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しあわせの黄色いバンツ(やっぱ り、そうきたか…)

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Norimasa Nabeta

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Aug 12, 2002, 8:23:01 AM8/12/02
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府中街道の朝は、自動車の往来もまばらで、時折思い出したように
大きな砂利ダンプが砂塵を舞い上げて走り抜けていくのだった。
夢沢那智(仮名)は、外の風景を目にして眩しそうに目をしかめた。

山田看守
 「夢沢(仮名)、これから鹿児島の家に帰るんだろうな、」

なにか詰問されるような語気だったが、なぜか夢沢(仮名)は口ご
もった。

山田看守
 「おまえ、奥さんが面会にきても
  ずっと会おうとしなかったそうじゃないか、
  あんなできた奥さんはないぞ、
  帰るんだろうな。」

夢沢(仮名)
 「はい、かえります。
  長い間お世話になりました。」

せりふを棒読みにしているような返事をして、夢沢(仮名)は、深
くお辞儀をして目を伏せた。

山田看守
 「ほんとに帰るんだぞ、
  そしてもうこんなところに戻ってくるんじゃないぞ。」

山田看守はそう言うと、門をどっどーんと閉めた。武蔵野線を黒い
タンクを載せた貨物列車が轟音を上げて走り去った。

実は、夢沢(仮名)はその日の内に、鈍行の夜行寝台で鹿児島に帰っ
ていた。しかし、決心は固まらなかった。ぐるぐると近くの町を巡
り、近づいては、後戻りを繰り返していた。

夢沢那智(仮名)
 「俺さえいなければ…、
  響子(仮名)は再婚して幸せになれるし、
  真慈はポエマーの子として
  後ろ指さされることもないのだ。」

そう思うと、昔の日々が走馬灯のように浮かんできて、まぶたは涙
で溢れて喉がつまった。
ぼんやりと、河の堤の上を歩みを進めるうちに、遠くに不思議なも
のが眼に映った。黄色いものがたくさんはたはたと風に靡いている。
そういえば、あれは家の近くだな、などと思っているうちに、突然
に、夢沢那智(仮名)なにかを理解した。
夢沢那智(仮名)の歩みは速くなっていた、いや、走っていた、な
んだか分からない黄色いものめがけて草むらを抜け、人の庭を横切
り、垣根をくぐりぬけた。服は乱れ、持っていた風呂敷包みは解け、
なかにあった文庫本も、服もどこかにいった。

暮れなづむ丘を駆け下りる男がいた、男は黄色いなんだか分からな
いものがはためく人家をめがけて走っていた。男の姿が点となり、
人家の中に消えてころ、辺りは暗くなり家々には灯りがともった。
そして、男が駆けていった家がどれだったのかも分からなくなった。

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のりたま@大円団

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