東大D2の三浦千哲です。面白い論文を見かけたので投稿します。
一般に国からの研究資金が大きいほど研究のインパクト(被引用数)は高いですが、逆の因果であることが指摘されています。つまり、必ずしもファンディングを受けたから高いアウトプットが出ているわけではなく、高い業績の研究者にファンディングが与えられがちなためにすぎないということです。
この研究では、そういった「そもそも誰に資金を与えるか」の選択が「その研究者が出す研究のインパクト」に与えてしまう影響を排除するための変数を3つ(ファンディング委員会への影響力、人気のテーマを選びがち、申請手続きの習熟度合い)取り出し、補正した上で研究者のアウトプットにファンディングがどれくらい影響を与えているのか、因果推論でよく使われる手法の一つ操作変数法を用いて分析したものです。
詳しくはこちら:
North WesternでDashun Wang研卒のYiBuがCorrespondingで、QSSに投稿されたようです。
”Political Hegemony, Imitation Isomorphism, and Project Familiarity: Instrumental Variables to Understand Funding Impact on Scholar Performance”
Yang Ding, Yi Bu
Abstract(google 翻訳による):
本論文は、研究資金が学者のパフォーマンスに与える影響を探る新しいアイデアを提案する。2000年から2019年にかけて米国の社会科学分野の大学の主任研究者が受け取った9,501件の研究助成金の詳細と、Microsoft Academic GraphおよびWeb of Scienceの書誌コレクションにある出版物や引用に関するデータを収集することで、助成金と論文数、引用、ジャーナルCiteScoreの新しいデータセットを構築する。このデータセットに基づいて、まず、競合する助成金の影響の研究において内生性の問題を分離するのに適した3つの操作変数(IV)、すなわち、学術界における学者の政治的覇権、学者間の模倣同型行動、およびプロジェクトの精通度を導入する。次に、本研究では、3つの操作変数を2段階最小二乗(2SLS)モデルと組み合わせて、研究資金の影響を説明する。また、これら3つの操作変数と研究資金の影響の妥当性と堅牢性のテストも提供する。 IV は、研究資金の効果を捉える際に、外生化と内生性の分離の機能を果たすことが分かりました。実証的知見によれば、研究資金を受け取ると、研究者の研究成果と影響力が高まります。研究資金によって CiteScore の高い論文が大幅に増えるわけではありませんが、低評価のジャーナルへの投稿が減り、ジャーナル選択戦略が再編され、学術的パフォーマンスの底上げにつながります。