職となりました。ノーベル賞は注目です:物理学賞にJack Kilby博士、化学賞に白川英樹教授、平和賞は金大中氏。京都賞はHoare教授です。

地球シミュレータは本体製作に入りました。谷啓二氏など関係者は、40 TFlopsの性能を世界中に発信していますが、「ベクトルで40テラ、まさか?」とあまり本気にされなかったようです。応用ソフトウェアの開発も進んでいましたが、岩崎洋一教授があるソフトの評価委員会から帰ってきて「超並列の怖さが分かっていない」と憤慨していたことを記憶しています。

政府の動きでは、国家産業技術戦略検討会の情報通信分野の戦略には、気象予測のスーパーコンピュータ性能を1000倍という数値目標が入っていましたが、内閣のIT戦略本部ではHPCに重点が置かれませんでした。HPCはITでないのか?!

文部省学術審議会に特定研究領域推進分科会情報学部会が設置され、提言に「新たなアーキテクチャに基づく超高速・超大容量計算機システムの実現に関する研究を推進する。」と入れることに成功しました。

情報科学技術部会の諮問第25号への答申のささやかな成果である振興調整費「情報科学技術」では、3つの課題が5年計画で始まりました。私は、「科学技術計算専用ロジック組込み型プラットフォーム・アーキテクチャに関する研究」(代表、村上和彰)の研究計画策定WGの主査を務めました。分子軌道計算専用のLSIを開発したのですが、汎用CPUの進歩との競争に苦戦しました。LSI開発のためにアルゴリズムを改良すると、汎用CPUでも速くなるというジレンマも。

国立情報学研究所は4月、一ツ橋に開設されましたが、猪瀬博所長は10月に心臓疾患でなくなられました。

さて、次回は学会誌『情報処理』上で、Interactive Essay「これでいいのか? 日本のスパコン」が激論を交わします。

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小柳義夫

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Jan 21, 2024, 8:51:48 PM1/21/24
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2000年のHPC(その二)

二十世紀の語り部小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、1月9日から2000年に入っています。先週と今週の記事をご紹介します。「日本の政府関係の動き(続き)」「日本の大学センター等」「日本の学界の動き」「国内会議」です。

JSTの異分野交流研究会「20年後のエレクトロニクス」に招かれ、「10年後までにペタフロップスが実現することは予測できるが、20年後のエクサフロップスなんて現在の技術の延長線でできるとも思えない」などと話しました。でも2022年6月のTop500ではFrontierがエクサに到達しました。

アメリカのQCDOCプロジェクトに理研が参加するかどうかの評価委員を依頼されました。委員長の宮村修教授は悩まれたと思います。記事では大阪大学と書きましたが、すでに広島大学理学部に移っております。あとで訂正します。

私は当時知らなかったのですが、「スーパーコン大プロ」(1981~1989)の終了10年後の追跡評価が行われ、「要素技術は日本の産業に色々貢献したが、ベクトルにこだわって並列処理に乗り遅れた」と評価しました。当たっている面もありますが、2年後には超並列ベクトルの地球シミュレータが世界を驚愕させます。

情報処理学会からHPS論文誌が発刊され、私は第1期の編集委員長を務めました。「情報処理」では、Interactive Essay「これでいいのか? 日本のスパコン」の議論が飛び交いました。

この頃、ATIPは六本木の事務所の脇のセミナー室(Glocomホール、ハークス六本木ビル)で、しばしばビッグネームを呼んでセミナーを開催しました。

量子コンピュータについては「量子ビットの制御」がやっとできるかどうかという段階でしたが、気の早い物理屋さんたちは早速研究会を組織しました。

早稲田で開催されたJSPP2000では、笠原氏の司会でスーパーパネル「ペタフロップスへの道」が企画され、私も参加しました。

さて、次回は「日本の企業の動き」と「標準化」です。OpenMP 2.0のFortran版が公開されます。

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小柳義夫

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Feb 4, 2024, 8:57:12 PM2/4/24
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2000年のHPC(その三)

二十世紀の語り部小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、2000年分の中ほどに来ました。先週と今週の記事をご紹介します。「日本の企業の動き」「標準化」「アメリカ政府関係の動き」「その他の動き」などです。

お気づきと思いますが、二三年前に関する記事からHPCwire記事(英語版)へのリンクを本文中に可能な限り入れるようにしました。わたしの記録との比較では、修正はないようなので、同時代の1次資料として価値が高いと思います。もちろん誤報の可能性もあります。URLが見つからなかったものもありますが、ご存じでしたらお教えください。

日本電気はクロックを4 nsから3.2 nsに短縮した新モデルのSX-5を発表します。翌年には地球シミュレータ(SX-6相当)の設置が始まります。日立はIBM互換メインフレーム事業からの転換を発表します。NEC日立メモリはエルピーダメモリに社名を変更し再起を図りますが、2012年には破綻します。政府主導の産業戦略の失敗例といわれます。Rapidusは大丈夫でしょうか。

標準化ではFortranのためのOpenMP version 2.0が公開され、HPFでは第4回のHUG2000が東京で開催されます。企業連合による標準化されたIA-64用のUnix OSの合同開発プロジェクトMontereyがもたついている間に、勢いを増したLinuxがIA-64にもx86-64にも対応します。

Gridでは、北米のGrid Forumと、ヨーロッパのeGrid Forumと、アジア太平洋地域のAP Gridとが統合してGlobal Grid Forumが結成することが決まり、翌年GGFの第1回が開かれます。

クリントン米大統領はインターネットなどコンピュータ関連技術と生命科学の研究費を大幅に増額します。ASCIの第3世代ASCI Whiteが稼働し、第4世代ASCI QがCompaqに発注されます。NERSCは隣町Oaklandに計算センターを設置し、SP POWER3を設置します。DARPAはエクサフロップスへの夢物語を語り始めます。NPACI(SDSC)でもSP POWER3が設置され、11月のTop500で8位に入ります。NSF PACIに入れなかったPSC(Pittsburgh)もNSF予算を得て、事実上の第3センターの役を果たし始めます。

Kevin (Mitnick)を1か所「Mevin」と誤記しました。「発想」→「発送」という誤変換もあります。

中国で最初のスーパーコンピュータセンターとして、上海スーパーコンピュータセンター(上海超級計算中心)が設立され、神威1号が設置されます。国防科学技術大学では銀河4号が発表されます。張汝京 (Richard Chan)は上海でSMIC(中芯国際集成電路製造有限公司)を設立します。TSMCとの関係は?

集積回路を発明したJack St. Clair Kilby博士がノーベル物理学賞を受賞しました。

ヒトゲノム計画については、国際協力によりドラフト版が完成し、6月26日、ビル・クリントン米国大統領とトニー・ブレア英国首相から鳴り物入りで発表されました。

SETI@homeに続く遊休グリッドの話題が二つ出ています。「PiHexプロジェクト」については高橋大介氏に教えていただきました。

余談として、家内が翌年の9.11を、「予言」と言わないまでも「予感」していた話を書きました。

さて、次回は「国際会議」です。ご愛読を感謝します。総目次はhttps://www.hpcwire.jp/new50historyです。

小柳義夫

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Feb 18, 2024, 9:19:30 PM2/18/24
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2000年のHPC(その四)

二十世紀の語り部小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、20世紀最後の年2000年の後半に来ました。先週と今週の記事をご紹介します。先週は世界中の「国際会議」で、今週は「SC2000」です。国際会議は山ほどありましたが、私が出席したのは4件だけで、外国での会議は3件です。

アナログ時代から続いているISSCC 2000は47回目で、GHz級のマイクロプロセッサのオンパレードでした。この動きはさらに加速します。

北京の友誼賓館で開催されたHPC Asia2000では、Gordon Bell、Jack Dongarra、Ian Foster、Richard Stallmanのビッグネーム4人が基調講演をしました。Stallman氏とは、たまたま空港からタクシーで乗り合わせましたが、「Linuxばかり注目されているが、free software全体が重要なんだ」と力説していました。

6月Top500では、自作のクラスタはわずか3件でした。

8月、北京国際会議場で開催されたWCC 2000では、江沢民国家主席の毛筆の祝辞が配られただけでなく、開会式で本人が出席し開会講演を行いました。後半は英語で、「私も電気工学者だ」と胸を張りました。ただ、分科会は低調でした。

最後のHigh Performance Fortran User Group meeting が、ホテルインターコンチネンタル東京ベイホテルで盛大に開かれました。この後、HPFの話題は少なくなります。

SC2000の開会式の日にBush対Goaのアメリカ大統領選挙が行われましたが、too close to call で結果は1か月後でした。この会議では、今後のHigh Endコンピュータとして、BlueGeneと地球シミュレータの講演がありました。地球シミュレータの稼働は2002年、BlueGene/Lの稼働は2004年です。

パネル”Petaflops around the Corner”(ペタフロップスはそこまで来ている)では、パネリストが勝手なことを言っていました。また、GridというパネルとMegacomputersというパネルが接続する形で行なわれ、両者の関係や技術上の問題などが議論されました。

Gordon Bell賞のPeak Performance賞は、何と日本の2グループがタイで受賞しました。

11月のTop500ではついにASCI Whiteが登場しました。1位とはいえチューニング不足でとりあえず測った感じでした。

さて、次回は「2000年」の最後で、アメリカはじめ各国の企業の動きです。Intel社とAMD社のGHz競争が火花を散らします。ご愛読を感謝します。総目次はhttps://www.hpcwire.jp/new50historyです。

小柳義夫

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Feb 25, 2024, 8:23:22 PM2/25/24
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2000年のHPC(その五)
二十世紀の語り部小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、2000年の最終回になりました。二十世紀も終わるので次回からは「平成の語り部」を名乗ります。今週の記事をご紹介します。日本以外の企業の動きです。64ビットプロセッサが混戦状態です。

2000年の初頭からIntel社とAMD社は1 GHzのチップをめぐって競争しています。Intel社はItaniumの詳細を公表しますが、まだ量産体制には入りません。AMD社はOpteronという名前を発表します。
IBM社はPOWER4チップの詳細を発表するとともに、謎の超並列BlueGeneについて錯綜した情報が流れます。
Tera Computer社は、SGIのCray部門を買収するとともに、自社の社名をCrayに変更します。ビジネスは順調です。
SGI社はR12000を搭載したOrigin 3000を発表します。
Sun Microsystems社は、Solaris 8を発表しますが、ライセンス料を無料化し、顧客にはソースコードも提供して、Linuxに対抗します。プロセッサではUltraSPARC IIIを発売します。
Microsoft社の反トラスト法訴訟では、同社をOSの会社とアプリの会社に二分割せよとの命令が裁判所から出ます。果たしてAT&T以来の大分割となるか?
中国で、検索エンジンの百度 (Baidu)が創立されます。

先週土曜日、TSMCの熊本第一工場の建物が竣工しましたが、TSMCの創業(1987)の事情については、https://www.hpcwire.jp/archives/57946
に一言書きました。なぜ、日本ではできなかったのでしょう。先ですが、2002年の記事には、日本でも
「2002年7月5日、半導体メーカ11社が計18.5億円を出資し、国費315億円を投入して、ASPLA (Advanced SoC Platform Corporation、先端SoC基盤技術開発)を千代田区に設立した。」という記事を予定しています。歴史は繰り返すのか?

さて、次回は「2001年」に入ります。「地球シミュレータ」の筐体が年内に設置されます。総目次はhttps://www.hpcwire.jp/new50historyです。ご愛読を感謝します。

小柳義夫

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Mar 3, 2024, 9:14:25 PM3/3/24
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2001年のHPC(その一)

 (「二十世紀の語り部」改メ)「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、今週から21世紀に入りました。今週の記事をご紹介します。「社会の動き」「地球シミュレータ計画」および「日本政府の動き」(その一)です。
 社会では、9.11同時多発テロをはじめ、さまざまな動きがありました。世界が変わった激動の一年でした。
 日本のHPC界にとって画期的なことは地球シミュレータの全筐体が搬入されたことです。しかし病床で「地球シミュレータセンター初代センター長」に就任した三好甫先生は、続々フロアに並ぶ筐体を一度も目にすることなく他界されました。ご冥福をお祈り申し上げます。
 文中で言及した地球シミュレータ後継ペタスケールコンピュータの三好構想について、リンクを忘れました(後で付記します)。http://www.hpfpc.org/miyoshi-sympo/proc/81-omoide1B.pdf
 これによると、プロセッサは50 nmテクノロジ、8 GHzで256 GFlops、ノードは8 TFlops、8 TB、システム性能は8~12 PFlops、2009年3月完成とあります。ベクトルとは明記されていません。ちなみに「京」は、45 nmテクノロジ、2 GHzで、プロセッサは8コアで128 GFlops、システム全体では88128プロセッサ、ピーク性能11.28 PFlops、2011年完成でした。
 合わせて残念なのは、地球温暖化研究プログラム領域長としてアメリカから招へいした真鍋淑郎博士が、完成を待たずにアメリカに帰ってしまわれたことです。
 その他の政府関係の動きでは中央省庁の再編があります。新設の総合科学技術会議では情報通信プロジェクトが構想され、また科研費特定領域(C)が始まりますが、ネットワーク関係にばかり重点が置かれ、われわれが推進しようとした「超高速計算機システム」がのけ者になっていたのにはがっかりしました。スーパーコンピュータは情報ではないのか!! それでも学振未来開拓研究事業「計算科学」は5年目、ACT-JSTは4年目を迎え、またCREST「情報社会を支える新しい高性能情報処理技術」が始まります。

 さて、次回は「2001年(b)」で、「政府関係の動き」の後半と「日本の大学センター等」「日本の学界の動き」です。RWCPが終了するとともに、PCクラスタコンソーシアムが発足します。総目次はhttps://www.hpcwire.jp/new50historyです。ご愛読を感謝します。

小柳義夫

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Mar 17, 2024, 10:20:04 PM3/17/24
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2001年のHPC(その二)

「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、すでに21世紀に入っております。先週と今週の記事をご紹介します。「日本政府関係の動き(続き)」「日本の大学センター」「日本の学界」「国内会議」です。

 ITBLが始まりました。旧科技庁系の国立研究機関を高速ネットワークでつなぎ、計算資源やデータ資源の共用化、遠隔地との共同研究を可能とする仮想研究環境構築のプロジェクトですが、日本原子力研究所計算科学技術推進センター長 秋元正幸氏が、当初、「高速ネットワークを張って各研究機関のスーパーコンピュータの空き時間を活用すれば、計算資源など無限に沸いてくる」というような一般向け説明をしたので、われわれは「そんなことを言ったら、スーパーコンピュータ予算が通らなくなる」と眉を顰めました。

 新情報処理開発機構(RWCP)は2001年度が最終年度で、10月に最終成果報告発表会が開催され、多くのデモなどが行われました。「並列分散システムソフトウェアつくば研究室」の展示風景写真を載せましたが、ディスプレイに写っているのは、10月4日に発足した「PCクラスタコンソーシアム」の説明のようです。

 名古屋大学センターニュースの論壇に「サービスセンターから研究センターへ」という記事を書き、大型計算機センターは、利用負担金を取って資源を提供するというビジネスモデルだけでは早晩破綻すると警告しました。

 「グリッド」が一般のマスコミの話題となりましたが、記者たちもよくわからず、SETI、スーパーコンピュータ、ネットワーク、クラスタ、分散処理などがごちゃまぜになっているようです。

 友人島田俊夫氏の心臓移植の顛末について、公表された範囲で書きました。呼びかけ人の末席の一人として、多くの方々からの寛大な御拠金を感謝いたします。おかげさまで島田俊夫氏は2022年11月23日まで77歳の生涯を全うされました。

 三好甫先生が副理事長をしておられ、地球シミュレータのソフトウェアを推進して来たRISTは、このころ地球シミュレータ後の「次世代計算科学技術」について、中村壽氏などを中心に調査研究や広報活動を行いました。私も多少協力しました。ただ、この頃の記録がRISTのページに残っていないようです。

 HAS研(Hitachiアカデミックシステム研究会)は、21世紀の冒頭にあたり、「国産コンピュータ~その熱き誕生のドラマ」と題した特別シンポジウムを開催しました。

 8回目となるJSPP並列ソフトウェアコンテストは、並列処理技術の普及と促進、人材育成という当初の目的を果たせたとして、今回で終了することとなりました。出題のネタが尽きたという実情もありました。コンテスト参加者で現在中堅として活躍されている方も少なくありません。うれしいことです。

 故森正武先生を委員長として企画した第15回トヨタコンファレンス “Scientific and Engineering Computations for the 21st Century — Methodologies and Applications —” は、三ケ日研修所で開催されました。私も組織委員会の末席を汚しました。関連の一般向け公開講演会「計算科学は人類を救えるか?」は東京で開催されました。

 さて、次回は「2001年(d)」で、日本の企業の動きと標準化関連の動きなどです。総目次はhttps://www.hpcwire.jp/new50historyです。ご愛読を感謝します。

小柳義夫

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Mar 24, 2024, 8:55:48 PM3/24/24
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2001年のHPC(その三)

「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan
https://www.hpcwire.jp/ に掲載中の『新HPCの歩み』は、すでに21世紀に入っております。先週(c)と今週 (d)の記事をご紹介します。「国内会議」「日本の企業の動き」「標準化関係」「ネットワーク」です。

前年頃から私はRISTの「次世代型計算科学技術」関係のプロジェクトへの参加を依頼されて喜んで活動していましたが、これが「次世代スーパーコンピュータ」つまり「京」に向かう動きであることは、当時あまり分っていませんでした。

HAS研(Hitachiアカデミックシステム研究会)は、新世紀初頭ということで特別シンポジウム「国産コンピュータ~その熱き誕生のドラマ=新世紀に引き継がれる最先端技術開発の魂=」を開催しました。ビッグネームの方々が回顧講演をしました。聞きたかった。

8回続けて来たJSPP主催PSC(並列ソフトウェアコンテスト)は、所期の目的を果たしたとして今回で終了することとしました。「対象が分かりやすく(場合によって高校生にも)、並列化の工夫が楽しめ、規模や難易度の違う問題の生成が並列コンピュータ上で容易で、結果の客観的な評価ができるような問題」のネタが尽きたという事情もありました。

日本電気はベクトルコンピュータSX-6を発表しました。CPUは地球シミュレータと同じですが、筐体は全く違います。また地球シミュレータは、主記憶として富士通製のFPLという128Mbの高速DRAMを使っていましたが、商用版のSX-6では、通常の256MbのSDRAMを搭載しています。ヨーロッパやカナダを含め、多数設置されました。Cray社もOEMで北米に売ることになりました(後述)。

富士通がSPARC64に基づくスカラ型スーパーコンピュータを開発していると報道されており、ベクトルコンピュータの開発からいずれ手を引くのではないかという噂が出ていましたが、関係者は断固として否定していました。撤退が表明されるのは2002年1月5日です。

東芝はDRAMから撤退を表明しました。日本は各社とも厳しい収支予想で、人員削減が必至です。

ソニー・コンピュータエンタテインメント、IBM社、東芝の3社は、次世代のブロードバンド・ネットワークの基盤となる、汎用プロセッサCellの開発に着手すると発表しました。Supercomputer-on-a-chipではないかという観測もありましたが、私はこれがPFlopsを実現する世界初のマシンにつながるとは予想もしませんでした、

グリッド標準化では、世界を統合したGGF (Global Grid Forum)が活動を開始します。

日本で、三好甫先生を中心に進めていたJAHPF(HPF合同検討会)は終了を発表し、新たに高性能Fortran推進協議会を発足させます。

さて、次回は「2001年(e)」で、アメリカ政府の動き、日米貿易摩擦の行方、各国の動きなどです。新生Cray社が宿敵日本電気と劇的な提携を発表します。

総目次はhttps://www.hpcwire.jp/new50historyです。ご愛読を感謝します。

小柳義夫

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Apr 8, 2024, 9:35:56 PM4/8/24
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2001年のHPC(その四)
「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/ に掲載中の『新HPCの歩み』は、すでに2001年の後半に入っております。先週(e)と今週 (f)の記事をご紹介します。「アメリカ政府の動き」「日米貿易摩擦」「ヨーロッパ政府関係の動き」「その他の国の動き」「世界の学界の動き」「国際会議」などです。

日本電気は、スーパーコンピュータの対米ダンピングについて、連邦の通常の裁判所や連邦国際貿易裁判所などに訴えていましたが、すべて却下され、万事休すとなりました。ところが実は水面下でCray社との秘密交渉が進んでいました。

3月1日付の日本の朝刊各紙には、「NECスパコン、対立の大手に供給へ」、「NECクレイ社と提携」、「NEC“昨日の敵”と和解」などと衝撃的な見出しが躍りました。Cray社は日本電気のSX(実際はSX-6)を、Cray SXの名前でアメリカ、カナダ、メキシコなどにOEM販売することとなりました。1995年からの動きを年表の形でまとめました。

中国山東省の中国農業銀行に設置されたHPのSuperDomeが11月のTop500の148位tieに載り、中国設置コンピュータのTop500への初登場になりました。他方、曙光はDawning 3000(ピーク403 GFlops)を完成させ、金怡濂は「神威II(ピーク13.1 TFlops)」を完成します。また中国独自のCPU開発の龍芯プロジェクトが始まります。

量子コンピュータのニュースもいろいろ出ています。画期的だったのは、IBMが、5つのフッ素原子と2つの炭素原子から、7つの核スピンを持つ新しい分子を合成し、核磁気共鳴により7 qubitsの計算を行い、15=3×5 の因数分解ができたという「快挙」でした。実用化も遠くないか??

Hans Meuerが主宰してきたMannheim Supercomputer Seminarは、新世紀にあたりISCと改名し、Mannheim近郊のHeidelbergで開催されました。谷啓二は、地球シミュレータについて講演し、ピーク40 TFlopsのマシンにより、大気海洋相互作用と固体地球を解明しようとしていると述べました。Top500では、トップのASCI WhiteがLinpackでやっと7 TFlopsを出しました。それでもピーク比は59%です。

他方、第9回目のHPCN Europe 2001は、参加人数も減り、企業展示も少なく、会場も狭くなり、これが最終回となりました。

第5回目のHPC Asiaは、オーストラリアのGold Coastで開催されました。

さて、次回は「2001年(g)」で、同時多発テロ2か月後のSC2001です。
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小柳義夫

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Apr 22, 2024, 2:08:53 AM4/22/24
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2001年のHPC(その五)
「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、すでに2001年の後半に入っております。先週(g)と今週 (h)の記事は、同時多発テロのわずか2か月後にDenverで開催されたSC2001です。DenverにもミニWorld Trade Centerがあり、ちゃんとツインタワーになっていたので驚きました。

今年はテロの影響もあって、参加者は例年より若干少ないのではないかという感じでした。Technical Program参加者2017名、Exhibit onlyを含めて5277名の参加ということです。日本からの参加者は3割減というところでしょうか。

Grid技術のひとつであるAccess Gridを使って、SC2001のいくつかのセッションを「アンカレッジから南極まで」の世界中32か所に中継していました。リモートから発言もできます。今ならZoom等で当たり前ですが。

基調講演では、Craig Venterがヒトゲノム解析にHPCが重要な役割を果たしていることを強調しました。Jim GrayはSloan Digital Sky Surveyを例に、データグリッドの意義を述べました。

Top500ではいよいよ日本の影が薄くなっています。20位以内は、東大、阪大、高エネルギー研だけです。

Gordon Bell賞は、Grape-6の研究が5回目の入賞です。MDMの方は最終選考まで残っていましたが、受賞は逃しました。

印象的だったのは、Petaflops、ASCIそしてHPFの話が全く消えていたことです。ASCIやPetaflopsはすでに日常になってしまったようです。

最終日(金曜)にはいくつかパネル討論がありましたが、老人が言いたいことを言うというパネルがあり、まるで「抵抗勢力、全員集合」でした。200人を超す大盛況でした。わたしも老人として頑張ってメモを取りました。詳しく報告します。

なお、sc2001.orgのweb pageは現在すべてリンク切れですが、リンクは残してあります。

さて、次回は最終回「2001年(i)」で、国外の企業の動きです。HP社のFiolina CEOは、創業家の反対を押し切り、DEC社の遺伝子を持つCompaq社を買収します。

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小柳義夫

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Apr 30, 2024, 4:59:45 AM4/30/24
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2001年のHPC(その六)
「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、今週(i)で2001年を終了しました。今週の記事を紹介します。「アメリカの企業」「企業の創業・終焉」です。

IBM社はPOWER4を搭載したeServer p690 (コード名Regatta) を発表しました。これまでのSPとは異なり1ノード32コアまでは共有メモリです。複数のノード間の接続は当初Gigabit Ethernetですが、2002年にはColonyという高速スイッチが発売されます。

IBM社の「ぶっ飛んだ」超並列マシンBlueGeneは話を聞くたびに設計が変わるので雲をつかむようでしたが、LLNLとBlueGene/Lを開発するという発表がありました。だいぶ普通のマシンに近づいてきました。これが2004年に地球シミュレータを打ち負かします。

Cray社はこれまでSV2という名称で開発してきたベクトル計算機の技術情報を出し始めます。次の年X1という名称で発表します。MultithreadアーキテクチャのMTA-2は、4プロセッサのシステムが日本に出荷されました。翌年には40プロセッサのシステムが出荷されますが、この2台しか売れませんでした。

Microsoft社とSun Microsystems社は、1997年10月からJavaをめぐって裁判を続けてきましたが、2001年1月23日に和解が成立しました。両社とも自社の勝利と発表しました。

Microsoft社は反トラスト法(独占禁止法)の訴訟も受けており、前年2000年にはOS部門とアプリケーション部門に分割せよとの命令が出ましたが、これを控訴審で覆します。11月、3年にわたる反トラスト法訴訟は最終合意に達します。2002年11月、連邦地裁はこの和解案を承認します。アメリカもヨーロッパも、独占的地位を利用した市場支配には敏感に反応します。

Intel社はやっとItaniumを出荷しました。予定より2年も遅れており、すでに他のプロセッサに負けています。早くも次のMcKinleyに注目が集まりました。他方AMD社はx86路線をひたすら走っています。

カナダでは、OctigaBay Systems社の前身が創立されます。2004年にはCray社に買収され、開発していたFPGA搭載のマシンはCray XD1として出荷されます。

DEC社買収以来業績が低迷していたCompaq社は、Hewlett-Packard社に買収されます。ところがHewlett家もPackard家もこの買収に反対で、株主総会では両創業家の反対を押し切って僅差で可決します。Walter Hewlett取締役はDelaware州裁判所に提訴しますが、2002年5月初旬に裁判所が訴えを退け、迷走の末の合併はやっと完了しました。

次回(多分、再来週)から2002年です。地球シミュレータが世界を驚かせます。

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小柳義夫

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May 14, 2024, 1:19:32 AM5/14/24
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2002年のHPC(その一)
「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、今週から2002年に入りました。全13回の予定です。今週の記事を紹介します。

今年はISCが5月なので昨日2024年6月版のTop500が発表され、富岳が相変わらず4位などと報道されています。日本でTop500が社会的に大きな話題となったのは、2002年に「地球シミュレータ」が堂々トップを飾った時からです。それ以前にも、NWT(数値風洞、航技研)やSR2201(東大)やCP-PACS(筑波大)がトップを取っているのですが、日本において(アメリカやヨーロッパでも)それほど大きな話題にはなりませんでした。

社会の動きでも、多くの重大事件が起こっています。この年、小柴昌俊がノーベル物理学賞を、田中耕一がノーベル化学賞を、ダブル受賞しました。タマちゃんも出現しました。

地球シミュレータが稼働し、Linpackベンチマークが実行されました。当時は、Top500だけでなく、昔からあるDongarraらのLinpack Reportが随時更新されており、このデータはまず4月のReportに掲載されました。この結果は国内外で大きな話題となりました。4月20日付けのNew York Timesのトップ記事“Japan Supercomputer World’s Fastest”として掲載されるとともに、テクノロジ欄には“Japanese Computer Is World’s Fastest, as U.S. Falls Back”という解説記事が載っています。Dongarra教授は、インタビューで「これはまさにコンピュートニク(つまり、コンピュータのスプートニク)だ」という言葉を残しています。もちろん、Dongarra教授には前から地球シミュレータの技術概要を伝えており、「やっと出たか」というところだったでしょうが、ここで「コンピュートニク!」と驚いて見せることで、世界に、とくにアメリカ政界にショックを与えようとしたものと思われます。もちろん、6月のTop500でもダントツの1位でした。2023年11月まで連続4回トップの座をキープしました。

IBM関係者は、「Blue Geneができれば、簡単にやっつけられるのに」と悔しがり、Cray関係者は「Red Stormがもうすぐできる、見ていろ!」と刃を研いでいたものと思われます。11月にはエネルギー省長官がワシントンのプレスクラブで講演し、「米国は国家プロジェクトとして技術開発の遅れを取り戻し、再び世界一の座を奪還する」と発言し、「打倒、地球シミュレータ」を高らかに宣言しました。

次回は日本の政府関係の動きと大学の計算センターでの動きなどです。

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小柳義夫

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May 26, 2024, 9:23:43 PM5/26/24
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2002年のHPC(その二)
「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、2週間前から2002年に入りました。先週(b)と今週(c)の記事を紹介します。「日本政府関係の動き」「日本の大学センター等」「日本の学界の動き」「国内会議」です。

第2期科学技術基本計画に則り「新世紀重点研究創生プラン(RR2002)」が5年間の予定で始まりました。情報通信分野(ITプログラム)のプロジェクトでは、「世界最先端IT国家実現重点研究開発プロジェクト」が6件、「「eサイエンス」実現プロジェクト」が3件、計9件採択されています。今年度予算は369億円。

文部科学省は各自治体からの事業構想の提案に基づき、「知的クラスター創生事業」の実施地域として、12地域10クラスターを選定しました。また、「世界的研究教育拠点の形成のための重点的支援-21世紀COEプログラム-」を募集し、9月30日に113件を採択しました。私のいた、東大情報理工学系研究科から提案した「情報科学技術戦略コア」(リーダー田中英彦)も入っています。

航空宇宙技術研究所(NAL)は数値風洞NWTの運用を停止し、PRIMEPOWER HPC2500を中心としたCENSSシステムを導入しました。NWTは合計18回Top500に登場し、トップ4回、2位3回、3位1回でした。圧巻です。

経済産業省の「次世代情報処理開発機構(RWCP)」の最終評価を行うことになり、評価委員長を仰せつかりました。よい評価結果は出ましたが、通産省・経産省系の情報分野の大規模なプロジェクトはここで途切れてしまいました。背景には、バブル期に企業が政府の資金を必要としなくなったこと、ITバブルの崩壊、コンピュータ開発の中心が科技庁・文科省に移ってしまったことなどいろいろは事情があると思われます。その後「情報大航海」があります。

JSTの事業「シミュレーション技術の革新と実用化基盤の構築」(研究総括は土居範久)がCREST・さきがけ混合型領域として始まりました。

学術振興会未来開拓「計算科学」の最後の国際シンポジウムが開かれました。5プロジェクト中、1997年に発足した4プロジェクトは3月末で終了しました。牧野淳一郎らは、この活動の一環として、GRAPE-6を2002年完成させ、翌年Gordon Bell賞を受賞します。

なお「情報科学技術委員会」のところに「会議記録は残っていない」と書きましたが、村上弘氏からWARP(国立国会図書館インターネット資料収集保存事業)に一部収録されていることをご教示いただきましたので、後日補足したいと思います。

日本の学界では、昨年発足したPCクラスタコンソーシアムは、第1回シンポジウムを開催しました。グリッド協議会は、設立総会および記念講演会を開催しました。

東京工業大学松岡聡研究室は、ベストシステムズ社との共同研究として、Presto IIIを完成させました。6月のTop500では47位でしたが、AMDチップのクラスタとしては世界2位でした。

情報処理学会は、2002年2月号(Vol.43 No.2)の会誌『情報処理』で「特集:知られざる計算機」を掲載しました。知られているものもありますが。

記事に書いたような経緯で、学習院大学で公開シンポジウム「科学とこころ-科学、価値観、知識の限界」を行うことになり、仏教の立場から「科学と宗教」を語れる講師探しに苦労しました。佐藤哲也氏が推薦されたので依頼しましたが、氏自身の科学観を語るのみで仏教・真言宗とどう関係するかには触れませんでした。主催のSSQ IIからは不評でした。

国内会議としては、HPC研究会発足10周年を記念してHPCSが始まりました。Hokkeは一部泥流に覆われていた洞爺湖町で開かれました。SWoPPは湯布院。

次回は日本の企業の動きと標準化やネットワークなどです。

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小柳義夫

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Jun 9, 2024, 10:32:18 PM6/9/24
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2002年のHPC(その三)
「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、4週間前から2002年に入りました。全13回です。

先週(d) は「日本の企業の動き」「標準化」「ネットワーク」「性能評価」で、今週(e)は「アメリカ政府の動き」です。2回分の記事を紹介します。

富士通はベクトルスーパーコンピュータの開発から撤退し、高度なSPARC64によるスカラスーパーコンピュータに転換すると発表しました。日本電気は、地球シミュレータを稼働させるとともに、次のSX-7を発表しました。

日本の半導体メーカ11社が計18.5億円を出資し、国費315億円を投入して、ASPLAを設立し、90nmテクノロジの300mmウェファ製造に取り組みました。2005年には解散しましたが、果たして半導体産業に、これに見合った効果はあったのでしょうか。さらに高額の国費を投入する半導体開発が進められている現在、心配になります。

Gridの標準化を目指すGGF (Global Grid Forum)は3回開催されました。IBM社が突然提案したOGSA (Open Grid Services Architecture)が新しい標準となり、Gridの様相が一新しました。資源よりサービスに着目するグリッドは、メインフレームの思想と親和性があるのでしょうか。日本でも、INSTAC(日本規格協会情報技術標準化研究センター)がグリッド標準化調査委員会を発足させ、不肖私が委員長となりました。この結果なんと、平成22年2月22日(2並び)に、JIS X7301として制定されます。Gridを国家規格(de jure)にしたのは日本だけでしょう。

アメリカ政府関係では、NSF、DOE、DARPAがそれぞれHPCを推進しています。

NSFは、PACIからTeraGridに転換します。TeraGridはIBM社製のItanium 2クラスタを5機関に分散配置し、高速ネットワークで相互およびユーザと接続するものです。アメリカ中のアカデミアのユーザに共同利用されます。

SDSCは、前年、創立者であるSid Karinセンター長が、Fran Berman氏に代わり、Big Iron路線からクラスタ・グリッド路線に変わります。MTA-1も撤去されます。クラスタ構築ツールRocks 2.2.1が発表され、SC2002でもデモを行いました。

CTC (Cornell Theory Center)は、LinuxではなくMicrosoft Windowsで大規模サーバを構築しています。

DOEではASCIの4番目ASCI Qは30 TFlopsクラスで、DEC Alpha EV68 (1.25 GHz)ベースですが、最初から地球シミュレータの後塵を拝し、意気が上がらないようです。とりあえず、1/3規模のマシンが2台できました。翌年、これを結合して20 TFlopsのマシンを作りますが、フルスケールのマシンはついに登場しなかったようです。

ASCIの名前が冠されているのはQまでで、2004年以後はASC (Advanced Simulation and Computing Program)に変わります。文献では徹底されていないので、わたしの記事でも混在しています。100 TFlops級のASC PurpleはIBM社が受注します。また、ASCの新顔としてBlue Gene/LおよびASC Red Stormが予告されます。

オープンなDOEセンターであるNERSCのSeborgは隣町Oaklandで動いていますが、Seaborg IIへの増強計画が発表されました。

Linux Networx社は、Itanium 2を搭載した大規模クラスタを諸研究所に設置しました。

DARPAはHPCS(高生産性コンピューティングシステム)というプログラムを始めました。Linpackがベンチマークとして十分ではないという主張は分かりますが、では「生産性」をどう定義するのか。

テーマ別の実用グリッドの計画がいろいろ発表されています。

次はアジアやヨーロッパの動きと、世界の学界の動きなどです。

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小柳義夫

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Jun 23, 2024, 9:57:00 PM6/23/24
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2002年のHPC(その四)
「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は2002年の中ほどまで来ました。先週(f)は「アジアの動き」「ヨーロッパの動き」「世界の学界の動き」、今週(g)は「国際会議」です。2回分の記事を紹介します。

中国のベンチャ企業の聯想集団(Legend、2003年からLenovo)は、中国初の商用スーパーコンピュータDeepComp1800(深騰1800)を開発しました。これはIntel社のXeonプロセッサと272 GBのメモリを搭載したノード526台で構成され、6 TBのHDを持ちます。ピーク1 TFlopsで、9月には中国科学院に設置する予定です。北京での発表会は、全人代の幹部も出席して大々的に開催されました。

2002年にはじめてChina HPC Top100が発表されました。中科院数学与系統科学研究院の「深騰1800」が堂々トップに載っています(Top500では43位)。China HPCTop100の輸入機ではHPのSuperDomeが目立ちます。

インドのC-DACは自前のスーパーコンピュータ開発を続けてきましたが、この年TFlops級のスーパーコンピュータPARAM Padmaを製造するとの意気込みでしたが、私は年末にHPC Asia 2002でBangaloreを訪れ、実物を拝見しました。正式披露は2003年です。

ヨーロッパではDEISAが結成されます。2011年にPRACEができてからは第二階層として位置づけられます。

ECMWFは富士通のVPP700に代えて、IBMのp690クラスタが導入されました。他方、ドイツ気象庁の計算センターではCray C90に代えて、SX-6が導入されます。

NCSAは10人が「グリッドとは何か」を論じるページを用意しました。人によって考えも違うし、時間とともに変わります。

HPCとはあまり関係がありませんが、Bell研究所で一人の若手の論文捏造が発覚し、大事件となりました。

多くの国際会議が開かれましたが、私の目についたものだけ報告します。グリッド関係が増えています。Microprocessor Forum 2002で、富士通の井上愛一郎はSPARC 64Vの詳細を発表しました。

私の参加した大きな会議、ISC2002、SC2002、HPC Asia 2002については章を改めて紹介します。来週はISC2002です。

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小柳義夫

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Jul 7, 2024, 9:12:37 PM7/7/24
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2002年のHPC(その五)
「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/に掲載中の『新HPCの歩み』は2002年の後半にきました。先週(h)はISC2002、今週(i)はSC2002の「その一」です。2回分の記事を紹介します。

この年、わたしはISC(2000年まではMannheim Supercomputer Seminar)に初めて参加しました。会場は、昨年から古都Heidelbergです。現在とは異なり、参加者は367人、展示は25件という小規模な会で、投稿論文もなくsingle trackでした。会期は19日水曜夕方から22日土曜まででした。木金土にはそれぞれ基調講演がありました。

第19回目のTop500リストはISC2002の開会式(6月20日)の最中に発表されました。言うまでもなく横浜の地球シミュレータは35.86 TFlopsでダントツの1位でした。これはNo.2のIBM ASCI White (LLNL)の約5倍です。このように5倍もの性能比で1位に登場したのはTop500の歴史上初めてとのことです。地球シミュレータの性能は2位から13位までの12システムの性能合計に匹敵しています。地球シミュレータは、合計5回、トップに君臨します。

6月21日(金曜日)に、ペタスケールについて、2つの講演がありました。Masao Fukuma (NEC)(福間雅夫か、要確認)は、SX-4に始まるCMOSベクトルと地球シミュレータの紹介を行い、「半導体の微細化は進んでいるので、30 nmなら1 MWで1 PFlopsを実現できる。問題は、酸化膜の薄さ、リーク、リソグラフィである。」と述べました。

Rick Stevens(ANL)は、「Mooreの法則により、放っておいても2015年ごろにはできるが、2007年ごろに実現するにはどうしたらよいか。」と問題提起を行い、「いろんなアプリの分析がなされたが、結局、演算性能増大に伴い、メモリ総量とメモリバンド幅がどうスケールするかが問題である。」と総括しました。

SC2002は”FROM TERABYTES TO INSIGHTS”のテーマのもとに、Washington DC郊外のBaltimoreで開催されました。参加者は(展示だけを含み)7200人でした。ここでも地球シミュレータが話題となりました。21日木曜日の招待講演で佐藤哲也センター長が講演を行いましたが、「利用時間の25~30%が所長留め置きで国際協力に使うんだ」というあたりで会場が沸きました。「地球シミュレータのインパクト」のパネルは次号で。

Cray社のSteve Scottは、同社の(独立マシンとしては)最後のベクトルとなるCray X1を紹介しました。「X1はXMP, YMP, C90, T90, SV1のPVP (parallel vector processor)の路線と、T3D, T3EのMPP (massively parallel processor)の二つの路線を統合したものであり、両者の長所を兼ね備えている。」と解説しましたが、わたしはちょっと疑問を抱きました。Killer Microsを使っていないからです。「裸のチップに冷媒を直接吹き付けて気化熱で冷却する新技術」には驚きましたが。

IBM社のPeter UngarroはASCI Purple(登場ににはASC Purple)とBlueGene/Lの紹介を行いました。このUngarroはその後Cray社に移籍し、CEOとなります。

エネルギー省の第14代科学局長(Director of the DOE Office of Science)のRaymond L. Orbachは、「先端計算と科学的発見」と題して、超大規模計算のもたらす興奮について語りました。この講演でも、次のJulian Borrill (LBNL)の講演でも、重力波の検出には大規模なシミュレーションが欠かせないことを論じていました。重力波の検出の発表は2016年でした。

来週はSC2002の「その二」です。

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小柳義夫

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Jul 21, 2024, 11:06:34 PM7/21/24
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2002年のHPC(その六)
「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/に掲載中の『新HPCの歩み』は2002年の最後に近づいています。先週(j)はSC2002の「その二」、今週はHPC Asia 2002です。2回分の記事を紹介します。

第20回目のTop500が発表され、地球シミュレータのトップは揺らぎませんが、20位以内に他の日本のマシンは無くなりました。10位までのうち6件が初登場で、PCクラスタも2件あります。前回からも出ていましたがIBM eServer p690が目立ちます。

HP社のSuperdome/Hyperplexシステムが112件あり、これを含め140件がMyrinetを採用しています。

Top500の10年間の総括もありました。

わたしはThe Seymour Cray Computer Science and Engineering Awardの2002年~2004年の審査委員を務めました。2002年には日本から地球シミュレータの推進者である三好甫氏が推薦されましたが、「原則、存命者」というルールで、前年末に亡くなられた三好氏は不利でした。いい線まで行きましたが、受賞者はMonty M. Denneau氏(IBM)に決まりました。IBM社の並列処理開発(TF1/Vulcan, GF 11, IBM-SP series, Blue Gene, The Wiring Machine, Yorktown Simulation Engineなど)において一貫して指導的立場にあった人です。

Gordon Bell主では、地球シミュレータ関係で3件が受賞しました。Peak Performance賞ではスペクトル法による地球大気シミュレータが、Special Award for Language賞ではHPFによる3次元流体シミュレーションが、Special賞ではFFTによる3次元乱流によるDNSが受賞しました。

高性能バンド幅チャレンジでは、“Data Reservoir ” 東京大学、富士通研究所、富士通プログラム技研のチーム(代表、平木敬)がMost Efficient Use of Available Bandwidth賞を受賞。グリッドデータファーム(産総研)は惜しくも受賞を逃しました。

最終日には「特注スパコンは絶滅危惧種か?」「地球シミュレータのインパクト」等のパネルが行われ、渡辺貞氏、中村壽氏、佐藤哲也氏などが熱弁をふるいました。

HPC Asia 2002がインドのBangaloreで12月に開かれ、私は初めてインド入りしました。

各社が展示やプレゼンを行いました。HP社のFrank Baetkeは、「AlphaやPA-RISCはItaniumに置き換えられるであろう」と予言しましたが、そのItaniumも無くなりました。

Intel社はスポンサーに名を連ねながら展示は出していませんでしたが、Paragon以後HPC業界では影が薄くなっていたのを巻き返し、再びこの分野に乗り出すと述べました。

市内のC-DACを訪問し、稼働を始めたPARAM Padmaを見学しました。

2002年はあと2回ですが、来週はアメリカ企業の動きです。

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Aug 4, 2024, 10:16:09 PM8/4/24
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2002年のHPC(その七)
「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/に掲載中の『新HPCの歩み』は、本日2002年を終わりました。ご愛読を感謝します。先週と今週の記事を紹介します。アメリカ企業の動き、その他の企業の動き、企業の創業/終焉です。

IBM社はPalmisano新社長のもと、On Demand Computingなど新たな動きを始めました。BlueGene/LはLinuxを搭載すると発表しました。地球シミュレータを凌駕できるか?

Cray社は、日本電気のSX-6をOEMでCray SX-6として販売し、カナダとアラスカに計4台売れました。2004年にもカナダに3台売り、総計7台でした。アメリカ本土(ハワイ、アラスカを除く)に1台も売っていないのは、Cray社の意地でしょうか? 自社製のX1も発表されました。

HP社のFiorina CEOは創業家の反対を押し切ってCompaq Computer社(旧DEC社を含む)の合併を強行しました。さて、業績は上向くか?

SGI社は、R14000を搭載したOrigin 3900を発表し、日本にも導入されました。

Intel社は、第1世代のItaniumが不評で、さっそく第2世代のItanium 2(コード名McKinley)を発表しました。果たして、悪評を打ち消すことができるのか。また同社は「90nmテクノロジにより10 GHzのクロックのチップを作れる」と豪語していますが本気か?

AMD社は、x86を64ビットに拡張したOpteronを発表しました。HyperTransportも採用しています。対するItaniumの運命はいかに?

1998年5月、アメリカ20州とWashington DCの検事総長と司法省からWashinton連邦地裁に提訴されていたMicrosoft社に対する反トラスト法訴訟は、2001年に和解案が提示されましたが、強硬派の9州はまだ粘っています。Microsoft社のSteve Ballmer CEOは3月4日の宣誓供述において、「もし連邦地裁が、9州の要求しているような裁定を下すなら、我が社はWindows OSから撤退せざるを得なくなる。」と脅しを掛けました。言いますね。11月の判決で9州の要求はおおむね却下され、Microsoft社は今後,コンピュータ・メーカによるMicrosoft社製品と競合製品の同時提供を認めることになりました。しかしこの裁判はMicrosoft社の事実上の勝利と見られています。

前年カナダで創業したOctigaBay Systems社は、OpteronとFPGAを用いたOctigaBay 12Kを発表しました。このあとCray社に買収され、Cray XD1となります。

台湾のTSMC社は、130nmのテクノロジは収益段階に達し、90nmプロセスの準備も整っていると発表しました。順調のようです。

次回からは2003年です。地球シミュレータの成功を受けて、次世代スーパーコンピュータ(後の「京」)への調査研究が始まります。グリッド関係では、NAREGIや産総研グリッド研究センターも発足します。お盆明けに掲載が開始されます。

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小柳義夫

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Aug 19, 2024, 12:39:35 AM8/19/24
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2003年のHPC(その一)

「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に掲載中の『新HPCの歩み』は、本日2003年に入りました。筆者が還暦となった年です。記事にも書きましたが、わたくし事で珍事がありました。東大の医科研の事務が、東大の支払いデータベースの私の口座を、東北大学の小柳義夫(コヤナギヨシオ)教授の口座に誤って書き換え、私への旅費等の支払いがコヤナギ先生の方に行ってしまうという珍事でした。今週の記事を紹介します。

前年世界を驚かせた「地球シミュレータ」を紹介する番組が、NHK教育テレビの「サイエンスワールド」で取り上げられ、私がメインプレゼンタとして出演しました。共同利用は2年目に入り、課題公募において、「大気・海洋分野」と「固体地球分野」の地球科学の他に、「計算科学分野」と「先進・創出分野」が設けられ、世界トップの計算資源を、狭義の地球科学以外の分野にも提供することになりました。完成前に、原子力研究所の浅井清理事に「資源の一部を他の分野に使わせてほしい」と申し上げたら、断固拒否されたことを思い出します。

地球シミュレータの成功を受けて、次世代スーパーコンピュータ計画が水面下で動き出しました。政府の情報通信分野推進戦略(平成13年9月)においては、「スーパーコンピュータの高速化については、各分野の需要に応じて推進する」とされ、国家プロジェクトとはしないこととなっていましたが、RISTは2000年頃から「基礎研究における次世代高性能計算機環境に関する調査研究会」を受託していました。転機は2004年に起こります。

グリッド関係では、前年に産総研グリッド研究センターやアジアグリッドイニシアチブや大阪大学バイオグリッド・プロジェクトが始まっていましたが、2003年にはNIIを中心にNaReGI「超高速コンピュータ網形成プロジェクト」が始まりました。また、経済産業省が進める「ビジネスグリッドコンピューティングプロジェクト」に28億円の予算がつきました。

次回は4年目を迎えたITBL、ハワイ島Konaで開催された「日米計算科学円卓会議」など。日本学術振興会の未来開拓「計算科学」は終了します。JSTでは1998年から始まったACT-JSTが終了し、JST「JSTシミュレーション技術の革新と実用化基盤の構築」は2年目に入ります。

総目次はhttps://www.hpcwire.jp/new50historyにあります。ご愛読を感謝します。

小柳義夫

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Sep 1, 2024, 9:13:19 PM9/1/24
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2003年のHPC(その二)

「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に連載中の『新HPCの歩み』は、本日「第200回」を迎えました。ご愛読に感謝します。先週と今週の記事をご紹介します。「日本の政府関係の動き(続き)」「日本の大学センター等」「日本の学界の動き」「国内会議」です。

通算4回目となるJapan-US Computational Science Roundtableがハワイ島のKonaで開催され、日米の関係者が、ビッグサイエンスに埋もれそうな計算科学とそれに必要な計算資源をどう確保するかについて議論しました。佐藤哲也地球シミュレータセンター長からは、資源の一部を国際協力に拠出するとのコメントがありました。

日本のJSTでの広い意味の計算科学関係のプロジェクトとしては、「ACT-JST」「シミュレーション技術の革新と実用化基盤の構築」「情報社会を支える新しい高性能情報処理技術」「科研費特定領域(C)」などが走っています。

新世紀重点研究創生プラン(RR2002)の「eサイエンス」実現プロジェクトの一環として、「バイオグリッド・プロジェクト」が始まりました。翌年、特定非営利法人「バイオグリッドセンター関西」となりましたが、先日2024年5月25日に解散しました。一部リンクが切れています。

文部科学省が実施している「eサイエンス」計画に基づいて、北海道大学大型計算機センターでは、SGI社製 Onyx 300をグリッドコンピューティング専用機として設置し運用に入りました。

京都大学学術情報メディアセンターは、ベクトルコンピュータVPP800のリプレースとして、スカラSMPクラスタ型のスーパーコンピュータを導入しました。

産業技術総合研究所の建部修見らが開発した広域ファイルシステムGfarmは、2003年11月25日、version 1.0を正式に公開しました。

東工大の松岡研究室はVoltaire社のInfiniBandを用いたPCクラスタPresto IIIを構築しました。日本での大規模InfiniBandクラスタは初めてです。

第2回に当たるHPCS2003が日本科学未来館で開催されました。HOKKE 2003は、JSTのイノベーションプラザ北海道で開催されました。16回目となるSWoPP松江2003は松江テルサで開催されました。

これまでのJSPP(1989年~2002年)に代わって2003年から新しいシンポジウム SACSIS (Symposium on Advanced Computing Systems and Infrastructures) が学術総合センター会議場で開催されました。「国際化」の議論が結論を得ず、2015年からはACSI、2017年からはxSIGとなっています。

次回は、日本の企業の動き、標準化、ネットワーク、性能評価などです。富士通はPRIMEPOWER HPC2500を、日立はSR110000を、日本電気はSX-6の改良版を発売します。

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小柳義夫

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Sep 16, 2024, 10:18:38 PM9/16/24
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2003年のHPC(その三)

「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に連載中の『新HPCの歩み』は、2003年に入っています。先週(d)と今週(e)の記事をご紹介します。「日本の企業」「標準化」「ネットワーク」「性能評価」「アメリカ政府の動き」などです。

富士通はSPARC V9に基づくSPARC64Vを初めて製造し、これを搭載したPRIMEPOWERをHPCの主軸に据えます。2011年に動き始める「京」もこの系譜です。

日立は、dual coreのIBM POWER4+/5/5+を搭載したSR11000の販売を始めました。

日本電気はSX-6の改良版を出すとともに、Itanium 2搭載UnixサーバNX-7700シリーズ、Express5800/1000シリーズ、TX7シリーズの新モデルを販売開始しました。

日本のDRAM事業を結集したエルピーダメモリ社は日本唯一のDRAMメーカとなりました。なお、Elpidaの由来はギリシャ語のέλπις(希望)で、έλπιδαはその単数対格形なので、「希望に向けて」というような意味です。でも希望は実現するのでしょうか??

標準化ではGGF7が新宿の京王プラザホテルで開催されました。グリッドの最盛期でした。

アメリカ政府関係では「打倒、地球シミュレータ!」の動きが目立ちます。1990年代に始まった国家戦略としてのHPCは、さらなる展開が始まります。そのためのアメリカ国家戦略を練る動きが始まりました。
NTSCの「最先端コンピューティング再生タスクフォース(HECRTF)」と
アメリカ科学アカデミーの「スーパーコンピューティングの将来に関する委員会」と
JASONの「Requirement for ASCI」です。

これらの動きは早速DOEの計画に組み入れられ、地球シミュレータの5倍の計算能力をもつスーパーコンピュータを開発すると宣言します。ただ、議会はなかなか予算を通しません。会計年度に入ってから、少し減額して通しました。

DOEは革新的な大規模計算科学プロジェクトを支援するために、公募制の資源提供プログラムINCITEを始めました。本年は52件の申請から3件だけ採択しました。SciDACと異なり狭き門です。

DARPAはHPCSプロジェクトのPhase IIとして、Cray社、IBM社、Sun社の3社を選定しました。Cray社はCascadeを、IBM社はPERCSを、Sun社はHeroを提案しました。Phase Iに参加していたHP社とSGI社は落ちました。次のPhase IIIでは2社に絞ります。また、HPCSプロジェクトの一環としてHPC Challenge Benchmarkを提案しました。

NSFはTeraGridの資源提供の公募を始めます。これは大小の種々の規模の提案を受け付けます。

次回は、アジア太平洋やヨーロッパの政府の動きと、世界の学界の話題です。

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小柳義夫

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Sep 29, 2024, 10:34:57 PM9/29/24
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2003年のHPC(その四)

「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に連載中の『新HPCの歩み』は、2003年に入っています。先週(f)と今週(g)の記事をご紹介します。「日本・アメリカ以外の政府関係の動き」「世界の学界の動き」「国際会議」です。

アメリカのグリッドはコンピュータ科学研究者が前面に出ていますが、ヨーロッパではCERNに代表される現実の科学技術研究の実用的利用が引っ張っています。

インドの「地球シミュレータ」ともいうべきPARAM Padmaが正式披露されました。インド初のテラフロップスマシンです。私は、昨年末に現地で見てきました。ノードは4-way POWER4 SMPで、自主開発のネットワークで接続したシステムです。

アルプスの麓の中世のままの都市Annecyで行われたCAS2K3 Workshopで、地球シミュレータのようなベクトルコンピュータと、POWERのMPPとが、実際の科学技術計算でどう違うかが議論されました。

アメリカのバージニア工科大学では、教員、技官、学生が力を合わせて1100台のPowerMac G5をMelanox Infiniband 4xで接続してLinpackを走らせ、なんとTop500で3位に入りました。愛称はBig Mac。

今年はvon NeumannおよびAtanasoffの生誕100年で、それぞれ記念行事が行われました。

Gordon Moore氏は、第50回記念のISSCCにおいて基調講演「指数的進歩は永遠に続くというものではないが、進歩はまだ続く」を行い、いわゆるMooreの法則について「今後10年は生き続ける」と述べました。ただし成長率が鈍化する可能性も示唆しました。

GlobusWORLDやPRAGMAやCCGridなどグリッド関連の会議が増えて来ています。

4年毎開催のICIAM(応用数理国際会議)がシドニーで開催され、わたしも参加しました。Industrialを標榜する割には、産業界の話題が少ないという印象でした。

日本で二回目となるLattice 2003がつくばで開催されました。

このあとは、ISC2003(Heidelberg)やSC2003(Phoenix)の話題が続きます。

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本連載では、HPCwire(英語版)の元記事を多数リンクしています。是非ご覧ください。9月19日~26日に、このサイトにセキュアでないリンクがあるとSecurity Softwareから全面ブロックされていましたが、現在は回復しています。

小柳義夫

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Oct 14, 2024, 10:09:34 PM10/14/24
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「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に連載中の『新HPCの歩み』は、2003年の話題を終わりかけています。先週(h)と今週(i)の記事をご紹介します。ISC2003と、SC2003の「その一」です。

最初から余談ですが、先週以来、ノーベル物理学賞と化学賞が「AI祭り」だと報道されています。物理学賞と、化学賞の半分のGoogle DeepMind社のDemis Hassabis and John M. Jumperとは確かにAIです。でも、化学賞のもう半分のDavid Bakerの受賞理由は“for computational protein design”で、最初の業績は2003年のTop7という人工タンパク質の設計です。これは現在のAI以前で、むしろシミュレーションの成果と思われます。もちろんBakerもその後はAI関連の分野で活躍しています。言いたいことは、AIの基礎にはシミュレーションも重要な役割を果たしている、ということです。いずれにせよ、(広義の)計算科学がノーベル賞を飾るのは喜ばしいことです。

さて本題です。ISC2003(Heidelberg、記事では綴りを間違えました)では、昨年に引き続いて地球シミュレータのインパクトや意義の議論が続いています。

Horst Simonは「アメリカのコンピュータ産業はコマーシャルな応用が支配し、大規模計算を必要とする科学者コミュニティーの要求には焦点を当てていない。」「日本政府は科学計算に投資するという責務にコミットしている」と語りました。

Thomas Sterlingは、「アーキテクチャとソフトウェアとの同時かつ相互依存の革新が必要」と述べました。

SC2003(Phoenix)では、地球シミュレータを凌駕するべきマシンとして、IBMはBlueGene/Lを、CrayはRed Stormを展示しました。

Petaflops Workshopが3コマ連続で開催されました。Jim Tomkins (SNL)は、2010年には10-12 GHzのプロセッサが登場すると述べましたが、外れました。三浦謙一(富士通)は、PrimePowerを改良すればPFlopsまで行けると豪語しました。Hans Zimaは「HPFの夢よ、もう一度」というような話でした。Kathy Yelickは、ペタスケールでは、MPIに変わって大域的アドレス空間言語(今ならPGAS)が重要になると述べた。

Top500では中国科学院計算机網路信息中心のDeepComp 6800 (Itanium 2+QsNet)が14位にランクした。Top20の中国機は初めてである。地球シミュレータは4回目のTopを確保したが、Top100に入った日本設置のマシンは6件になってしまった。

次回は、SC2003(その二)で、企業のExhibitor Forumの話題と、各種の賞、パネル討論会などについてです。

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小柳義夫

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Oct 27, 2024, 10:30:51 PM10/27/24
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「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に連載中の『新HPCの歩み』は、2003年の話題を終わりかけています。先週(j)と今週(k)の記事をご紹介します。SC2003の「その二」とアメリカの企業の動きです。

SC2003のExhibitors’ Forumでは、出展している各社が30分ずつ講演します。富士通は三浦謙一がPRIMEPOWER HPC2500について、日立はSR11000について講演しました。Cray社はBurton Smith自らが登壇し、DARPAのHPCSへの自社の取り組みを説明し、それが製品に生かされると強調しました。

今年で4日目となるSC2003のBandwidth Challengeでは、大阪大学も入っている国際チームと、平木チーム(東大等)と、建部チーム(産総研等)がそれぞれ違う部門で受賞しました。

Gordon Bell賞は、地球シミュレータを使った地震解析が性能賞を、牧野淳一郎らのGRAPE-6が顕著な成果賞を受賞しました。

最終日金曜午前では3並列で6つのパネルが行われた。「Productivityとは何か」のパネルでは、Productivity(生産性)を、(何らかの意味の)実効性能と考える人と、効率(実効/ピーク)と考える人が嚙み合わなかった。

アメリカ企業では、IBM社はPOWER5が発表されました。Intel社は、x86ではPentium 4の第3世代が登場し、Itaniumではdual coreのMontecitoが発表されました。これでItaniumは主流に乗れるか?

他方、AMD社は、x86を64ビット化したAMD64アーキテクチャのOpteronが発売されました。デスクトップ用にはAthlon 64が登場しました。いずれも既存の32ビットアプリが高性能で実行できるところがミソです。Portland Groupもそのためのコンパイラを発売します。

Cray社はベクトルのX1と、OpteronのMPPであるXT3の両面作戦です。IBM社からUngarroを迎え、世界市場に乗り出します。

HP社は、自社のPA-RISCと、DECからのAlphaと、Intelと共同開発しているItaniumと3本建てで苦労しています。吸収したTandem社からのMIPSも。AlphaはEV7が出ましたが、そろそろ先が見えています。Itaniumを搭載したサーバも一応出しましたが、……。

NVIDIA社はまだHPCに手を出していませんが、製造をTSMC社だけでなくIBM社にも委託し始めました。ハイエンドはIBM社なのか?

次回は、2003年の最後の記事で、アメリカ企業の動きの続き、ヨーロッパやカナダの企業、中国の官民の動き、企業の創業などです。

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小柳義夫

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Nov 4, 2024, 8:42:54 PM11/4/24
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「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に連載中の『新HPCの歩み』は、本日2003年の最終回を公開しました。アメリカ企業の動き(その二)、ヨーロッパ、カナダ、中国などの動き、企業の起業です。

Microsoft社は、Windows 2000 Serverの後継として開発した小規模~大規模サーバ用のオペレーティングシステムWindows Server 2003を発売しました。Hewlett-Packard社は、夏の終わりに発表予定のMadisonプロセッサ搭載サーバにWindowsをインストールした「Superdome」の売り上げ増に期待を込めています。また、AMD64に対応したWindowsを開発していると発表しました。

Microsoft社は、ヨーロッパでは独占禁止法で、アメリカではJavaについてSun Microsystems社から訴訟を起こされています。

SIMDプロセッサを開発するために、2002年イギリスのBristolで創業したClearSpeed社は、「史上最速」の演算プロセッサを発表しました。

カナダでは、OctigaBay Systems社が、OpteronとFPGAを組み合わせたスーパーコンピュータを発表しました。翌年、Cray社に買収されます。

中国では、曙光やLenovo(聯想)が国内にスーパーコンピュータを設置しています。いずれも中国科学院計算機研究所からのスピンオフです。

第2回のChian HPC Top100が発表されました。年1回です。トップは中国科学院超級計算中心に設置された聯想製の深腾6800で、Top500では14位です。

中国では国を挙げてグリッドを構築しています。提供はIBM社です。

次回は2004年に入ります。SC24のあと(おそらく11月25日)に連載を開始します。

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小柳義夫

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Nov 24, 2024, 7:55:00 PM11/24/24
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「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に連載中の『新HPCの歩み』は、本日2004年の連載が始まりました。社会の動き、次世代スーパーコンピュータ計画、地球シミュレータです。今号は、先週アトランタで開催されたSC24の最中に校正を行いました。

「社会の動き」はHPCとは直性関係ありませんが、わたしなりにリキを入れて書いています。HPCの動きとの共時性をお楽しみください。

ペタスケールの「次世代スーパーコンピュータ計画」(後の京コンピュータ開発)への動きがやっと見えてきました。最大の問題は、2001年9月21日に総合科学技術会議の情報通信分野研究開発推進戦略において、「スーパーコンピュータは必要な分野で個別に努力すればよく、国家戦略としては開発しない」と結論づけていることでした。これを覆して、国家基幹技術として開発するという方向転換に大きな役割を果たしたものの一つは、筑波大学の「岩崎文書」でした。

「スーパーコンピュータ推進議員連盟」ができ、次年度予算に「将来のスーパーコンピューティングのための要素技術の研究開発プロジェクト」が概算要求されます。やっと動きが始まりました。

2002年に完成し運用開始した地球シミュレータは、どんどん利用が進み、産業への利用も始まります。

次回はこれ以外の日本政府の動きです。「科学技術・学術審議会」は「国として戦略的に推進すべき基幹技術」の一つに「ペタ・フロップス級のスーパーコンピュータを開発と、必要なソフトウェアの開発」を挙げました。国立大学と大学共同利用機関が法人化されます。昨年発足したNAREGIは、シンポジウムで成果を公開します。ITBLは中間評価が行われます。AISTは、Itanium 2、Opteron、Xeonなどを搭載した大規模クラスタを構築します、などなど。

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Dec 8, 2024, 10:21:37 PM12/8/24
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2004年のHPC(その二)

「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に連載中の『新HPCの歩み』は、先々週から2004年の連載が始まりました。先週の(b)では「日本政府関係の動き」、本日公開の(c)では「日本のア医学センター等」「日本の学界の動き」です。

文部科学省の「科学技術・学術審議会」は「国として戦略的に推進すべき基幹技術」の一つに「ペタ・フロップス級のスーパーコンピュータを開発と、必要なソフトウェアの開発」を挙げました。「従来の技術では不可能な高度なシミュレーションを実現するために、2010年までにペタ・フロップス級のスーパーコンピュータを開発するとともに、必要なソフトウェアを開発」することとし、とくにマルチスケール・マルチフィジックスによる複雑系シミュレーションの重要性を強調しています。

国立大学と大学共同利用機関が法人化されました。国立大学等が法人格を持ち、主体として意思決定できること自体にはプラスの面も少なくありませんが、実際には、それを口実に運営費交付金が減らされ、教員が削減され、大学の評価や競争的資金獲得に向けた事務作業に時間をとられ、教員の教育・研究以外の負担が重くなったことが指摘されています。

これまで、大型計算機センターのスーパーコンピュータ等のレンタル費や運営経費は付属施設経費としてひも付きになっていたが、法人化により運営交付金の基礎額として配分されることになり、他に流用される可能性が生じました。また、18年間運用してきた共通利用番号制は、廃止されました。

AIST(産業技術総合研究所)は、AISTスーパークラスタの運用を始めました。これはOpteronベースのP-32クラスタ、Itanium 2ベースのM-64クラスタ、XeonベースのF-32クラスタ、およびストレージ部から成ります。

京都大学学術情報メディアセンターは、2004年3月、ベクトルスーパーコンピュータVPP800を、スカラスーパーコンピュータであるFujitsu PRIMEPOWER HPC2500に更新しました。また、九州大学情報基盤センターも、2005年3月からIBMのp5サーバを導入すると発表しました。

筑波大学では、1992年に設置された計算物理学研究センターを拡充改組し、計算科学研究センターを設置しました。6月に創立シンポジウムが開催されました。

東京大学等の研究グループ(研究代表平木敬)は、2004年度科学技術振興調整費に採択され、超並列で2 PFlopsを実現する「GRAPE-DRプロジェクト」に着手したと発表しました。

次回は「日本の学界の動き」の続きです。私個人は、Winny開発者の金子氏逮捕や学会事務センター経営破綻により翻弄されました。また、国内で開かれた会議を紹介します。

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小柳義夫

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Dec 23, 2024, 1:45:25 AM12/23/24
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2004年のHPC(その三)

「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に連載中の『新HPCの歩み』は、2004年の出来事を述べています。先週の(d)では、日本の学界の動き(その二)と国内会議、今週の(e)は日本企業の動きです。

大きな出来事の一つは、ファイル共有ソフトWinnyの作成者である金子勇氏が逮捕されたことです。Winnyを使って違法なファイル交換を行ったものを逮捕するのはともかく、そのシステム作成者を逮捕するとは、京都府警も何を考えていたのか。2年間の25回の公判の末、罰金150万円の一審有罪判決が出ました。ところが高裁では無罪となり、最高裁も検察側の上告を棄却しました。晴れて無罪の身となったものの、逮捕、拘留、起訴、裁判がストレスとなったのか、2年もたたないうちに急逝されます。日本のインターネット界は貴重な人材を失いました。

もう一つの事件は、日本応用数理学会など300の学会が事務の一部を委託していた日本学会事務センターが、学会からの預り金を流用して破産した件です。私は当時日本応用数理学会の副会長をしており、この件で走り回りました。当学会は約600万円の債権が焦げ付きました。その日から路頭に迷った小学会もあったとのことです。

4月には、世界初のグリッドだけのイベントGrid World 2004が東京ファッションタウンIFTホールで開催されました。参加登録3000人。

ハイパフォーマンスコンピューティング研究会は12月17日、記念すべき第100回(数値解析研究会からの通算)を迎え、ホテル東京KKR竹橋で記念研究発表会を開催しました。

日本電気はベクトルスーパーコンピュータSX-8を発表しました。最大のシステムはStuttgartのHLRSの576 CPUです。

富士通は、「ペタスケール・コンピューティング推進室」発足させ、2010年をめどに世界最高の3 PFlopsの性能を達成すると発表しました。

ソニー・コンピュータエンタテインメント、IBM社、ソニー、東芝は”Cell”に関する4編の論文を2005年2月6日~10日にSan Franciscoで開催されるISSCCで発表しました。

大日本印刷株式会社は、2004年6月、MATLABアルゴリズムをグリッド分散環境で高速に計算を行うことのできるソフトウェアAD-POWERsを開発したと発表しました。

次回(f)は年明け(おそらく1月6日)公開です。標準化とアメリカ政府の動きです。標準化ではGridの標準化の議論が進むとともに、アメリカでは「打倒地球シミュレータ」の動きがさらに活発となります。


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小柳義夫

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Jan 13, 2025, 8:29:03 PMJan 13
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2004年のHPC(その四)

「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に連載中の『新HPCの歩み』は、2004年の7回目となりました。先週の(f)では標準化とアメリカ政府の全省的な動き、今週の(g)ではアメリカ政府の各省の動き、ヨーロッパなどの動き、世界の学界の動きです。

Grid関係ではGGFが全世界協力して標準化を進めている折も折、世界の大手IT19社がEGA (Enterprise Grid Alliance)を設立しました。「スワ一大事、企業連合がGrid乗っ取りか!」と色めきました。GGFにも100社の企業が参加しており、ビジネス利用も当然視野に入れています。裏で何があったのかは知りませんが、結局両者は平和的に役割分担することになり、2006年には合併してOGFとなります。めでたしめでたし。

Fortran 2003は予定より遅れて、2004年11月15日に公表されました。オブジェクト指向プログラミングを大幅に取り入れ、C言語との相互運用機能が付加されました。それでもFortranです。

2002年に「打倒!地球シミュレータ」を打ち出したアメリカ政府は、諸施策を進めています。HECRTF(High End Computing Revitalization Task Force、最先端コンピューティング再生タスクフォース)は、「アメリカが今後科学技術でのリーダーシップを確保するための計画」を策定しました。アメリカはなんでも一番でなければ気がすまないのです。連邦議会はHigh-End Computing Revitalization Act of 2004を可決し、11月30日Bush大統領が署名して成立しました。

2005会計年度(2004年10月~2005年9月)予算において、研究開発(R&D)予算が増額されました。とくに、DOEは歴代最大の4%増で、最先端コンピューティングとそれによる科学研究に重点を置いています。DOEは5月NLCFという5年計画を公募し、ORNLとANLを採択しました。ASCIとは異なり、民生産業界への貢献をうたっています。他方、ASCIはASCとなり、Red StormとBlue Geneを軸に進みます。DOEは大規模資源提供プログラムINCITEを始めます。

NSFではPACIが終了し、Teragridがフル稼働に入ります。これは大規模だけでなく、中規模の資源も提供するプログラムです。

他方ヨーロッパでは各国のスーパーコンピュータを結ぶグリッドDEISAの予算が付きます。ドイツではJuelichにp690クラスタが設置され、HLRSにSX-6とIA-32/64クラスタが設置されます。

前年、1100台のG5 Appleを接続してTop500の3位を獲得したVirginia Techの"Big Mac"はAppleをXserve G5に更新して2004年11月に7位に入りました。これに刺激されて、San Francisco大学で、時間を決めて不特定多数の人がPCを持って集まり、Myrinetで接続しましたが、Top500の圏内に及ばず失敗しました。もし入っていたら、一瞬だけの性能をTop500に載せるべきか議論になったでしょう。

欧米の2つのグループが、量子もつれ状態にある原子2個の量子テレポーテーションに成功したと発表しました。量子コンピュータの重要技術です。

Mersenne素数は今や分散コンピューティングの独擅場となりましたが、2004年には41番目を発見しました。

次回(h)は国際会議です。筆者が組織委員長を務めたHPC Asia 2004は40℃近い灼熱の大宮で開催されました。ISC2004とSC2004はそれぞれ章を改めてレポートします。

既発表記事の総目次はhttps://www.hpcwire.jp/new50historyにあります。ご愛読を感謝します。

小柳義夫

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Jan 26, 2025, 9:57:51 PMJan 26
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「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に連載中の『新HPCの歩み』は、2004年の9回目となりました。先週の(h)では国際会議、今週の(i)ではHeiderbergのISC2004と、PittsburghのSC2004のその一です(3回に分けて連載)。

昨年、西安で開催予定のCCP2003はSARSの蔓延のため延期され、2004年に北京でICCP6との共同開催の形で開催されました。

私が組織委員長という形で、大宮において開催されたHPC Asia 2004は、40℃近い酷暑の中で開催されました。文中の開催報告のリンクは切れていますが、JSTAGEにあります。https://doi.org/10.11540/bjsiam.14.4_395

記念すべきことは、Los Angelesにおいて“Workshop on General Purpose Computing on Graphics Processors (GP2)”が開催されたことです。今でいうGPGPUですが、この時点でGPUを科学技術計算に使おうとい先見の明には敬服します。CUDAが出るのはこの3年後です。SC2004でも、GPUクラスタを使って科学計算(Lattice Boltzmann)を行ったという論文が発表されました。この論文は20年後去年のSC24において、Test-of-time Awardを受賞します。Test-of-time Awardはいくつかの学会にありますが、何年もの流れを経ても価値を失わない、あるいはますます価値の増す先駆的な論文を表彰するものです。

もう一つ画期的なことは、10月、Santa Feにおいて“The Path to Extreme Supercomputing”というワークショップが開催されたことです。数十年後にZettaflopsが必要になるので検討するという趣旨ですが、実質的にはExaflopsへのキックオフであったと考えられます。それでも、当時最高性能の地球シミュレータの5桁上の性能を考えていることに脱帽します。アメリカのチャレンジ精神でしょう。その後毎年開催されました。

ISC2004には参加しませんでしたが、地球シミュレータは5回目で最後のTopを飾りました。20位以内の国内マシンは、あと理研のSuper Combined Clusterと、AIST Super Clusterだけで、寂しくなりました。

再びPittsburghで開催されたSC2004の企業展示では、地球シミュレータからTopを奪還したIBMがBlueGene/Lで盛り上がっていました。CrayはRed Stormの商用版が売れています。SGIはMIPSからItanium2に移行しました。

直前にATIP主催のChina HPC Workshopが開かれ、中国の現状が報告されました。中国は急速にHPCに傾斜し、TFlops級のマシンなどそこら中にごろごろしている感じでした。うかうかしていると日本は後塵を拝することになりそうです。

会議前にはSun HPC Consortiumも開催され、2日目だけ参加しました。Gridとその応用で盛り上がっていました。

次回は、SC2004の「その二」で、基調講演、招待講演、Top500などについて書きます。

既発表記事の総目次はhttps://www.hpcwire.jp/new50history
にあります。ご愛読を感謝します。

小柳義夫

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Feb 9, 2025, 8:17:34 PMFeb 9
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「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に連載中の『新HPCの歩み』は、2004年の連載の終盤を迎えています。先週(j)と今週(k)は、PittsburghのSC2004の「その二」と「その三」です(3回に分けて連載)。

「地球シミュレータ」は、2004年の6月まで連続5回(2年半)に渡って35.86 TFlopsで首位を独占し続けてきましたが、今回遂に首位の座を明け渡し、3位に落ちてしまいました。LLNLのBlueGene/LとNASAのColumbiaは、抜きつ抜かれつ首位争いを繰り広げました。上位の入れ替わりは激しく、Top10の半分は新顔でした。日本としては、地球シミュレータを別にすれば、Top20内は理研のSuper Combined Clusterの14位だけという寂しい結果に。

招待講演の一つでは、国防省のHolland氏が、アプリケーションにおける実用性能の重要性を指摘しました。OSCのAhalt氏は、Blue Collar Computing(High endとlow endとの中間)を充実させよ、と述べました。

Seymour Cray賞では、3回目(最後)の選考委員を務めましたが、受賞者のBill Dally教授は、バンド幅の重要性を強調しました。

“Supercomputer architecture, it’s about bandwidth, not MFlops”

Gordon Bell賞では、地球シミュレータが2002年以来3年目の連続受賞となりました。陰山 et al.は、地球ダイナモのシミュレーションで15.2 TFlopsを達成し、坂上 et al.は、HPFで流体シミュレーションを行い14.9 TFlopsを出し、横川 et al.は一様等方乱流のDNSで16.4 TFlopsを出しました。HPFでTFlopsが出たことは驚きをもって見られました。

5年目となるバンド幅チャレンジでは、"Third Generation Data Reservoir"の名前でエントリした平木等のグループが" Single Stream, Longest Path, Standard MTU TCP Throughput"賞で連続3回目の受賞をしました。Honorable mentionでは、九州大学らのグループが"Showing Bandwidth of CJK (China, Japan, Korea)”のエントリで受賞し、JAXAのグループが" Effective Rapid Remote File System For Supercomputer Users Who Are Not Network Expert”のエントリで受賞しました。Honorable mentionまで含めれば、6件中3件が日本関係でした。

最終日、金曜日午前のパネルの一つで、松岡聡(東工大)が英語力を駆使して大活躍しました。

次回は、アメリカの企業の動きで、Hewlett-Packard社は64ビットサーバにOpteronを採用すると発表し、Itaniumの退潮を印象づけました。

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Feb 24, 2025, 8:08:36 PMFeb 24
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「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に連載中の『新HPCの歩み』は、本日公開の(m)で2004年の連載を終了しました。先週(ℓ)と今週(m)は、アメリカ企業の動き、ヨーロッパ企業の動き、中国の動き、企業の創業・終焉です。

HP社は、画期的なEPICアーキテクチャでサーバ界を主導するためにItaniumを10年間Intel社と共同開発していましたが、なんとAMD社のOpteronを搭載したサーバを発売するとのニュースが流れました。それどころか、Intel社との共同開発契約も終了しました。「HPよ、おまえもか?」

AMD社がdual-core Opteronの設計を完了する(発売は2005年)のは想定内でしたが、なんとIntel社もOpteronと同様なx86-64を開発していることが明らかになりました。Intel社のCEOはIDFにおいて、「Intelがこれを開発しているということは、San Franciscoで最もよく知られた秘密であった」と。Itaniumをどうする気か??

Intel社はx86-32では高クロック路線を進めてきましたが、予定していた4 GHzのPentium 4を電力の壁で断念しました。これからはマルチコアの時代に入ります。

IBM社がPFlopsを標榜するBlue Gene計画を発表してから5年になりますが、9月にはLLNLの1/4サイズのプロトタイプが36.01 TFlopsのLinpack性能を記録し、地球シミュレータを(わずか)抜きました。その後の経過はすでにTop500のところに書きました。日本でも産総研生命情報科学研究センター(お台場)が4ラックを設置することが明らかになりました。ただし、日本設置の一号機はニイウスの1ラックでした。2006年のことになりますが、ニイウス社は1/8ラック相当のNIWS Gene/S TurboをOEM製造し東北大学金属材料研究所に納入します。

UltraSPARC IV、Sun Fire 25K、Opteron搭載サーバを出すなど順調に見えるSun Microsystems社ですが、S&Pは投資不適格級のBB+へ2段階引き下げ、業務縮小を余儀なくされます。HPC担当副社長になったばかりのShanin Khan氏が同社を去ります。私は1986年、かれがFloating Point Systems社にいたときCornell大学でお会いしたのが最初です。また同社はMicrosoft社とJavaについて7年にわたって係争中でしたが、和解金・特許料前払いなど計$2B(当時2200億円)を受け取り和解しました。これでしばらくしのげるか??

Cray社は、ベクトルのX1、超並列Red Stormの商用版XT3、OctigaBay由来のXD1と3路線を続けています。

2000年にx86互換の省電力プロセッサCrusoeを出したTransmeta社は、90nmのEfficeonを出します(富士通あきる野工場で製造)。しかし、2005年1月にはチップ製造ビジネスから撤退します。

ヨーロッパではQuadrics社がQsNett II (Elan4)を出荷します。2004年のTop500にはまだ出ていません。

中国のLenovo社(聯想集団)は、IBM社のPC事業を全面的に買収して世界を驚かせましたが、Top500に載るようなHPCでも頑張っています。その後生産を拡大し、2018年以降、台数ベースでTio500のトップシェアを占めています。3回目のChina HPC Top100が発表されました。

Entropia社が静かに舞台から去りました。

次回は2005年。スーパーコンピュータ議員連盟が政府に勧告を出す一方、文部科学省計算科学技術推進WGは10 PFlops以上のスーパーコンピュータの実現を勧告します。ベクトルとスカラーと専用計算機の3部構成からなる「京速」スーパーコンピュータが提案され、岩崎氏や私が強烈に反発します。

今週号は第222回ですが、前回の連載『HPCの歩み50年』は、最終回(2012年(p))が第222回で終了しました。https://www.hpcwire.jp/archives/30286 今回はまだ2004年(m)です。

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Mar 2, 2025, 8:22:50 PMMar 2
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「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に連載中の『新HPCの歩み』は、本日から2005年に入りました。12回連載の予定です。今週(a)は、「社会の動き」と「次世代スーパーコンピュータ計画(その一)」です。いよいよ「京」に向かう動きが本格的になります。

「社会の動き」としては、小泉郵政解散総選挙の年です。小泉チルドレンの一人が「料亭に行ってみてー」と発言して顰蹙を買いました。アメリカでは、ハリケーン「カトリーナ」がフロリダやニューオーリンズに上陸し大きな被害を与えました。姉歯事件など覚えておられるでしょうか。AKB48とかいうアイドルグループがAKihaBaraで活動を始めたようです。

文部科学省 科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 情報科学技術委員会の計算科学技術推進ワーキンググループは精力的に議事を進め、多方面からの聞き取りを行って次世代スーパーコンピュータのシステムイメージを構築しています。ターゲット8分野も定義され、2つのグランドチャレンジも決まります。

幸い、国立国会図書館のアーカイブ事業(WARP)により、この頃の資料がかなり保存されているので、当時の雰囲気が分かります。文中や表中のリンクをクリックしてください。

自民党のスーパーコンピュータ議員連盟が活動を始め、8月には政府に勧告を出しました。

1000億円の予算で10 PFlopsの性能ということだけは決まりましたが、システムイメージは百花繚乱だったようです。政治家などからは、日本のお家芸である「ベクトル」だけで作れという意見もありました。「市場原理で開発できないベクトルこそ、国家プロジェクトで作るべきである」と。そうでしょうか?

当時、わたしは部外者だったので、「何に使うかのビジョンがあって初めて、道具としてのスパコンが生きる」などと応用の視点からの情報発信を外野から行いました。

アメリカにも情報が流れ、「いずれにせよ、アメリカで『HPCにもっと予算を出せ』という理由に利用されると思う」という皮肉な見解も。

2005年夏以降の「次世代スーパーコンピュータ計画」の動きは次回です。キックオフミーティングが御殿山ヒルズ ホテルラフォーレ東京で開催され、大臣や国会議員を含め800名以上が集まります。岩崎洋一筑波大学学長が基調講演を行います。

(なお、3月3日午前10時現在、記事中の表形式の部分に、余分な空白や区切りが入っています。読みにくいですが、内容には影響していません。修正を御願いしています)

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Mar 16, 2025, 10:40:34 PMMar 16
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「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に連載中の『新HPCの歩み』は、3月3日から2005年に入っています。12回連載の予定です。先週224回(b)と今週225回(c)の内容を紹介します。(b)は「次世代スーパーコンピュータ計画」の「その二」(夏以後)、(c)は「日本政府関係の動き」「日本の大学センター等」「日本の学界の動き」です。

議院連盟などの後押しもあり、「次世代スーパーコンピュータ計画」は平成18年度(2006年度)予算の概算要求に載りました。当然のことながら内容は非公開で、記事(a)に書いたように私も知りませんでした。「京速 (10 PFlops)」とともに、「ベクトル 0.5 PFlops、スカラ 0.5 PFlops、GRAPE-DR改良版20 PFlops (いずれもピーク性能)」というシステム構成案が漏れ聞こえて来ましたが本当なのか?

大型予算なので、総合科学技術会議みずからが評価を行う必要があり、「最先端・高性能汎用スーパーコンピュータの開発利用」評価検討会が設置されました。私も加わり、初めてこの計画にcommitすることになりました。予期していたとはいえ私が一番驚いたのは、突然示された「京速計算機システムの構成(イメージ)」でした。記事(b)のアイキャッチにも使われていますが、大規模処理計算機部(ベクトルコンピュータのことらしい)0.5 PFlopsと、逐次処理計算機部(スカラコンピュータ)1 PFlopsと、特定処理計算加速部20 PFlopsから構成されているハイブリッドシステムとなっています。文科省関係者の説明では、「これは汎用計算機なので、何にでも使えます。」とのこと。

これに猛然と食ってかかったのが岩崎委員(筑波大学長)でした。わたしも同調しました。「主要なアプリケーションにこのアーキテクチャがどう活用できるか分析されていない。」今の言葉で言えば、コデザインができていないと批判しました。この議論がその後どうなったかは記事をご笑覧ください。

10月にたまたまBerkeleyに行く用事があったので、NERSCで非公式セミナーを行い、この計画を公開情報の範囲で紹介しました。「2010年にベクトル?」と驚かれました。

すったもんだの末、復活折衝で「汎用京速計算機」が予算案に入りました。まずは一安心。

地球シミュレータプロジェクトの利用報告会が行われ、NAREGIシンポジウム2005が開催されました。産総研の生命情報科学研究センターには、4ラックのBlueGene/Lが設置されました。

筑波大学では、PACS-CSプロジェクトが始まるとともに、CP-PACSの終了式典が行われました。Top500には14回登場し、脱落してもまだ稼働していました。これはかなり珍しい。NWTの18回登場にはかないませんが。

2005年は、Albert Einsteinが3つの重要な論文(光量子仮説、ブラウン運動の理論、特殊相対性理論)を発表した1905年から100周年ということで、IUPAPが世界物理年と宣言しました。

来週は国内会議です。第4回情報科学技術フォーラムでは、『スパコン日本の時代は取り戻せるか』というパネルが企画され、筆者が司会を仰せつかりました。

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Mar 30, 2025, 9:17:35 PMMar 30
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「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に連載中の『新HPCの歩み』は、3月3日から2005年に入っています。12回連載の予定です。先週226回(d)と今週227回(e)の内容を紹介します。(d)は国内会議、(e)は日本の企業の動きと標準化です。

HPC関連の国内での会議はどんどん増えているので、私の把握した範囲で紹介しています。和光で行われた「理研シンポジウム」では、(最後の)RIKEN BMTコンテストが行われましたが、同時にベンチマークプログラムの公募も行いました。以前から性能評価の研究を主導している関口智嗣氏は、SPEC HPGでの議論を紹介して、ベンチマーク設定の困難さを指摘しました。

つくば国際会議場で開催されたSACSIS 2005では平木敬氏が「EFLOPS, 10Tbpsの世界を目指して」と題して基調講演を行いました。BlueGene/Lが100 TFlopsをやっと越した時点でExaとはさすが平木氏です。

SWoPP 2005は佐賀県武雄でした。長崎新幹線の高架橋ができていました。

第4回情報科学技術フォーラムFIT2005では、『スパコン日本の時代は取り戻せるか』というパネルが企画され、筆者が司会を仰せつかりました。

富士通研究所に「ペタスケールコンピューティング推進室」が設置され、2010年度末までにピーク3 PFlopsの次世代スーパーコンピュータを稼働させると発表しましたが、海外では、日本の次世代の目標が3 PFlopsだという誤解も生れました。

1月、中野守氏がHewlett-Packard社を辞めてクレイ・ジャパン・インクの社長に就任したことが大ニュースでした。独立後のCray Japanとしては初の専任社長でした。

IBMのBlueGene/Lが売れています。産総研の生命情報科学センターには2月に4ラック導入され、KEKには合計10ラック導入予定と発表されました。

CHOKKAで有名な平成電電が自転車操業で破綻し、傘下に入ったベストシステムズ社がどうなるか心配しました。西克也氏によると大けがはしなかったそうですが、いろいろ大変だったようです。

Grid標準化ではGGFがソウル、シカゴ、ボストンと3回開かれました。Globus Allianceに加えて、Globus Consortiumができたので、スワ分派活動かと一時緊張しました。

IECでは二進接頭語にZebiとYobiを追加しました。こんなの使うことがあるのでしょうか。

次回は、アメリカやヨーロッパの政府主導の動きです。アメリカはHPCの主導権を握れるのか?!

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Apr 13, 2025, 9:51:51 PMApr 13
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「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に連載中の『新HPCの歩み』は、2005年の中盤に差し掛かりました。先週228回(f)と今週229回(g)の内容を紹介します。(f)はアメリカ政府の動きとヨーロッパの政府関係の動き、(g)は世界の学界の動きと国際会議です。

アメリカは、地球シミュレータショックを抜け出して、やっとHPCの主導権を握り、計算科学が花開いているのに、ブッシュ大統領はPITAC(大統領情報技術諮問委員会)を終了させました。各界からは非難の声が上がっています。

(アメリカ)競争力協議会は、HPCは産業にとって不可欠なのに、投資によって得られる利益を正確に定量化できないために、産業界のHPC利用の推進が妨げられていると分析しました。

2004年には、DOE先進計算再活性化法が成立しましたが、2005年もHPC再活性化法が提出されました。下院は通過しましたが、どうも上院は通っていないようです。でも一定の政治的効果はあったと思われます。

DOEの比較的大型の資源提供プログラムINCITEの採択結果が公表されました。次回の公募からは、産業界からも申請を受け付けると発表しました。

ASCI(ASCと改名)の当初計画最後のマシンPurpleがLLNLで完成しましたが、Top500ではRmax=63.39 TFlopsに留まりました。ASCのもう一本の柱である同じLLNLのBlueGene/Lは、フル構成でRmax=280.6 TFlopsの性能を出しました。

ヨーロッパでは、Barcelona Supercomputer Centerが開所されました。初代マシンのMare Nostrumは前年から動いています。アイルランドでもセンターが開設されました。

BNLでは、QCD専用の超並列機QCDOC(10 TFlops)が2台設置されました。1台はDOEが、もう1台は理研が出資したものです。

GPUを一般科学技術計算に利用できるのではないかという関心が高まっています。CUDAができるのは2007年です。

LANLのWu-chun FengらがSC05においてGreen500を提唱しました。その論文はSC22においてTest of Time Awardを授与されました。最初のGreen500のリストが発表されたのは2007年です。

2005年も、世界中で多くのHPC関連の国際会議がありました。目についたものだけ紹介しました。

次回は、Heidelbergでは最終回となったISC2005について詳しく。

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Apr 30, 2025, 2:38:40 AMApr 30
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に連載中の『新HPCの歩み』は、2005年の後半に入っています。先週230回(h)と今週231回(i)の内容を紹介します。(h)はHeidelbergで開催されたISC2005、(i)はSeattleで開催されたSC|05の「その一」です。

20回目のISCは最後のHeidelbergでの開催となりました。私も家内同伴で参加しました。次回はLeipzigです。

Sun Microsystems社がHPCに進出してきて、ISC2005に先立ちHPC Consortium Europe 2005が2日間にわたって市内のホテルで開催され、私も参加しました。同社はDARPAのHPCSのPhase IIを受注した3社の一つであり、盛り上がっていました。残念ながらPhase IIIでは脱落します。

ISC2005では25回目となるTop500が発表され、地球シミュレータは4位にまで落ちました。それだけではなく、1993年には110台あった日本設置のマシンが、今回は20台強に減っています。由々しき事態です。反面、中国の進出が著しい。Top10の半分はBlue Geneでした。

Tom Sterlingは、一年間を振り返って、この一年は「高密度実装計算」の年と総括しました。超並列でノード数が増えると、高密度実装が不可欠になり、当然熱の問題も出てきます。今に続く問題です。

第18回目のSC|05は、初めてシアトルで開催されました。この時も、先立ってSun HPC Consortium USA 2005が開催され、参加しました。最大のニュースは東京工業大学のTSUBAMEでした。

富士通のUser’s Meetingでは、Tony Heyの招待講演があり、Microsoft社がいかにHPCに積極的に取り組んでいるかを力説しました。

SCの基調講演の一つは、地元Microsoft社の会長兼Chief Software ArchitectであるBill Gatesでした。会場は超満員でした。とくに新しい話はありませんでしたが、Bill Gatesが講演すると様になるから不思議です。

Technical papersは全62件で、3件は日本からの論文でした。産総研からの“Full Electron Calculation Beyond 20,000 Atoms: Ground Electronic State of Photosynthetic Proteins”はBest Technical Paper Awardを受賞しました。日本からは初めてだと思います。原研からの“16.447 TFlops and 159-Billion-dimensional Exact-diagonalization for Trapped Fermion-Hubbard Model on the Earth Simulator”はGordon Bell賞のfinalistでしたが、惜しくも受賞を逃しました。JST CRESTの中島浩(豊橋技科大)のチームの1U当たり16基を高密度実装したMegaProtoクラスタの発表は、中島氏が熱弁をふるいました。

Exhibitor Forumも各社花盛りでした。本文をご覧ください。

次回は、SC|05の「その二」です。Top500や学術講演、各種Awardsなど。

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May 18, 2025, 9:31:51 PMMay 18
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「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に連載中の『新HPCの歩み』は、2005年の終わりに近づいています。先週232回(j)と今週233回(k)の内容を紹介します。(j)はSC|05の「その二」、(k)はアメリカ企業の動きです。

Top500の上位はほぼ予想通りでした。Top20にBlue Geneが5件入りました。今回のTop500への参入条件は1.636 TFlopsでした。日本設置のマシンでは、Blue Geneを1ラック導入したニイウスが目立ちます。

Linpackだけでは性能の全体像がみえないということで、新しいBenchmarkの提案がなされています。SC2003頃から議論が始まったHPC Challenge Benchmarkがいよいよ具体化してきました。Class 1ではLLNL BlueGene/Lが4部門の1位を独占しました。実装のエレガンスを競うClass 2では、IBMのUnified Parallel CとCrayのCray MTA/Cの2件が受賞しました。

Seymour Cray Awardは、去年のBurton Smithに引き続き、またまたCray社のSteve Scottに授与されました。私は2005年からは関係していません。

超伝導コンピュータのパネルセッションがありました。現在、量子コンピュータの多くは超伝導を使っていますが、これは超伝導を使った古典的コンピュータです。日本からの登壇者はありませんでしたが、実は、日本がかなり頑張っています。

Gordon Bell賞は、案の定BlueGene/Lを使った固化のシミュレーションでした。

バンド幅チャレンジで、平木らのグループはFastest IPv6の部門で受賞しました。4回目です。

IBM社は2005年に入って、ドドッとBlue Geneを世界各地に設置しました。他方、ソニーグループと東芝と共同開発したCell B.E.の技術仕様を公開し、試作品を披露しました。POWER/PowerPCとBleu GeneとCellの3本建てはいつまで続くのでしょうか。

Cray社も、ベクトルのX1Eと、Red StormのXT3とミッドレンジのXD1の3本建てを続けています。

AMD社にx86-64で先を越されたIntel社はItaniumへの投資を続けています。日本の3社などを巻き込んでItanium Solutions Allianceを結成しました。でも新製品の出荷はずるずる遅れています。SGI社はNYSEから上場廃止を通告されました。前回の危機に続き再度復活なるか。

次回は2005年の最後の号で、ヨーロッパや中国の動きを伝えます。

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May 25, 2025, 9:45:08 PMMay 25
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「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に連載中の『新HPCの歩み』は、本日公開の2005年(ℓ)をもって2005年の記述(全12回)を終了いたしました。今週の記事をご紹介します。ヨーロッパ、中国、その他の動き、企業の終焉です。

2002年にイギリスで創立されたClearSpeed Technology社は、2005年6月、CSX600を発表しました。当時NVIDIAのGPUは64ビット演算に対応していなかった(非常に遅かった)ので、64ビット演算でピーク40 GFlopsのこのチップは科学技術計算関係者に衝撃を与えました。東京工業大学(現東京科学大学)のTSUBAMEもCSX600を大規模に導入すると発表しました(稼働は2006年)。

今は懐かしMeiko Scientific社に源をもつQuadrics社(Quadrics Supercomputer World社、ブリストルとローマ)は、最上位のスーパーコンピュータをターゲットにした相互接続網QsNet IIで快進撃です。

一方中国のサーバメーカーである曙光集団(Dawning)の歴軍(Li Jun)総裁は、Dawning 5000で100-200 TFlopsを実現すると発表しました。実現するのは2008年です。

IBMのPC部門を2005年5月1日買収したLenovo社(聯想集団)は、1 PFlopsのスーパーコンピュータを構築するプロジェクトに取り組んでいることを認めました。

Steve Chen(陳世卿)はGalactic Computing社を深圳で設立しています。

11月のTop500には中国設置のマシンが17件あり、最高はIBM p655の26位ですが、中国製も3件あります。Dawning社、Lenovo社、Galactic社製各1件です。他方、中国は2002年から年1回、「中国Top100」を発表しています。Top500に出ていないマシンもあります。

なおこの年、いっとき将来を嘱望されたAvaki、Transmeta、nCUBEなどが姿を消しました。「夏草や、つわものどもが夢の跡」

次回からは2006年です。東工大のTSUBAMEが6月のTop500で7位を獲得し、地球シミュレータを抜きます。Cray社はCray XT4とCray XMTを発表します。PlayStation 3が発売されます。中国ではShenWei(申威) SW-1プロセッサが開発されます。

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Jun 2, 2025, 1:18:45 AMJun 2
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「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に連載中の『新HPCの歩み』は、本日から2006年に入りました(手違いにより、アップロードが11時頃となったようです)。全13回の連載です。今週の記事を紹介します。「社会の動き」と「次世代スーパーコンピュータ開発」(その一)です。2006年は(後の)「京」コンピュータの基本設計が、「スカラ超並列とベクトル超並列のハイブリッド構成」に固まった重要な年です。

「社会の動き」もいろいろあります。この章は、何かの丸写しではなく、私が自分流にまとめたものです。印象的なのは「宇宙探査機New Horizonsの打ち上げ」です。2015年には冥王星を観測し、その後はUltima Thuleなど太陽系外縁天体を観測し、太陽系外に出ました。2025年現在まだ通信が続いています。皮肉なことに、発射後すぐ冥王星が準惑星に格下げになりましたが、無くなったわけではありません。Thuleというとゲーテのファウストの詩を思い出します。「Es war ein König in Thule,…(トゥーレの島に王ありき)」

1月4日、文部科学省に次世代スーパーコンピュータ整備推進本部が設置され、プロジェクトリーダー(研究振興官)として渡辺貞が着任しました。理化学研究所も、1月1日 次世代スーパーコンピュータ開発実施本部を設置し、丸の内の明治生命館6階に丸の内拠点を設けました。3月末には政府予算案が成立し、「特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律」の新法(共用法)が7月1日施行されました。

次世代スーパーコンピュータ開発戦略委員会の下に「アプリケーション検討部会」を設置し、設計のターゲットとする21種のアプリケーションソフトウェアを選定しました。2005年の総合科学技術会議の評価検討会で、文部科学省側が、「これは汎用スーパーコンピュータなので、どんなアプリにも対応できます」と主張しましたが、岩崎委員や私などが、アプリケーションとアーキテクチャは密接に関係しているので、連携開発(今の言葉ではco-design)が必要だと強調しました。今後はこの21本のソフトをベースに開発が進みます。

ナノとバイオの2つのグランドチャレンジアプリケーション研究も始まりました。いよいよアクセル全開です。

概念設計の経過は次回に書きます。多くの提案がありましたが、F案とNH案の2案に収束して行きました。

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Jun 15, 2025, 10:27:12 PMJun 15
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「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に連載中の『新HPCの歩み』は、すでに2006年に入っています。先週の新HPCの歩み(第236回)-2006年(b)-と、本日公開の新HPCの歩み(第237回)-2006年(c)-についてご紹介します。(b)は「次世代スーパーコンピュータ開発」(その二)、(c)はその他の日本政府関係の動きです。

次世代スーパーコンピュータのシステム概念設計は、14もの提案の中からF案とNH案に絞られました。F案は建設された「京」コンピュータによく似ていますが、相互接続網がTofuではなく、ToFuです。82944という計算ノード数は同じです。NH案は、結局実現しませんでしたが、2013年に日本電気が発表したSX-ACEに似ています。詳しくは本文をごらんください。

どこに建設するかを決める立地検討部会を7月に設置しました。政治問題になりそうなので、部会長は、黒川清内閣特別顧問(当時、日本学術会議会長)が務めました。15か所の候補地の推薦があり、慎重に議論を進めます。その経過は、「次世代スーパーコンピュータ施設立地評価報告書」にきわめて詳細に記録されています。決定は翌2007年。

(a)の記事と合わせて見ると、全体としてシステム先行でした。応用については各分野からターゲット・アプリケーションを選定し、順位付けをしたが、計算需要については、それぞれ何PFlopsの計算機が欲しいという漠然とした集約で議論が進んでいきました。その後の「富岳」や「富岳Next」では、各分野でロードマップを策定し、そこから計算需要を算定している(実際には当たらないが)こととはだいぶ違っています。

政府関係の動きで重要なのは、日本学術会議の改組です。先日5月11日、学術会議の法人化が学界の反対を押し切って決定されましたが、その一回前が、2005年の会員選出方法の変更です。1984年以来、学協会からの推薦に基づいて選出していましたが、この時、日本学術会議が自ら先行する方式に変更されました。そもそも、1984年以前は、有権者の選挙で決めていました。わたしの院生時代、1本論文が通ると有権者として登録でき、学界に身を置いたと実感しました。票集めが見苦しいと学協会選出に変更しましたが、学術会議が研究者から離れていく危険を感じました。今回(2005年から)、さらに学協会も会員選出に関与しなくなり、「学者のお手盛り」という批判が出てくることを恐れました。ただ、2000人強の連携会員という制度ができ、私も一人に加わりました(任期6年)。

2025年の強引な学術会議法人化に際し、もし、有権者による選挙であったなら、研究者が自分のこととして議論できたのに、と悔やまれます。

JSPSワシントンセンター主催のスーパーコンピュータに関する”Science in Japan” Forumを企画することになりました。丸一日のフォーラムで、日米から話題を提供しましたが、さすが首都ワシントンで、政府機関からも多くの聴衆が集まりました。わたしの講演では、1980年代90年代に414%の関税など日米スーパーコンピュータ貿易摩擦でアメリカが日本に対しいかに理不尽なことをやったかを力説しました。聴衆は分かっているのか、質問や反論はありませんでした。この414%から見ると、2025年にアメリカが中国に課した145%の関税など小さく見えます。

次回は日本の大学センターの動き、学界の動きです。東京工業大学のTSUBAMEが、地球シミュレータを抜いて日本最高速のコンピュータとなります。

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Jun 29, 2025, 9:44:13 PMJun 29
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「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に連載中の『新HPCの歩み』は、すでに2006年に入っています。先週の新HPCの歩み(第238回)-2006年(d)-と、本日公開の新HPCの歩み(第239回)-2006年(e)-についてご紹介します。(d)は「日本の大学センター等」「日本の学界の動き」、(e)は「国内会議」です。

大学センター関係では、センターの基本構想を転換させる2つの大事件がありました。それはTSUBAMEの稼働とT2K構想の発足です。ある意味で、その後の「京」や「富岳」にも連なる大変革、「(vender) catalog-drivenからtechnology-driven」への大転換でした。その萌芽は、NWTやCP-PACSにあったとも言えます。

東京工業大学(現、東京科学大学)では、前年のISC2005やSC|05で発表したように、AMD OpteronとCSX600を搭載したTSUBAMEを稼働させました。6月にはOpteronだけで36.36 TFlops(ピークの72.91%)を達成し、地球シミュレータを抜いて日本トップとなりました(地球シミュレータが日本トップだったのは、連続8回でした)。その後CSX600も稼働させてRmax=47.38 TFlopsを実現しました。

この成功を受けて、筑波大学、東京大学、京都大学のセンター関係者の間で、次期スパコンの基本設計を3大学共同で行うという構想(コード名Rhodes)が始まりました。9月6日に共同記者発表を行いました。いつの頃からかT2K (Tsukuba-Tokyo-Kyoto)と呼ばれるようになりました。詳細や経緯は本文をお読みください。ちなみに、ノーベル賞を受賞した加速器による長距離ニュートリノ実験T2K (Tsukuba to Kamiokande, Tokai to Kamiokande) とは関係ありません。

マイクロプロセッサによる超並列の時代を迎えてPCクラスタコンソーシアムが活発に活動しています。なおリンクしたプログラムなどが文字化けしていることがありますが、拡張機能のCharsetをインストールして、EUC-JPかISO2022-JPと設定すると読めます。

今年は日本初の真空管式電子計算機FUJICの完成(1956年3月)50周年、かつ情報処理学会創立45周年ということで、3月には盛大な全国大会を新宿の工学院大学で開催しました。工学院大学としては、4月の「情報学部」設立記念でもありました。私も初代学部長として走り回っていたはずですが、特別企画の記憶は飛んでいます。圧巻は、FUJICの実物大の写真でした。これだけは覚えています。

この年も多くのHPC関係の国内会議が開かれました。私は行きませんでしたが、2月のIPABシンポジウムではバイオナノやDNAコンピューティングが議論されています。12月のシンポジウムでは、引っ張り出されてHPCの歴史の話をしましたが、もう聞き飽きたのでは。

次回は日本の企業の動きと標準化です。次世代スーパーコンピュータ開発プロジェクトで、富士通と日本電気・日立製作所の2チームは概念設計を実施しました。グリッドではOGFが発足します。

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Jul 13, 2025, 9:44:21 PMJul 13
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「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に連載中の『新HPCの歩み』は、2006年の歩みを書いています。先週の新HPCの歩み(第240回)-2006年(f)-と、本日公開の新HPCの歩み(第241回)-2006年(g)-についてご紹介します。(f)は「日本の企業の動き」と「標準化」、(g)は「アメリカ政府の動き」です。

次世代スーパーコンピュータ開発プロジェクトでは、日本電気・日立チームと富士通が、それぞれ10 PFlopsを目指す概念設計を実施しました。

日本電気は、演算器を2倍に増やしたSX-8Rを発表しました。要素技術では2 5Gbpsの直接変調動作が可能な面発光レーザーの開発に成功しました。

富士通は、dual-core Itanium2 (1.6 GHz)を搭載したサーバPRIMEQUESTを岡崎共通研究施設 計算科学研究センターに設置しました。

日立は、SR11000/K1を、気象庁や高エネルギー加速器研究機構に設置しました。

日本IBMは、CellやBluegene/L関係のセミナーを盛んに開催しました。

標準化では、グリッド標準化を目指すGGFと、グリッドの企業利用を促進するEGAとが合併しOGF (Open Grid Forum)を設立しました。GGF会議も3回開かれています。

アメリカのブッシュ大統領は、競争力が強化されるようアメリカのイノベーションを奨励すると述べました。HPCにも多額の投資が行われています。

LANLは、PFlops級のスーパーコンピュータRoadrunnerの提案を公募し(名前が先についている)、16000個のCell B.E. (Broadband Engine)とAMD社のx86プロセッサOpteron 16000コアからなるIBMの提案を採択しました。2008年に、最初にLinpackでPFlopsを超えるマシンとなります。全予算は$110M。

ORNLではCray社のJaguarを導入すると発表しました。これもPFlops級を謳っていましたが、一番にはなれませんでした。

SNLでは、Red Stormの更新が進む一方、1996年12月に初めてTFlopsの壁を越え、1997年6月のTop500でCP-PACSに代わって1位を取ったASCIの最初のスーパーコンピュータASCI Redは2006年6月29日をもって、ついにシャットダウンとなりました。「アディオス、ASCI Red」のケーキが作られました。

NERSCではHorst Simonが所長辞任の意向を表明しました。2008年1月にKathy Yelickが所長に就任します。

NSFでは、TeraGridの資源提供機関が増えています。最初はItanium色が濃厚でしたが、しだいに多様性が増えています。

DARPAでは、HPCSのPhase IIIが発表され、Sun Microsystems社が撤退しました。

次回は、ヨーロッパの政府関係の動き、中国の動き、世界の学界、および国際会議(その一)です。中国製のCPUチップ「龍芯」や「申威」などが登場します。「漢芯」はfakeでしたが。

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Jul 28, 2025, 10:40:26 PMJul 28
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「平成の語り部」小柳義夫です。電子ジャーナルHPCwire Japan https://www.hpcwire.jp/
に連載中の『新HPCの歩み』は、2006年の世界の動きに入っています。先週の新HPCの歩み(第242回)-2006年(h)-と、昨日公開の新HPCの歩み(第243回)-2006年(i)-についてご紹介します。(h)は「ヨーロッパの政府関係の動き」、「中国の動き」「世界の学界の動き」、「国際会議(その一)」、(i)は「国際会議(その二)」です。

ヨーロッパでは、政府の方針によりスーパーコンピュータが続々増強されています。中国政府は第11次五ヵ年計画の中で、電子情報通信分野では、情報産業の重要技術を掌握し、技術水準を世界のトップレベルに引き上げることを目標としています。

Texas大学Austin校の後藤和茂氏は、それぞれのプロセッサにチューニングされたGotoBLAS開発し、TACCはそれを公開しました。HPCwire紙は、後藤氏はどんなコンパイラもなしえない最適化を編み出し、「人間は機械に勝った」と書いていますが、20年後の今日、AIが発展しつつある現在、コーディングにおいて「人間はLLMに勝てる」でしょうか?

Toronto大学のGeoffrey Hinton博士らは、Auto-encoderの深層化に成功し、DL (Deep Learning)への道を切り開きました。Geoffrey Hintonは、John Hopfieldとともに、2024年のノーベル物理学賞を受賞しました。

第7回目となるVECPAR 2006は、初めてPortoを離れ、2006年6月10日~13日にブラジルのRio de JaneiroのIMPA(純粋応用数学研究所)で開催されました。

HPC関係では最古の国際会議ICPPは、記念すべき第35回がオハイオ州Columbusで開催されました。ICPPは1999年に会津若松で開催されて以来、「アジア」「北米」「ヨーロッパ」「北米」の順に4年周期で循環することとなりました。「北米」といってもカナダでの開催が3回続き、1998年のMinneapolisでの開催以来、久しぶりのアメリカ国内の開催となりました。

第4回となるGlobus World 2006は、GGF18およびGridWorldと合同で、2006年9月11日~14日にWashington DC Convention Centerで開催されました。2006年はGlobusプロジェクトの10周年です。

次回は、Dresdenで開催されたISC2006の詳報です。わたしも参加しました。

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Aug 19, 2025, 4:40:14 AMAug 19
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に連載中の『新HPCの歩み』は、2006年の記事も終わりに近づきつつあります。先々週の新HPCの歩み(第244回)-2006年(j)-と、昨日公開の新HPCの歩み(第245回)-2006年(k)-についてご紹介します。先週は休みました。(j)はドレスデンで開催されたISC2006、(k)はタンパで開催されたSC06です。

これまで何回かハイデルベルクで開催されていたISC2006は、より会場の広いドレスデンに移りました。建都800年にあたり、また爆撃で破壊された聖母教会の再建も前年完了しました。私もドレスデンは初めてでした。折からドイツでワールドカップが開催中で、町中が浮かれていました。

Top500は、トップは相変わらずBlueGene/Lでしたが、東京工業大学のTSUBAMEが7位に登場し、地球シミュレータを超えたことが注目を浴びました。「しかもUS Technologyで作られている」とStrohmaierが強調しました。20位以内で日本国内設置は、他に産総研のBlue ProteinとKEKのMOMOとSakura(いずれもBlueGene/L)でした。

Horst Simonを座長に” the Asian Attack”というセッションが設けられ、私が日本の次世代計画について公開されている範囲で発表しました。Steve Chenは中国のHPCの最近の勢いについて講演しました。

なお、この年まではInternational Supercomputer Conferenceと名乗っているようです。

タンパのSC06は推薦入試と重なって出席できませんでしたが、渡辺貞氏(当時、理研次世代スーパーコンピュータ開発実施本部)がSeymour Cray賞を受賞しました。受賞記念講演の最後に、「私がこの賞をいただけたのは三好氏のおかげである。三好氏に感謝している」と述べました。

日本から採用された論文は1件でしたが、これは、産総研グリッド研究センター、名古屋工業大学、USCの共同研究によるもので、古典分子動力学、量子論的分子動力学の混成問題を、世界に広がったグリッド上で解く技術を開発しました。日本発のグリッド・ミドルウェアNinf-Gが活用されています。

Jack Dongarraが主導するTennessee大学のグループは、いくつかのプロセッサで単精度演算が倍精度演算より2倍から10倍も速いことから、混合精度演算で、倍精度演算と同等な結果をより高速に得られることを示しました。

Gordon Bell賞は、6件のfinalists中4件が日本のグループの成果でしたが、受賞は他の2件でした。MDGRAPE-3を使ったプリオンのシミュレーションはHonorable Mentionとして賞賛されました。筑波大・KEKのグループがStorage Challengeで受賞したことも大きな成果でした。

Top500では、20位以内は東工大のTSUBAMEと地球シミュレータだけになってしまいました。

次回は、アメリカの企業の動き(その一)です。IBM社はCell Broadband Engineを採用したブレードサーバーを開発したと発表しました。

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Aug 31, 2025, 9:09:59 PMAug 31
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に連載中の『新HPCの歩み』は、本日公開の「新HPCの歩み(第247回)-2006年(m)-」で2006年を終了しました。先週の「新HPCの歩み(第246回)-2006年(l)-」と合わせてご紹介します。「アメリカ企業の動き」「その他の企業」「企業の創業」「企業の終焉」です。

IBM社は、Cell B.E.を2基搭載したブレードサーバQS20を発売しました。2008年にLANLのRoadrunnerに搭載されるのはFP64の機能を増強したQS22です。

同じくIBM社は、Blue Geneのロードマップを更新し、Blue Gene/Qの目標ピーク性能を10 PFlopsと発表しました。2010年~2012年に実現するとのことで、日本の次世代スーパーコンピュータ計画とガチンコでぶつかります。

SGI社は、5月にChapter 11(連邦破産法第11章(よく11条と言いますが、Chapterは章です)、日本の民事再生法に相当)の保護を申請しましたが、なんと10月には脱しました。Bishop CEOは取締役に退き、Dennis McKennnaが会長兼CEOに着任しました。

Cray社は複数の製品ラインをXTシリーズにまとめるRainerプログラムを推進しています。これにより、FPGAも、ベクトル(X2)も、MTA (Eldorado)も統合されます。ORNLのJaguar (Cray XT4/XT3)はRmax=101 TFlopsで、6月のTop500で2位にランクしています。

Sun Microsystems社は、SPARCとともにAMD Opteronを搭載したサーバにも力をいれます。前述の東工大(現東京科学大学)のTSUBAMEもOpteron搭載のSun Fireから構成されています。Sun社はHPC業界に再挑戦しています。

Itaniumに足を取られていたIntel社は、Coreマイクロアーキテクチャのx86-64で、AMDを振り切ろうとしています。と同時に、1チップでTera Flopsを実現するCPU/アクセラレータを研究しているとの発表がありました。Larabeeという名前も聞こえてきました。しかし、これもこのあと迷走します。同社は10%(約1万人)の人員削減を余儀なくされます。

AMD社はIntel社に挑戦していますが、まるで「ダビデとゴリアテの戦い」(サムエル記上17章)と評されました。身長2.9mの巨人Goliath(Intel社)を、羊飼いの少年David(AMD社)が小石(CPU)で倒したからです。でも状況は急速に変わりつつあります。

AMD社は、なんと$5.4BでカナダのGPU会社ATI Technologies社を買収すると発表しました。CPU-GPUの統合を意図しているとの噂も。

他方、NVIDIA社はGPU向けの統合環境CUDAの構想を発表しました。実際に公開されるのは2007年です。

Steve Wallachら元Convex Computer Corporation関係者によりConvey Computer Corporationが設立されました。「x」を「y」に進めたようです。FPGAに基づくハイブリッドシステムを開発しています。SC06で、堂々デモを行っていました。

3月Amazon.comの子会社であるAmazon Web Service社(AWS社)は、Amazon S3 Cloud Storageを開始し、8月にはAmazon Elastic Compute Cloud (EC2)を開始しました。

次は2007年。次世代スーパーコンピュータは、神戸設置がきまります。

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Sep 8, 2025, 12:58:42 AMSep 8
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に連載中の『新HPCの歩み』は、本日公開の「新HPCの歩み(第248回)-2007年(a)-」から2007年に入りました。今回は、「次世代コンピュータ開発」(後の「京」)の「その一」です。

3月28日、理研は次世代スーパーコンピュータ施設の立地地点として、神戸のポートアイランド第2期を選んだことを発表しました。仙台(東北大学サイバーサイエンスセンターの南側の空き地)も有力候補だったようです。報道によると、「神戸市は、約40億円の土地を無償貸与し、さらに拡張用地も用意するといった大盤振る舞いが功を奏した」とのことでした。

文部科学省に次世代スーパーコンピュータ概念設計評価作業部会が設置され、理研の概念設計の評価を行いました。理研は、10 PFlopsのユニットA(富士通製、超並列スカラ)と、3 PFlopsのユニットB(日本電気・日立製、超並列ベクトル)を共有ファイルで結合した複合システムを提案しました。これで「統合汎用スーパーコンピュータシステム」「科学技術・産業の競争力を発展させる将来型システム」と言えるのか?ここでの議論は荒れに荒れました。

多くの委員に不満が残りましたが、6月12日、評価報告書が公表され、GOが出ました。富士通および日本電気・日立は7月4日から詳細設計を開始しました。この議論は2年後の事業仕分けまで長引きます。

この計画は実現不可能だから、2008年ごろ売り出される市販品を安く買えばよい、という批判がありました。2008年にそんなものは買えたでしょうか?

ちなみに、記事では名前を伏せましたが、「ボク、罰金の方がいいです」とつぶやいて役人に一喝されたのは天野英晴委員、「もっと上手に騙されたい」と叫んだのは、故中島浩委員です。

次回は、「次世代スーパーコンピュータ開発の続き」および「日本政府の動き」です。アプリケーション検討部会は21個のターゲットアプリケーションを決定しました。NAREGIシンポジウム2007「グリッドで切り開く次世代研究環境」が一橋記念講堂で開催されました。

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Sep 21, 2025, 9:15:25 PM (11 days ago) Sep 21
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に連載中の『新HPCの歩み』は、2週間前から2007年に入っています。先週の「新HPCの歩み(第249回)-2007年(b)-」と「新HPCの歩み(第250回)-2007年(c)-」を紹介します。先週の(b)は「次世代コンピュータ開発」(後の「京」)の「その二」と、「日本政府の動き」の「その一」、本日公開の(c)は「日本政府の動き」(その二)、「日本の大学センター等」、「日本の学界の動き」です。

理化学研究所のアプリケーション検討部会は、1年余りの議論を経て、次世代コンピュータのターゲットとするアプリケーション21個を決定しました。今後は、これを参照目標としてシステム開発を進めます。

また、理化学研究所は、10月、「次世代スーパーコンピュータシンポジウム2007 -ペタスケール・システムの利用に向けて」を丸の内明治安田生命ビル内MY PLAZAホール及びMY PLAZA会議室で開催しました。若手研究者のポスターが展示され、その中から最優秀賞、優秀賞を選考し、受賞者をSC07のレポータとして派遣しました。

2つのグランドチャレンジアプリケーション研究(ナノとバイオ)はそれぞれシンポジウムを開催しました。

総合科学技術会議の評価専門調査会では、国家的に重要な研究開発の評価「最先端・高性能汎用スーパーコンピュータの開発利用」についての原案が示され、了承されました。

地球シミュレータセンターでは、次世代スーパーコンピュータ計画が進む中での生き残り策として、「部品交換で能力を2倍にする」計画を概算要求しました。実質は更新なのですが、事情によりこういう言い方になりました。

JAXAでは、各事業所に設置されていた3つのコンピュータを1つに統合したJAXA Supercomputer System (JSS)を調布事業所に設置し、運用を開始しました。

JSTは、理事長を元科学技術庁次官の沖村憲樹氏から、高温超伝導で有名な元東大教授の北澤宏一氏に代えました。アカデミア出身の理事長は初めてです。

東北大学金属材料研究所は、BlueGene/Lの1/8 rackに相当する、「NIWS Gene/S Turbo」を導入しました。

次世代スーパーコンピュータの立地が神戸に決まり、神戸大学は他の3大学と共同して、大学院GP (Good Practice) 「大学連合による計算科学の最先端人材育成」を始めました。3年間のプロジェクトです。併せて、神戸大学では「計算科学」を軸にした新研究科を作る構想を始めます。

大阪大学は総合博物館を発足させ、1階の「コンピュータの黎明期」のコーナーには、さまざまな機械式計算機とともに、1950年に城憲三教授(1904-1982)が試作したENIAC型10進演算装置(真空管)を展示しました。

次回は、国内の会議です。PCクラスタコンソーシアムでは、3回のセミナーを開催し、PCクラスタの普及に努めます。SACSISではこれまでGrid Challengeに代えて、話題のCell B.E.を用いたマルチコアプログラミングコンテスト 「Cellスピードチャレンジ2007」を開催します。
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