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[田中宇の国際ニュース解説] ガザ虐殺からエジプト転覆へ 2024年3月9日
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Mar 9, 2024, 7:41:23 AM
Mar 9
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この記事は「消されていくガザ」の続きです。
https://tanakanews.com/240225gaza.htm
3月6日、エジプト政府がIMFなどから追加支援を受けるために、それまで介入で高止まりさせていたエジプト・ポンドの対ドル為替を自由化して40%の暴落を容認した。資金逃避を止めるため、エジプト中銀が6%の利上げをした。エジプトは2022年にIMFからの借金を増やしたが、IMFはエジプト政府が為替を人為的につり上げているのが不満で、融資の履行が滞っていた。エジプト政府は、国民の資産を目減りさせたくないので為替を操作してきたが、その結果ブラックマーケットが拡大して二重経済になっていた。
https://www.aljazeera.com/news/2024/3/6/egypt-strikes-expanded-8-billion-deal-with-the-imf
Egypt strikes expanded $8bn deal with the IMF
https://thefridaytimes.com/08-Mar-2024/egypt-s-economic-debacle-is-far-from-over
Egypt's Economic Debacle Is Far From Over
新型コロナによる経済閉鎖で、エジプト国民の貧困率は3割から6割に倍増した。昨年10月からのガザ戦争で、エジプト経済の大黒柱だった観光業が2-3割の減収になった。戦争を恐れて外国からの投資も来なくなった。イエメンのフーシ派が紅海の航路を止めたのでスエズ運河を通る船が減り、運河通行料の政府収入が4割減った。
エジプトは地中海岸有数の天然ガスの液化施設があり、イスラエル沖のガス田から送られてきたガスを液化して船で欧州に送り、加工賃の収入を得ていた。だがガザ開戦とともにガスの送付量が半減し、エジプトの収入が激減した。
https://www.reuters.com/world/africa/how-big-are-egypts-economic-challenges-2024-03-06/
How big are Egypt's economic challenges?
https://tanakanews.com/240303houthi.htm
中国に棚ボタな紅海危機
これらの要素が重なり、もともと脆弱だったエジプトの経済は危機が再発した。食糧などに関する世界的なインフレもエジプトのような新興諸国を直撃しており、国民生活は悪化するばかりだ。エジプト政府は資金難がひどくなり、為替市場を暴落させてもIMFなどからの支援の再開と追加が必要になった。エジプト政府は支援金を得られるが、為替が崩壊して金利も上がり、インフレがひどくなって市民生活がさらに打撃を受ける。エジプトの対外債務率はアルゼンチンなどと並んで世界最悪級で、政府予算の45%が公債の利払いに消えている。
https://www.timesofisrael.com/cash-strapped-egypt-allows-currency-to-fall-against-dollar-hikes-interest-rates/
Cash-strapped Egypt allows currency to fall against dollar, hikes interest rates
https://www.aljazeera.com/news/2024/2/24/how-israels-war-on-gaza-is-bleeding-egypts-economy
How Israel’s war on Gaza is bleeding Egypt’s economy
インフレや経済悪化は、国民の反政府感情を高める。加えて人々は、ガザ市民が大量虐殺されているのに政府が何もできず、イスラエルと国交を保ったままであることにも腹を立てている。ガザ戦争においてエジプト政府は被害者だし、エジプトがイスラエルと断交して参戦したらエジプト人自身が虐殺されるが、そんな道理は市民に通じず、怒りが充満している。今後さらに状況が悪化すると、エジプトで暴動が起こる。事態が改善されないと、2011年の「アラブの春」の暴動の拡大から政権転覆への展開が再演される。アラブの春も、インフレによる食糧の高騰や不足が原因だった。今回は、それに加えてガザ戦争の怒りがある。
https://www.zerohedge.com/markets/egypt-implements-massive-devaluation-currency-sending-pound-tumbling-popular-unrest-could
As Egypt Implements Massive Devaluation Of Currency, Sending Pound Tumbling, Unrest & Instability On Horizon
イスラム世界は3月11日からラマダン(断食月)に入る。イスラエルは、ラマダンまでにハマスが人質(130人)を解放しない場合、ガザ市民の大半が追い詰められているエジプト国境のラファを大規模空爆・侵攻すると言っている。エジプトやUAE、カタールなどが仲裁してイスラエルとハマスの交渉が行われてきたが、最近はイスラエルが先に生存人質リストを出せとハマスに要求するなど難癖をつけて欠席している。
https://news.antiwar.com/2024/03/01/netanyahu-breaks-off-hostage-talks-with-hamas/
Netanyahu Breaks Off Hostage Talks With Hamas
イスラエルの目的は、ラファを猛攻撃してエジプトが国境を開けてガザ市民を受け入れざるを得ないようにすることだ。ガザ市民を全員エジプトに強制移住させ、パレスチナの存在を消していくのがイスラエルの目標だ。ハマスが人質を解放して停戦が実現し、市民がガザに残ったまま戦争が終わることをイスラエルは望んでいない。だから欠席して交渉を潰した。もう時間切れでラマダンに入る。数日内にイスラエルがラファへの猛攻撃を開始しそうだ。
https://www.zerohedge.com/geopolitical/delegations-leave-cairo-no-gaza-ceasefire-progress-made
Delegations Leave Cairo With No Gaza Ceasefire Progress, 'No Solution' In Sight
そのような状況下で、ラマダン入り4日前の3月6日にエジプトがIMFの加圧に屈して為替を自由化してポンドが暴落、金利も急騰し、エジプトは金融経済の危機が再燃し始めた。これはタイミング的に重要だ。ガザ市民の大半はハマスの支持者だ。ハマスはムスリム同胞団のパレスチナ支部であり、エジプトで軍事政権が倒れると同胞団の政権になる。2011年のアラブの春で、エジプトはムバラク(軍事)政権が倒れ、2012年の選挙で同胞団のモルシー政権ができた。モルシー政権はうまくいかず、混乱に乗じて2013年に軍がクーデターを起こし、今のシシ軍事政権になった。今後、イスラエルのラファ攻撃によって国境が開き、ハマス支持の百万人以上のガザ市民が大挙してエジプトに移住すると、エジプトの同胞団は大きく加勢される。すでにあるエジプト人の反政府感情は同胞団支持へと転化し、反政府運動が広がってアラブの春が再燃し、シシ政権が倒されて再び同胞団(ハマス)の政権になる。
https://responsiblestatecraft.org/egypt-israel-gaza/
Why Egypt can't and won't open the floodgates from Gaza
こうした流れを引き起こすなら、今回の為替暴落・金利高騰によるインフレ激化が、エジプト人の反政府意識と同胞団支持を煽ることが重要だ。これは偶然のタイミングでなく、IMFなど国際金融行政界にたくさんいるイスラエル支持者(シオニスト、ユダヤ人)たちが意図的に起こしたことだと勘ぐれる。イスラエルはパレスチナを分裂させるため、1980年代からハマスをこっそり支援してきた。今のガザ戦争は、イスラエルがパレスチナ人をエジプトやヨルダンに追い出してナクバ(民族浄化)を完成する見返りに、ハマス(同胞団)がエジプトやヨルダンの政権を奪取し、イスラエルの一部でなくエジプトやヨルダンをパレスチナにするために起こされた。このシナリオの実現には、軍事力でガザと西岸の市民をエジプトやヨルダンに追い出すだけでなく、エジプトやヨルダンを経済難に追い込んで国民の反政府意識を激化させ、政権を同胞団の側に転覆させることが必要だ。
https://tanakanews.com/240111gaza.htm
イスラエルの虐殺戦略
エジプトでもヨルダンでも、すでに同胞団(ハマス)は最大野党だ。両国とも、現政権は米国とサウジの傀儡だ。米国の覇権が衰退し、サウジが両国の同胞団化(親イラン化)を容認すれば、両国は民主的に同胞団の政権になる。サウジは、カネを貸すとか貸さないとかだけ決められるが、それ以上の力量がなく、エジプトなどの転換を容認せざるを得ない。ヨルダンは、エジプトが同胞団の国へと転換した後、ヨルダンの同胞団化を望むエジプトと、西岸パレスチナ人の強制移住を望むイスラエルの両方から影響されて転換していく。王政が残ったまま転換に対応していく可能性もある。
https://tanakanews.com/231125gaza.htm
ずっと続くガザ戦争
IMFは米国の覇権機関の一つで、カネを貸した国の体制をねじ曲げる力を持った「ワシントン・コンセンサス」の国際機関だ。IMFなど米覇権運営体に巣食うユダヤ人・シオニストたちが、多重債務国のエジプトを追い込んで潰すのは難しくない。(ユダヤ人の中には反シオニストもいる。シオニストは、ロスチャイルドなど大英帝国の資本家に対し、ユダヤ人なんだから協力するのが義務だと恫喝し、イスラエル建国を実現していった部分があり、資本家とシオニストは仲間というより騙し合い・心理戦の関係だ。すべてのユダヤ人は互いに騙し合っているとも言える。今回はこの件を突っ込まない)これまでシオニストと米覇権の利害は一致していた。というか、シオニストは自分たちの利害に沿って米覇権を動かしていた。だがこの四半世紀、シオニストは米覇権を自滅させる隠れ多極派の役回りが増えた。その挙げ句の大胆な具現化が、今のガザ戦争だ。
https://tanakanews.com/f0622israel.htm
イスラエルとロスチャイルドの百年戦争
この戦争は、パレスチナ人を民族浄化することによって、イスラエルをパレスチナ問題から解放する。同時に、イスラエルは牛耳った米英欧を巻き込んで巨大な人道犯罪をおかすことで米英覇権体制を破壊し、世界を非米化・多極化する流れに貢献する。イスラエルがおかした人道犯罪はあまりに巨大なので、イスラエルが裁かれ潰される前に、米英覇権の根幹をなす人権外交(詭弁的な人権擁護体制)の構造自体を破壊する。その結果、イスラエルは存続し、パレスチナ問題から開放されてむしろ強くなる。活動家の方々はお怒りだろうが、私は「あるべきだ論」でなく「現実」を書いている。
https://tanakanews.com/231224israel.php
パレスチナを人権外交ごと潰すイスラエル
この四半世紀、米覇権の中枢では軍産複合体と隠れ多極派が併存し、米国は過激で稚拙な戦争を次々とやって覇権を自滅させ世界を多極化してきた。今起きているガザ戦争とウクライナ戦争は、その集大成だ。ウクライナ戦争は、米国がお膳立てし、プーチンがそれに乗って侵攻した。ガザ戦争はネタニヤフのイスラエルがお膳立てから侵攻までやりつつ米国を巻き込んだ。イスラエルはもう米国の言うことを聞かない。米国はすでに終わった旧覇権国だ。ネタニヤフは本物のすごい人道犯罪をやっているが、プーチンの人道犯罪は米ウクライナが捏造した濡れ衣だ。そういう違いがあるが、2つの戦争の役割は、多極化と米覇権破壊の策として同一だ。
https://tanakanews.com/240208israel.htm
イスラエルでなく米覇権を潰すガザ戦争
ネタニヤフ政権は崩壊寸前と報じられているが、意図的な誤報だ。ネタニヤフは、イスラエルをパレスチナ問題から解放する歴史的な「偉業」をやっており、中枢の人々から支持されている。連立政権内の中道派の閣僚であるベニー・ガンツが、ネタニヤフの禁止命令を無視して訪米し、ネタニヤフを嫌うバイデン政権と親密になったと報じられている。これはネタニヤフによる意図的な時間稼ぎ策、不満を強める米国のガス抜きをする策だろう。
https://www.aljazeera.com/news/2024/3/5/is-gantz-really-a-danger-to-netanyahus-power-in-israel
Is Gantz really a danger to Netanyahu’s power in Israel?
ガンツはネタニヤフのライバルを演じているが、途中まで進めたガザ戦争をやめることはガンツもできない。ネタニヤフが大っぴらにガザ市民を虐殺する巨大な人道犯罪をやったのは、パレスチナ人やアラブ諸国に衝撃を与えて反撃できなくする策であるとともに、世界中のユダヤ人に対し「途中でやめたらユダヤ人が殺される。パレスチナ(ハマス)をイスラエルから追い出してエジプトとヨルダンに移転させるナクバ完遂を成功させるしかない」と思わせるためだろう。
https://www.zerohedge.com/political/watch-fuming-aoc-drops-f-bomb-activists-demanding-she-call-gaza-war-genocide
Watch: Fuming AOC Drops F-Bomb On Activists Demanding She Call Gaza War 'Genocide'
世界の主要な諸勢力は、イスラエルのナクバ完遂を妨害せず、批判しつつ黙認している。シオニストが牛耳るIMFでなく、サウジや中国がエジプトにカネを貸せば、エジプト経済は崩壊せず、シシ政権が延命でき、同胞団の返り咲きを防げたかもしれない。だがサウジも中国もエジプトにカネを貸さず、エジプトの政権転覆への道を黙認している。アブダビはエジプトに貸したが、IMFによるエジプト破壊を防げていない。米国では共和党のトランプも、イスラエルのガザ戦争への支持を表明した。トランプは徹頭徹尾イスラエル支持だ。民主党左派はイスラエル非難を強め、バイデン政権との党内対立が激化しているが、これは民主党を弱めるだけだ。同じ親イスラエル表明でも、トランプは有権者からの支持を減らさず、民主党にとってだけ不利になるのが興味深い。
https://news.antiwar.com/2024/03/06/trump-on-israels-gaza-slaughter-youve-got-to-finish-the-problem/
Trump Weighs In On Gaza Ahead Of November: "Firmly In Israel's Camp"
現実策として、ガザ市民の生命を救う早道は、ガザに閉じ込めたまま支援物資を入れることよりも、エジプトにラファを開けさせて移住させることだ。ここ数日、金相場が高騰しているが、これは3月10日以降にイスラエルがラファを攻撃してガザ市民をエジプトに追い出し始め、中東が今まで以上の動乱期に入り、その中で米覇権の衰退が進むことを予測しての動きかもしれない。金相場が中東有事と連動しているなら、これからさらに高騰する。
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