引用数の増加が単なる量的拡大ではなく、知識生産の語り方そのものの変化と結びついていることが分かる
この研究の面白さ・すごさ
1965・1985・2015年の三つの時期で、同一主要誌を用いた約220万語の通時コーパス分析により、引用が50年で約2倍(1万語あたり68→138)に増加した一方、伝達動詞を伴う「著者が見える」引用は大幅に減少したことを示す。特に非完備引用(括弧内引用)が全体の約85%を占めるようになり、知識は「誰が言ったか」より「何が示されたか」として提示される傾向が強まっている。これは電子化・評価制度・競争環境の変化が、修辞実践を静かに再編してきた証拠である。
注意点・前提条件
対象は4分野・各5誌に限定され、取られた論文数も360本と少ないため、分野全体への一般化には注意が必要。また、引用の「意図」はテキスト分析からの推定であり、個々の著者動機を直接測ったものではない。
具体的データ・事例
2015年コーパスでは総引用数13,411件、伝達動詞を含む引用は全体の12.3%に低下(1965年は31.1%)。生物学では非完備引用が90%に達する(本文Table 2, Figure 3)。
“citations are therefore now the currency of the scholarly economy”
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三浦です。引用文脈の系譜にある研究ですね。
著者が見える引用、とは、本文では "integral citation (完備型引用)" と呼ばれており、引用箇所に著者名を含むような引用のことです。例えば、 "Overdale (2014) argues that..." とか "Matthei’s equations [17, 19] were first used as ..." とか "According to Hirvela (1989), ..." などです。非完備的引用はPrevious work has shown that … (Smith 2010; Jones 2012)」などのように、カッコの中にしか著者名がない場合を指しています。そして、完備引用に対する非完備引用の比率、つまり著者よりも論文に興味のある書きぶりは、1965年には分野別に0.8倍から3倍程度の範囲だったのに対し、2015年にはそれが2.5~8倍ほどに増えており、全ての分野で増加しています。ここでジャーナルを固定していることが活きていて、引用ポリシーの変化のせいではない、つまりジャーナルに、こういう引用形式にしてください、著者名をカッコに入れてください、と言われたからではない、ということがいえます。
引用の意図は、著者Hyland自身が1999年の研究で分類した類型と同じものを使っています。伝達動詞は具体的には、引用するときに使う A show, point out, establish, などの動詞のことです。
一つ面白いのは、伝達動詞が肯定的か中立的かの分類で、argue, see は肯定的、address, suggestなどは中立的かやや懐疑的に分類される、ということです。非英語圏の人だと、この辺のニュアンスはなかなか汲み取りにくいのでは。国ごとに使われる動詞の分布の違いは研究テーマになりそうです。