書評: Mapping Experiences

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T.Tarumoto

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Jun 1, 2016, 7:20:45 AM6/1/16
to アジャイルUCD研究会 - Agile UCD Japanese Study Group
ジャーニーマップとは、製品やサービスを利用する顧客/ユーザの体験を時間軸に沿って描いた図表です。今やUXリサーチ/デザインの現場では必須のツールとなっています。

しかしながら、「ジャーニーマップとは?」を自信を持って説明できる人は意外と少ないのではないでしょうか。ネットで検索すれば、様々なフォーマットの実例を見られますし、各実務家が書いた独自の方法論はたくさん読めますが、本当に信頼のおける「原論」のようなものはありませんでした。結局、「見よう見まね」で使っているという人は多いと思います(実務ではそれで十分ですが)。

そんな迷える実務家を導く待望の「バイブル」が登場しました。

◎Mapping Experiences: A Complete Guide to Creating Value through Journeys, Blueprints, and Diagrams

本書は、著者の高レベルな実務経験と緻密な文献調査、さらに豊富なマップの実例に基づいたまさしく「完全ガイド」です。3部13章立て359ページという、読み応えのある1冊です。著者は「Designing Web Navigation」で著名なジェームス・カルバックです。

PART 1. Visualizing Value
CHAPTER 1. Introducing Alignment Diagrams
 主な内容:イントロダクション。
CHAPTER 2. Fundamentals of Mapping Experiences
 主な内容:マッピングの基本理論。
CHAPTER 3. Visualizing Strategic Insight
 主な内容:ビジネス戦略のマッピング。
PART 2. A General Process for Mapping
CHAPTER 4. Initiate: Starting a Mapping Project
 主な内容:社内調整、ペルソナ定義、見積もり、企画書。
CHAPTER 5. Investigate: Researching the Experience
 主な内容:既存情報レビュー、インタビュー調査、データ分析。
CHAPTER 6. Illustrate: Drawing the Diagram
 主な内容:マップの描き方(フォーマット、コンテンツ、ビジュアル)
CHAPTER 7. Align: Designing Value
 主な内容:マップを使った発想法(アライメント・ワークショップ)
CHAPTER 8. Envisioning Future Experiences
 主な内容:ストーリーボード、シナリオ、ユーザストーリーマップ、キャンバス。
PART 3. Types of Diagrams in Detail
CHAPTER 9. Service Blueprints
 主な内容:歴史、バリエーション、実務事例。
CHAPTER 10. Customer Journey Maps
 主な内容:歴史、バリエーション、実務事例。
CHAPTER 11. Experience Maps
 主な内容:歴史、バリエーション、実務事例。
CHAPTER 12. Mental Model Diagrams
 主な内容:ミニ解説、実務事例。
CHAPTER 13. Spatial Maps and Ecosystem Models
 主な内容:ミニ解説、実務事例。

本書は、UX系マップに限らずビジネスモデル・キャンバスやユーザストーリー・マップまで幅広く言及していますが、第3部で取り上げている5種類のマップに対して「アライメント・ダイアグラム」という総称を与えています。これらは、タッチポイントを通じたユーザ体験とビジネスプロセスの対話の様子を描いているからです。そして、その中でも特にカスタマ・ジャーニーマップ、エクスペリエンス・マップ、メンタルモデル・ダイアグラムの3つに焦点を当てて詳しく解説しています。

従来、各種マップ(特にカスタマ・ジャーニーマップとエクスペリエンス・マップ)は混同して利用されがちでしたが、本書ではその違いを明らかにしています。例えば、ニュースマガジンの読者の体験を描くとして、その購買体験を描く場合はカスタマ・ジャーニーマップ、ニュースそのものの消費体験を描く場合はメンタルモデル・ダイアグラム、そして読者の生活全般を描く場合はエクスペリエンス・マップが適しているとしています。ただ、著者は「名称」の議論に陥ることは強く戒めています。それよりも、どのような「視点」を持つのかの方が重要であると繰り返し指摘しています。

本書は単なるマップの作り方/描き方のガイドではありません。著者はマップを中心としたデザイン論を本格的に展開しています。それは、10年くらい前にジョン・プルーイットやキム・グッドウィンが「ペルソナ」を中心としたデザイン論を展開した姿と重なります。より現代的であるのは、マップ制作者に「ファシリテータ」の役割を強く求めている点でしょう。「会話のハブ」であるマップに直接手で触れながら関係者が活発に議論するような「場作り」を重視している点は、ユーザストーリー・マッピングの発案者ジェフ・パットンの姿と重なります。

また、本書は少し懐かしい手法に改めて光を当てています。それはインディ・ヤングの「メンタルモデル」とアンソニー・アルウィックの「アウトカム・ドリブン・イノベーション」です。いずれの手法も10年くらい前に注目を浴びたものの、近年はあまり言及されていませんでした。本書で取り上げられたことで再評価されるのではないでしょうか。

なお、本書に先立ってローゼンフェルドメディアから刊行された「The User's Journey」という書籍がありますが、これはジャーニーマップではなくストーリーテリングをテーマとしています。ジャーニーマップについて知りたい人には本書(Mapping Experiences)をお薦めします。

※参考
本書と併せて読む本としては以下の3冊をお薦めします。
・メンタルモデル
・ユーザーストーリーマッピング
・What Customer Want

以上

Chika Ando

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Sep 26, 2016, 12:11:23 PM9/26/16
to アジャイルUCD研究会 - Agile UCD Japanese Study Group
Jim KalbachがOreillyのpodcastで話をしていました。本を読んでない方は、一度お聞きになると良いかもしれません。

安藤知華
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