【論文紹介】個人主義からチーム主義へ──研究評価が迎える転換点

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Chiaki Miura

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Dec 15, 2025, 7:00:11 PM (11 days ago) Dec 15
to Science of science研究会
 
背景
研究評価は依然として、論文数・被引用数・個人の受賞歴など「個々人の実績」に偏りがちです。一方で、近年の計量研究では、チーム構成と文化がイノベーションに直結することが示されています。たとえば、6千万件の論文・特許・ソフトウェアの分析では、小さいチームが破壊的イノベーションを、大きいチームは既存知識の発展を担うことが明らかになっています(Wu et al., Nature 2019)。また、フラットなチームほど新規性の高い研究を生むことも示されています(Xu et al., Proc. Natl Acad. Sci., 2022)。こうした知見を踏まえ、本論説は「優れた科学は優れたチームから生まれる」という観点から、研究評価改革の必要性を論じています。
 
主な主張
  • 研究はもはや「孤高の個人」ではなくチームで遂行されており、評価も個人からチームへ視点を移す必要がある。
  • 強いチームには、共通ビジョン、信頼、明確な役割分担、インクルーシブな文化が不可欠であり、その形成や維持に対する評価・インセンティブが不足している。
  • そのために、(1) リーダーがチーム文化のビジョンとルールを明示すること、(2) 研究費申請の段階で役割分担と報酬の配分方針を説明させること、(3) コミュニケーション・コラボレーション研修や、チームとファンダー/大学の年次レビューを制度化することなどを提案しています。
  • DORA や CoARA など既存の改革イニシアチブを土台にしつつ、EU 次期フレームワーク計画では研究文化を評価の中心に据えるべきだ、と結論づけています。
 
反論・注意点
  • チーム文化や協働の質は、定量指標化が難しく、評価が形式主義化・チェックリスト化するリスクがあります。
  • 大規模チーム偏重の評価は、小さな創造的チームや個人研究の価値をさらに押し下げかねず、Wu ら自身も「多様なチームサイズの共存」が重要と指摘しています(https://doi.org/10.1038/s41586-019-0941-9 )。
  • チーム単位の評価を強化することで、逆に内部の序列や「見えない貢献」の搾取が固定化する可能性もあり、役割の透明性と個人評価とのバランス設計が不可欠です。
  • また、デンマークやEUの制度文脈での議論であり、研究費配分メカニズムや雇用慣行が異なる他地域への直接適用には慎重さが求められます。
 
総じて本論説は、「指標の見直し」だけでなく、チーム文化そのものを設計し評価することが、今後の研究評価改革の核心になると位置付けています。
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三浦です。
今回は研究報告ではなく、論説(position paper)です。人文学ですら20世紀と異なり、チームで進める潮流ですが、「いいチーム」を評価する指標は未成熟です。Science of scienceの窮理的理解も、評価の実践も足りていません。
 
なお、Pedersenは本文中で「個人よりもチームの方が破壊的な科学を生み出す可能性が高いことがわかりました(teams were more likely to generate disruptive science than individuals were)」はWu et al. 2019からは読み取れない内容で、誤読と思われます。Fig2.aから、小さいチームよりもさらに個人の方がdisruptivenessが高いです。
 

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三浦 千哲 (Chiaki Miura)
TEL: 070-2682-2741
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