いつもお世話になっております。
Open Process Animation Project Japan (OPAP-JP) のButameronと申します。筆
名にて失礼いたします。
このように世界共通で使いやすいライセンスを作成して頂きありがとうござい
ます。皆様のご尽力のおかげで、いつも大変助かっております。
弊プロジェクトでは、制作している自主制作アニメ「こうしす!」
(
http://www.nicovideo.jp/watch/1397053610 )において、CC-BY 4.0 国際を
作品のライセンスとして採用しており、日本版の登場を待ちわびておりました。
私自身もそれほど英語や法律関係に詳しいわけではありませんが、知財関係に
詳しくない方や英語が不得意な方に説明する際の経験をもとに、感じたことや
改善案を送付させていただきます。
また、弊プロジェクトで翻訳会社の協力の下、日本語参考訳を作成しております
ので、もしかしたら参考になる点があるかもしれません。こちらに掲載しており
ますので宜しければご覧下さい。
https://opap.jp/wiki/%E3%82%AB%E3%83%86%E3%82%B4%E3%83%AA:%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%82%A8%E3%82%A4%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%96%E3%83%BB%E3%82%B3%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%82%BA
■意見と改善案
(1)「Aおよび/またはB」「Aかつ/またはB」という表現について
確かに英文の日本語訳に慣れた方にとっては簡潔でわかりやすいのですが、それ
以外には分かりづらいのではないかと思います。
・日本語は単語区切りが不明確なため、スラッシュの係る範囲が分かりづらい
・法令に「および/または」という表現を見たことがない。(六法全書を隅から
隅まで読んだわけではないので実際はどうかは分かりません)
・英語の「A or B」は、AとBの両方とも成立する場合が除外されることがある
が、日本語(法律文書)の「AまたはB」は両方とも成立する場合も含んでいる。
(したがって、「A and/or B」に対応する日本語が「AまたはB」であり、「A or
B」の日本語訳は「AとBのいずれか一方」となる)
・「および/または」という翻訳は避けるべきという意見もある。
参考:
http://www.kunishiro.sakura.ne.jp/column/20/c30.shtml
以上の理由から、私は避けている表現です。
下記のように言い換えるとわかりやすくなります。
<改善案>
「AまたはB」
個人的にはこれが最良と思います。
場合に応じて以下のような表現も良いと思います。
「AとBの両方またはいずれか」
「AとBのいずれかまたは両方」
「A、B、Cのいずれかまたはすべて」
また、上記が受け入れられない場合でもCC0の条文のように「Aおよび(また
は)B」とするほうがまだ分かりやすいと思います。
(2)第1条(f)について
「to Copyright and Similar Rights」というのは、フェアユースやフェア
ディーリングには掛かっていないように思います。したがって、以下のように翻
訳する方がより正確なのではないかと思いました。
(※以下は(1)の改善案を適用しています)
『「例外規定および権利制限規定」とは、ライセンス対象物をあなたが利用する
場合に適用される、フェアユース、フェアディーリングまたは著作権およびそれ
に類する権利に対するその他の例外もしくは制限をいいます。』
(3)「下流での制限」という表現について
ここでは、「downstream」は「下流への」「下流の」という、形容詞としての用
法であり「下流での」とは訳せないと思われます。
(「downstream」な「restriction」が「no」)
また、「下流での制限」では、禁止されている制限行為を行う主体が不明確で
す。これだけを読むと「あなた」以外の「ダウンストリームの受領者」達が制限
を行った場合でも「あなた」に責任があるとも読めてしまいます。それに続く条
文を読めば意味するところは分かりますが、条文の要約としてはミスマッチがあ
るのではないかと思いました。
<改善案>
「下流への制限」
「下流の制限」
(4)「ダウンストリーム」「下流」という表現について
まず、「ダウンストリーム」という表現はいわゆるカタカナ英語としても一般的
にそれほど認知度は高くないと思います。したがって、別の表現に変更した方が
良いと思います。
(私自身はソフトウェア技術者ですので特に迷うことはありませんでしたが、非
技術職の方に説明するときは言い換えるようにしています。)
<改善案>
・「下流の受領者」「下流への制限」
「下流の受領者」という翻訳では、「(社会的な立場が低い)下流階級の受領
者」というニュアンスを帯びてしまうことが欠点です。
・「川下の受領者」「川下への制限」
「川下産業」という言葉を参考にした訳です。こちらは下流階級とは解釈できま
せん。ただ、「川下」は日本においては人名でもあるので、川下さん個人につい
ての条文のようにも読めてしまうのが欠点です。
・「下流側の受領者」「下流側への制限」
下流側とまで書いた場合、下流階級とは解釈しづらくなり、最初の案よりも分か
りやすくなります。「下流側の」「下流側への」は「downstream」と訳せるた
め、意味的な乖離もないと思います。
・「二次的な受領者」「二次的な受領者への制限」
・「間接的な受領者」「間接的な受領者への制限」
これは意訳です。
ここの項目は、作品の許諾者から直接受領したわけではない人についての規定で
すので、わざわざdownstreamを直訳せずとも、意味が通じれば良いという考え方
の訳です。
(5)「Licensed Material」と「material」の翻訳について
本文中の「Licensed Material」は「ライセンス対象物」、「material」は「素
材」と訳されています。後者に合わせるのであれば「ライセンス対象素材」と訳
する方が統一感があるのではないかと思いました。
また、以下のページでは「material」を「資料」と訳出されていることに、何か
意図があるのであれば、それをこちらにも反映する方が良いのではないかと思い
ます。(個人的には違和感がありますが)
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/deed.ja
この用語選択については、
https://wiki.creativecommons.org/Legal_Tools_Translation/4.0/Japanese
を拝見しているので、特に強く意見するものではありません。
(ただ、「material」の言外の意味が、日本語の「素材」のそれと一致している
のかどうかは気になります。)
(6)「ライセンス」と「許諾」の混在
訳文中に「ライセンス」と「許諾」が混在しており、統一感がありません。
<改善案>
「ライセンサー」を「許諾者」と翻訳するのであれば、以下のように「許諾」に
統一する。
「ライセンス要素」→「許諾要素」or「許諾の要素」or「許諾の構成要素」
「ライセンス対象物」→「許諾対象物」
「ライセンスされた権利」→「許諾された権利」
「ライセンスする(された)」→「許諾する(された)」
「ライセンス付与」→「許諾付与」または「許諾」
など。
「ライセンス」というのを免許かなにかと勘違いされている方もおられるよう
ですので、個人的にはこちらのほうが分かりやすいと思います。
ただ、逆に「許諾者」を「ライセンサー」または「ライセンス付与者」と翻訳
し、「ライセンス」に統一するという方法でも良いと思います。
(7)「違反を治癒」という表現について
法律関係に詳しくない人にとっては、ぱっと見て少し違和感のある(専門用語感
のある)表現のように思いました。当方の参考訳では「違反を是正する」と意訳
しております。(ただし、こうすることが最善かどうかは分かりません)
(8)訳出されていない部分について
「The text of the Creative Commons public licenses is dedicated to the
public domain under the CC0 Public Domain Dedication.」
が訳出されていないのがミスでないならば、国際版とは異なり、日本版の本文の
頒布は黙認にすぎず、勝手に頒布した場合、著作権法違反で刑事告訴されても文
句を言えないという意思表示なのかと勘ぐってしまう方もおられるかもしれませ
ん。さすがにそれは陰謀論の類ですが。
実際の所、日本において契約書の文言に著作物性が認められることはないのだと
思いますし、CC0日本版がまだリリースされていないことも関係しているのかも
しれませんが、訳文からの除外が意図的なものであればCC0の存在価値を自ら否
定されているようなものと思います。
(9)「Licensor」と「licensor」、「Share」と「share」、「You」と「you」
原文には上記の単語について、大文字から始まるものと小文字から始まるものが
ありますが、訳文中で区別する必要はありませんか?
当方の参考訳では、不自然な日本語にならない範囲を検討した結果、
「Licensor」のみ「本ライセンサー」と訳しています。他の契約書の事例では、
定義された用語の場合は、毎回太文字にする又は「」で括るというような区別の仕
方もあるようです。
(10)その他
訳文とは関係のないことですが、以下のページに記載されているような、用語選
択をどのような意図をもってどのように決定したかという内容は、パブリックコ
メントの募集ページに掲載した方がよりよい結果になるのではないかと思います。
(その判断の正しさについても、第三者の視点から検証する最後のチャンスにな
ります。)
https://wiki.creativecommons.org/Legal_Tools_Translation/4.0/Japanese
以上です。
もう少し詳しいチェックを行いたかったのですが、時間が確保出来ず不可能でし
た。申し訳ありません。
作品制作者として、CC4.0日本版が一日でも早く公開され、それが良いものとな
る事を願っております。
よろしくお願いいたします。
(追伸)
cc_pub at
googlegroups.com 宛に送付しましたがエラーメールが返ってため、
ccjp_pub at
googlegroups.com 宛に再送しております。重複して受信された
場合はご容赦ください。
=====================================
Open Process Animation Project Japan
代表 Butameron
URL
https://opap.jp/
=====================================