僕は彼を連れ出して街に出、本屋やおもちゃ屋を覗いたあと家路に着き、地下鉄に
乗った。その頃の彼は先頭車両の運転席の窓から見える線路の景色がお気に入りで
、その日も先頭車両の一番前に陣取って、少しだけ抱え上げてやり、運転席と客席
の仕切りの窓ガラスに鼻を押しあてて流れていく線路の景色に見入るといういつも
の振る舞いだった。
たまたま彼は窓の眺めに少しばかり飽きてしまったようだった。床に脚をおろすと
今度は車両の中をさまよい始めた。終いにはお客さんの中を押し分けてずんずん中
へ中へと小走りに歩き出し、1台目の車両はおろか、2台目、3台目と分け入って
、ついには一番後方の車両まで突き進んで行くのだった。
車内は特に込み合っているというわけではなかったが、コートで着膨れた乗客のた
めに数メートルも離れると彼の姿が隠れてしまう、そういう込みかただった。
「あんまり遠くに行くんじゃないよ。」
最初はそう牽制したが、なにしろ聞くはずもない。やむを得ず後を追いかけて、こ
ちらも最後尾の車両まで付き合った。ただ、彼が最後の車両の一番奥までたどり着
いたのを見届けた僕は、一つ手間の扉のところで人垣越しに彼の様子をうかがって
いた。
(一体、この後、彼はどうするつもりなのだろう? もとの車両までちゃんと戻る
つもりなのだろうか、それとも・・・。)
やがて電車は降りるべき駅に着きかけた。そのあたりから、明らかに彼は動揺をき
たしたようだった。幼いながらも自分が降りるべき駅の名前は覚えていたのだろう
。どうするのかと見ていたら、吐き出される他の乗客につられるように彼も電車を
降りた。
すぐそばの扉近くでそれを見ていた僕は当然一緒に降りる。彼は、降りたはいいが
、オロオロしながらホームの前後の客のなかに僕の姿を探し始める。隣の扉から降
りた僕をすぐには見つけられない。こちらも人混みに紛れている状態なのだ。彼の
顔は既に半ベソである。
「ここにいるぞ。」
声のする方に顔を向けた彼は、次の瞬間、口をへの字にしてグシャグシャの泣き顔
に。
「バカだなあ、なに泣いてんだ。」
苦笑しながらそう声をかけて近づいたとき、彼はもうしゃくり上げていた。
(ちょっと意地悪だったかなあ、すぐそばまで来ていながら素知らぬ振りして様子
を見ていたんだものなぁ・・・。)
駅の改札口からは彼の肩に手をかけて、家までの十数分の、既にとっぷりと暗くな
った夜道を歩き出した。ときおり彼の頭を軽く撫で回しながら。やがて彼は肩に乗
っていた僕の手を自分の手に、それもしっかりと握りしめるのだった。
僕のところの長男が保育園(幼稚園)の年少さん、4歳のときのことである。彼は
覚えているかしら。
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Catch22
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あ~、うちのチビにもそういうことがあったなぁ~って思いながら読ませてもらいま
した。
うちの場合は師走の、それも年末押し迫った買い物の時。
ちょっと大きめのショッピングセンターの人混みの中、右見て左見ているうちにどこ
かへ消えちゃった。ほんとに、今そこにいただろうって思うのに見えなくなってし
まったって感じ。年末なので、どのお客さんの買い物かごも目一杯詰め込まれてい
て、普段のそれなら、かごの格子の隙間から、大人のコートの裾丈のあたりにある顔
を覗くことさえできるのに。
キャッチさんはずっと姿を見ていたからいいけれど、ああいう状況でいなくなるとい
うのは、漫画でよくある、後ろ髪に縦棒が2,3本引かれる、たら~っという感じそ
のもの。
まさか、親を捜してお店の外までは出やしないだろう。いや、もし出たら、外は交通
の激しい大通り。入り口付近でガードしつつ探そうか?なんて、荷物をかかえたま
ま、頭の中だけぐるぐる状態で約1分経過。
上の二人の子供に、「弟を捜すように」と指示を出して3分後、両サイドをお姉ちゃ
ん二人にガードされ、両腕をそれぞれしっかりとつながれて、さながら人間十字のよ
うな姿で戻ってきました。
ちょうど人前で泣くことに少しばかりの恥ずかしさを覚え始めたときのこと、お姉
ちゃんに連れられて、向こうのほうから戻ってくる道すがらは平静を装っていました
が、私と目があった瞬間、
<< 次の瞬間、口をへの字にしてグシャグシャの泣き顔 に>> でした。
うちのチビなら、キャッチさんの状況で電車から降りられないと思いますよ。年少
じゃあ、どこで降りたらいいかまだ分からなかったと思うから、一つ手前の車両で見
てはいなかったでしょう。
なぜなら、親だけ降りて、子供を乗せたまま電車の戸が閉まって・・・あるいは、
ホームに子供がいないことに気づき、まだ乗っているのかと車両に戻った瞬間、後ろ
で扉がしまって次の駅へ・・・ってなるのがいやだから。
でも、あの駆け寄りながら、顔がだんだん泣き顔になりながら、もうちょっとで飛び
込めるというちょっと手前で両手を前に出しながら、ど~んとぶつかってきた感触っ
て忘れませんよね。
Anaid
Anaid wrote in article <#olY0VHQ$GA.239@cpmsnnews03>...
>
あ~、うちのチビにもそういうことがあったなぁ~って思いながら読ませてもらい
ま
> した。
>
うちのチビなら、キャッチさんの状況で電車から降りられないと思いますよ。年少
>
じゃあ、どこで降りたらいいかまだ分からなかったと思うから、一つ手前の車両で
見
> てはいなかったでしょう。
「一つ隣の車両に乗り♪」というのは竹内まりやの「駅」の聞きすぎでは(苦笑)
。
僕の場合は、「ひとつ手前の扉」ですから至近距離なのです。(^^;
ですから、人混みに紛れているようでも、彼の挙動は把握できているという
場面なのです。
>
でも、あの駆け寄りながら、顔がだんだん泣き顔になりながら、もうちょっとで飛
び
>
込めるというちょっと手前で両手を前に出しながら、ど~んとぶつかってきた感触
っ
> て忘れませんよね。
たぶん、Anaidさんも、そのとき「なんてことしてくれるのよっ!」てなふうに
オチビさんに対して怒ったりなさらなかったでしょう?
僕は思うのですが、自分のこどものときを思い起こしても、親が自然と
信じられるのは、幼ければ幼いほど、自分を見守ってくれているという感覚
かもしれないな、と思えて。
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