国際人権NGOヒューマンライツ・ナウは、2021年11月30日に経済産業省と外務省が発表した「日本企業のサプライチェーンにおける人権に関する取組状況のアンケート調査」を受け、日本政府に対する提言を発表しました。
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▶︎日本企業のサプライチェーンにおける人権に関する取組状況のアンケート調査結果に関する提言
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(以下、全文)
【提言書】「日本企業のサプライチェーンにおける人権に関する取組状況の
アンケート調査結果に関する声明」2021年12月14日
認定NPO法人ヒューマンライツ・ナウ
1.はじめに
経済産業省及び外務省は、2020年10月に策定された「ビジネスと人権」に関する行動計画(National Action Plan on Business and Human Rights:以下、NAP)のフォローアップの一環として、日本の上場企業等に対して「日本企業のサプライチェーンにおける人権に関する取組状況のアンケート調査[1]」を2021年9月に実施し(以下、本件アンケート)、同年11月30日にその結果を公表した。
東京を拠点とする国際人権NGOヒューマンライツ・ナウは、日本政府が「ビジネスと人権」に関する政策対応を検討するに当たり、国連「ビジネスと人権に関する指導原則(以下、指導原則)」を踏まえ、事業活動における人権リスクの特定、予防、軽減そして救済を目的とする人権デュー・ディリジェンス(以下、人権DD)等の日本企業の取組みについて実態調査を実施したことは歓迎する。
2.アンケートの情報公開が不十分である
しかし、本件アンケート自体はその趣旨からしてもアンケートの質問票や企業規模別のデータなど詳細な調査結果を公開すべきである。市民社会をはじめとするステークホルダーにおいても実態を把握する必要があり、そのためには企業名を伏せた形での記述回答の具体的内容の公開も含めて、本件アンケートの更なる詳細を公表すべきであり、今後の追加の情報公開を強く要望する。
3.アンケート結果から明らかとなった課題
本件アンケートの具体的内容を見てみると、回答企業の7割近くが指導原則と人権DDの内容を把握していると回答しており、日本企業がサプライチェーンにおける人権問題に取組む必要性を認知していることが判明した。指導原則の認知度すら限定的であった数年前の国内状況と比較すれば一定の前進が見られると評価できる。
しかしながら、人権への取組みを実施している日本企業においても、以下のような課題が存在することが浮かび上がった。
(1)人権指針の策定について
第一に、回答企業の約7割は、人権方針を策定していると回答しているが、そのうちの約半数が、国際人権基準に準拠していない可能性がある(12%(準拠していないと回答)+35%(わからないと回答)=47%)。しかも、当該人権方針の公開の有無や、その策定手続きに対する外部機関・第三者機関の関与も不明であることから、回答企業のうち7割の企業が人権方針を策定しているとはいえ、その人権方針が指導原則の求める内容・水準に至っているとは確認されていないというべきである。
もっとも、この点は日本政府が企業も準拠するべき国際人権基準に関するガイドライン等を制定していないといった政策の不備も一因であり、企業の責任のみとは言えない。特に、日本政府は国際人権条約機関や国連人権理事会から、たびたび国内の人権問題について是正を求める勧告を受けながらも、これに真摯に対応してこなかった経緯がある。こうした従前の政府の対応が企業が国際人権基準に対して規範意識を持ちにくい環境形成に寄与していると思われ、まずは人権を保護する義務を負う日本政府が率先して国際人権基準を遵守する必要がある。指導原則においても、国が事業活動を行う場合には、国家が負う人権保護義務に基づく必要があることが強調されている。国家は、公共調達も含め、率先して国際人権基準に則った事業活動を行うとともに、企業に対する国際人権基準のガイドライン等を制定すべきである。
(2)人権DDの実施状況について
第二に、各企業の取組みにおいて、人権DDへの外部ステークホルダーの関与や、人権DDの実施状況にかかる情報公開の状況も、国際基準に達していないことが浮き彫りになった。
国際基準では、人権DDの実施に際しては、ステークホルダーエンゲージメント、すなわち「企業と潜在的に影響を受けるステークホルダーの間の継続的な交流及び対話により、企業がステークホルダーの関心と懸念を聴き、理解し、協働的なアプローチを含む対応を取ることを可能とするプロセス」を継続的に実施することが求められ、その重要性が指摘されている。また、企業の直接のサプライヤーだけでなく、間接仕入れ先や販売先、顧客(消費者)も含むバリューチェーン上の全ての事業実施パートナーを対象として、人権方針の策定を含む人権DDを実施することが求められている。
しかしながら、本件アンケート結果によれば、人権DDへの外部ステークホルダーに関与する機会を設けている企業は3割にとどまる。さらに、関与する外部ステークホルダーとしては専門家が67%と最も多く、次いでNGO/NPOが47%、投資家が42%となっており、事業活動によって影響を受ける可能性のあるライツホルダー(人権の主体)である地域住民は14%、そして消費者が10%のみである。ライツホルダーの関与を確保することが、人権DDの実効性の担保のために必要不可欠である点からすると上記割合は大きな課題である。
また、人権DDの実施状況については、間接仕入れ先や販売先、顧客(消費者)まで対象として行っている企業は人権DDを実施している回答企業の約10~16%にとどまる。この数字は、バリューチェーン上全体における人権リスクへの取組みが不十分であることを示している。
さらに、人権に関する取組みについて情報公開をしている企業は、回答企業の半数程度(52%)しかなく、取組みの透明性が確保されていないと言わざるを得ない。上述のとおり外部ステークホルダーの関与が限定的であることと相まって、具体的な取組み状況が不透明であり、取組みの実効性が確保されていることは確認できず、各企業の取組みが株主や投資家に対する単なる「建前」、あるいは単なるチェックボックスとしての取組みに陥っている恐れを払拭できていない。
(3)救済・通報体制について
第三に、各企業の取組みにおける救済、通報体制についても課題がある。救済、通報体制を有している企業が49%とおよそ半数程度しかないことに加え、それらの救済、通報体制を有する企業の92%は自社の組織内を対象に救済、通報体制を設置しているのみである。これでは、日本のNAPで規定している、外国人、子ども、女性、LGBTQ、障がい者といった脆弱な立場に置かれやすい人々の人権やあるいはサプライチェーン上の労働者のディーセントワークが侵害されたとしても、被害者が効果的な救済を受けられない可能性が高い。いま一度、指導原則31が指摘する要件(正当性、アクセス可能であること、公平性、透明性、国際人権に適合すること、継続的な学習の源泉となること、エンゲージメント及び対話に基づくこと)を確認し、同要件をみたす救済の仕組みを構築することが必要である。加えて、これを補完するためにも、指導原則でも救済において重要な役割を果たすと指摘されている国内人権機関の導入を含め、日本政府による救済のアクセスに関する政策強化は喫緊の課題である。
4.提言
(1)指導原則・人権DDの必要性等の周知徹底
そもそも本件アンケートへの回答企業は、対象企業2786社に対して760社に過ぎず、回答企業における取組みについても上述した課題が存在することから、日本では上場企業ですら人権への取組みは不十分な状況であると言わざるを得ない。
アンケート結果によれば、回答企業のうち人権DDを実施していない理由として、実施方法がわからない、必要性を認識していないとの回答が多く、そもそもの指導原則に対する基本的な理解や人権DDの必要性・具体的内容が企業に周知されていないことが伺われる。
サプライチェーン、バリューチェーン上の人権リスクをゼロにすることは極めて困難であり、指導原則も人権リスクをゼロにすることを求めているのではない。重要なのは人権侵害発生リスクを最小化するために、人権リスクを調査・特定し、人権侵害が発生した際には早期にこれを発見し、対応することのできる体制を構築することである。そうした基本的理解から広めていく必要がある。
したがって、HRNは、日本政府に対して、企業に向けて指導原則がどのような人権の取組みを求めているのかを周知するために必要な施策を速やかに行うよう改めて求める。
(2)人権DDに関する法制度の整備
既にイギリス、オーストラリア、フランス、そしてドイツなどでは、指導原則に対する取組みを強化するための法制度が導入されており、EUレベルでも義務的な環境・人権デュー・ディリジェンス法制度の議論が進められている。これらの国際的潮流や、本件アンケートにより明らかとなった日本企業の実情(無回答企業の数も含む)も踏まえると、企業の自主的な取組みに任せるだけでは、人権DDの普及促進を図ることは困難であるといえる。
したがって、HRNは、日本政府に対して、国家の人権保護義務、そして企業の人権尊重責任を実現するために、国際人権基準に則った法制度の議論を速やかに進めることを強く求める。
(3)国際人権基準に則った取組みの確保
本件アンケートおいて、企業の国際人権基準に対する規範意識が低いことも明らかとなった。特に国際人権基準を行動原則とする当団体としては、この点を深く憂慮する。
したがって、HRNは、政府及び企業に対して、日本企業の人権への取組みが国際的には通用しないガラパゴス化した取組みと成らないよう、国際人権基準に対する規範意識を正確にし、国際人権基準を遵守するとともに、国連機関や市民社会との連携を強化しつつ、国際人権基準に則ったビジネスと人権に対する取組みが行われることを確保するよう求める。
[1] 「日本企業のサプライチェーンにおける人権に関する取組状況のアンケート調査結果を公表します」2021年11月30日<https://www.meti.go.jp/press/2021/11/20211130001/20211130001.html>参照。