山に登れば降りるもの。登り続けることも降り続けることもできません。80歳を超えてエベレストに登ろうと同じ事です。いつかは下山します。それにしても多寡が山登りに億単位の費用がかかるとは、流石にエベレスト登山です。
それはさておき、株価もまさしくそのように、上昇すればその期待をあざ笑うように次の日には急落を。株の乱高下はなぜ。それは笑って済ませる喜劇なのか、それとも私たちの生活を脅かす悲劇なのか、今朝のテーマはそれです。
経済記事を信用するなという、週刊ダイヤモンドの経済記事を信用して、現下の金融市場の実相をみてみましょう。なかなかの力作です。
異次元の金融政策で気を吐いた黒田日銀、株高・円安を演出してすべて目出度しとなるかと思いきや、懸念が的中しました。金利の上昇です。
2%の物価上昇は簡単に実現できると豪語した黒田総裁、高騰する長期金利を目の前にして、見通しを聞かれても曖昧な回答に終始して市場は混乱しましたが、一段落して師匠関係者はホッとしたということです。
ところが、アメリカからFRB議長バーナンキ氏から金融緩和政策を緩めると。なんか、緩和を緩めるとは日本語が変ですが、いわゆるQE3といわれた三回目の量的緩和政策を止めていくというものです。
量的緩和政策 → 市場へのドルの過剰な供給 → 米金利の低下 → ドル安
→ 株高 という金融政策で日米趣旨は同じです。
ですから、QE3を抑えると言うことは、逆の現象
金利の上昇、株安、ドル高が生じます。ここで最初の問題です。バーナンキ議長はなぜ
こんなQE3政策を縮小するなどと、ちらつかせたのでしょうか。市場がこう反応することは見えています。それは米国経済が復調し、むしろ超金融緩和政策ではインフレ懸念が生ずるという具体的な判断と、同時にこうしたFRBの超金融緩和政策は異常で有り、FRBに頼った景気回復はできるだけ避けるべきとのセントラル・バンカーとしての矜恃が少しはあったと言うことです。
米の長期金利上昇を受けて、日本の金利も上昇します。これに日銀は慌てます。このまま長期金利の上昇を許せば、日銀のシナリオはすべて崩れ去ります。
「慌てたのは日銀だ。10時10分、日銀は1年物の共通担保オペで2兆円に上る資金供給を実施。加えて、総額8100億円の買いオペもオファーした。財政ファイナンス懸念を避けるべく、これまで国債の入札日には買いオペを避けてきた日銀だが、この日はまさに国債入札日。背に腹は代えられないと判断したためか、異例の対応に出る。」
これが今回の出来事のすべてです。緊急事態で危機的状況です。
理由を説明します。先進国の金融政策の常識として、中央銀行の独立性が唱えられています。どこまで本当に独立しているのかは別として、とりあえずそうなっています。時の政権の目先の人気取り政策に迎合しないためです。その中心が、日銀が政府から直接言い値で国債を買わないと言うことです。政府は一端市場で売却し、ということは市場で値段が決まるということです。政府が国債を乱発すれば市場で国債の価格は暴落し、それによって政府の国債発行は自粛されるという、市場規律への信仰があります。
市場での売却とされていますが、その時の買い手に日銀が登場したらどうなりますか。ほとんど日銀の直接買い入れと変わらなくなります。そうした批判を避けるために、国債が売り出された日に日銀は国債を買わないという市場慣行がありました。
「これまで国債の入札日には買いオペを避けてきた」
というのがそれです。ここに一つのタメがあったのです。庶民の生活からタメが失われてきて久しく、ひとたび生活に問題が生ずるとたちまち貧困の渦に投げ込まれる。三歳の息子に美味しいものが食べさせられないと書き記して若い母親が餓死していくというあまりに痛ましい出来事が大阪でありました。相談場所にさえ辿り着けないという実態です。
これに近い貧した状況が、国債売り出し日の日銀の買い入れという行動です。記事にも
「背に腹は代えられない」と指摘しています。こうなってはいけないのです。ここまで追い詰められるような、タメを失うような金融政策は危ういのです。
母子の生活難と日銀の金融政策とどんな関係があるんだ、いくら何でも論理の飛躍だろうというご指摘はその通りと思います。冷静さを欠いてしまいますが、それでも私にはこの二つの出来事が日本の危機的状況を映し出すものとして重なって見えて仕方が無いのです。
「その一方でアベノミクスに沸いていたはずの日本市場が、”バーナンキ・ショック”でいとも簡単に揺さぶられる現実を目の当たりにすると、実際はいかに景気回復の足取りが脆弱なものであるか、図らずも証明したといえる。」
と同記事は結論していますが、同感です。タメを失って追い詰められた政策当事者の一言一言に翻弄される市場関係者に喜劇を見ます。同時にそれは三歳の息子に満足に食べ物も与えられなかった母親の悲劇と重なってしまうのです。喜劇で楽しめれば良いのですが、舞台は暗転し悲劇とならないことを念願します。
柴田武男
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週刊ダイヤモンド
株・債券急落、円高巻き戻し…
市場を混乱に陥れた“バーナンキ・ショック”
2013年05月24日
そのとき、何度も投げかられた質問が、ぱったりと途切れた。
5月22日、15時30分。黒田東彦・日本銀行総裁の下で開かれた3回目の金融政策決定会合後、総裁記者会見での質問は案の定、このところ不安定化しつつあった長期金利に集中した。
「なぜ金利が上がっているのか」「これは一時的なのか」「抑え込むことはできるのか」――。
これに対して黒田総裁は、「緩和策によって、リスクプレミアムは低下していく」「景気回復期待が高まれば、長期金利が上昇する可能性はある」と、どっち付かずの説明を繰り返すばかり。結局のところ現在の金利上昇を容認しているかについては明言を避け続け、記者たちも半ば諦めた様子で突如質問は鳴りやんだ。
”玉虫色”の会見結果を受けて、市場も迷いを見せた。円は直後に買われたものの、すぐに反落。債券先物もいったんは売られたが、これに現物がついていかず、最終的には先物も買い戻された。そのため、「これでようやく落ち着いたということかもしれない」(短資会社)と、むしろ安堵(あんど)の声も漏れ伝わるほどだった。
だが、そんな考えがいかに甘かったか、ほどなく思い知らされることになる。
日本時間の夜11時から米国で始まった、バーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長の議会証言。ここでも、玉虫色の発言が相似形のように繰り返された。FRBがいつQE3(量的緩和第3弾)の縮小に転じるか、世界の興味を一身に集める中で、バーナンキ議長は「必要に応じて緩和策を続ける」などと言質を取らせぬような発言に終始した。
ところが、質疑応答になると一転、「今後数回の会合で債券購入のペース減速を決定することもあり得る」とかなり踏み込んだ発言を見せた瞬間、空気が一変する。
時計の針を5月16日に戻そう。以前から、バーナンキ議長と同じハト派(緩和積極派)と見られていたウィリアムズ・サンフランシスコ連銀総裁が「早ければ年内にQE3を終了することができるかもしれない」と、QE3縮小をにおわせていたことで、下地は整えられていた。
これに議長自身がトドメを刺したことで、ニューヨークダウ平均株価は急落、10年金利は2.04%と2%台まで急上昇する。そのためいったんは売られていたドルも買い戻され、ドル円相場はいともあっさりと103円を突破した。
日本市場に襲いかかる不安定のマグマは地下でもはや押さえようのないほどの大きなうねりとなり、噴出の時期をうかがい始めていた。
次々と噴き出した混乱のマグマ
地球を一周回った翌23日木曜日の東京時間で、その時を迎える。
午前8時42分、国債の現物取引の開始直後に、長期金利が前日比10ベーシスポイントも高い0.985%を付け、1%台突入をうかがう展開になる。米国の長期金利が前日に2%まで上昇したことに引きずられた格好だ。取引が薄いうえに、保有者の一部が売却しようものなら金利が大きく跳ね上がりかねない状況に「ロング(買い)はとても入れられなかった」と、関東のある地方銀行関係者は話す。
国債を大量保有する銀行勢が市場を静観していた8時53分、今度は国債先物(中心限月の6月物)が急速に売り込まれ、東京証券取引所は取引を一時停止する「サーキット・ブレーカー」を発動する。先物市場で取引高の約4割を占める「海外勢の売り」(国内大手証券)が影響していた。
さらに先物の取引が止まっていた9時3分、ついに長期金利が節目の1%を突破した。1年2ヵ月かけて一時0.3%台まで下がった金利が、4月からのわずか1ヵ月半で1%に巻き戻したのだ。
慌てたのは日銀だ。10時10分、日銀は1年物の共通担保オペで2兆円に上る資金供給を実施。加えて、総額8100億円の買いオペもオファーした。財政ファイナンス懸念を避けるべく、これまで国債の入札日には買いオペを避けてきた日銀だが、この日はまさに国債入札日。背に腹は代えられないと判断したためか、異例の対応に出る。
これにより、23日の終値は0.835%までなんとか低下したものの、混乱のマグマは別のところで噴き上がっていた。株式市場である。
海外勢と個人が一斉に売りに
円安の進行を受けて、午前10時ごろには日経平均株価が1万5900円台と高値を更新していたが、10時45分に発表された5月のHSBC中国製造業購買担当者指数(PMI)が下振れしたことなどをきっかけに完全に潮目が変わる。
FRBが緩和縮小に向かい始めたという見方から、「これまでの最大の買い手と目されていたマクロ系ヘッジファンドが日本株売りに転じた」(藤戸則弘・三菱UFJモルガン・スタンレー証券シニア投資ストラテジスト)のだ。
確かに日経平均先物を見ると、マクロ系ヘッジファンドのオーダーを多く受ける米ゴールドマン・サックスが1万枚を売り越している。午前中には買いを仕掛けていたCTA(商品投資系ヘッジファンド)などの短期筋も、その後は一斉に売りに回っていた。
加えて、短期で高速回転売買を行う個人投資家も、これまでの極端な過熱感を警戒していたことから一気に利益確定の売りに転じた模様だ。
終値は前日比何と1143円安の1万4483円。下落率は7.32%と、実に13年ぶりの下落となった。そうした流れのなか、午後にはドル円相場も1ドル101円台と円高方向に猛烈に巻き戻した。
日本を襲った猛烈な市場の暴走――。今後、混乱は終息するのか。
この辺りは、専門家でも見方が異なる。
大方は、「今回の株価下落は一時的な調整」(藤戸シニア投資ストラテジスト)とみる。日本経済の基礎的条件であるファンダメンタルズが変わったわけではないし、企業業績もまだまだ改善余地があるからだ。
その一方でアベノミクスに沸いていたはずの日本市場が、”バーナンキ・ショック”でいとも簡単に揺さぶられる現実を目の当たりにすると、実際はいかに景気回復の足取りが脆弱なものであるか、図らずも証明したといえる。
実体経済が回復軌道に乗るまでは、今後も米国の景気動向や金融政策などに振り回される展開が続きそうなだけに、まだまだ懸念は払拭されない。
本誌・池田光史、河野拓郎、中村正毅