書評「Jobs to be Done」

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T.Tarumoto

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Jun 12, 2017, 9:10:03 AM6/12/17
to アジャイルUCD研究会 - Agile UCD Japanese Study Group
樽本です。

製品やサービスの開発に携わっている人にとって「ユーザニーズの把握」は最大の課題でしょう。
ただ、作り手は往々にしてユーザニーズを近視眼的にとらえがちです。
「人はドリルが欲しいのではない、『穴』を開けたいのだ」という
マーケティング界で長く語り継がれている格言は、そういった作り手の姿勢を戒めています。
 
そこで、クレイトン・クリステンセンは本質的なユーザニーズ(つまり、ドリルではなく穴)に
注目することこそがイノベーションの源泉であるとして『ジョブ理論(JTBD: Jobs-To-Be-Done)』
──「⼈は何らかの『ジョブ』を 処理するために、製品や サービスを『雇う』」──を提唱しました。
 
実は、このジョブ理論には「大元」があります。
意外なことに、理論よりも先に具体的な方法論があったのです。
それが、米国の戦略コンサルタントであるアンソニー・アルウィックが確立した
『アウトカム駆動イノベーション創出法(ODI: Outcome-Driven Innovation)』です。
 
◎Jobs to be Done: Theory to Practice
 
本書は、考案者自らが書いたODIの解説書の第2弾です。
(1冊目は2005年に刊行された『What Customers Want?』)
 
ODIのプロセスは以下のとおりです。
1. Define the customer
2. Define the Jobs-to-be-Done
3. Uncover customer needs
4. Find segments of opportunity
5. Define the value proposition
6. Conduct the competitive analysis
7. Formulate the Innovation strategy
8. Target hidden growth opportunity
9. Formulate the market strategy
10. Formulate the product strategy 
 
一見複雑ですが、その実態は質的調査と量的調査を組み合わせた
オーソドックスなマーケティングリサーチです。
つまり、まず質的調査でジョブやユーザニーズ(アウトカム)を探索して、
次に量的調査で数値化(機会スコア)して、
最後に数値に基づいて戦略を立てるのです。
 
オーソドックスな手法ですが、もちろん独自の工夫はたくさん加えられています。
特にユニークなのは以下の4つのツールだと思います。

◎ジョブ・ステートメント: 
顧客のジョブを簡潔に記述します。書式は「verb + noun + contextual clarifier」
◎ジョブ・マップ: 
ジョブの実行プロセスを記述します。著者によれば一般的に8つのステップに分類できるとしています。
◎アウトカム・ステートメント:
 ジョブ実行過程の顧客のニーズを記述します。
書式は「direction of improvement + performance metrics + object of control + contextual clarifier」
◎機会スコア: 
重要度と満足度の2変数で各アウトカムを数値化します。
計算式は「outcome importance + (outcome importance - outcome satisfaction)」
 
ODIの最大の魅力は、この洗練されたシステマチックなプロセスと、
数値化された明確なアウトプットです。
数値データに基づいて製品設計を行う場合には最適でしょう。
 
ただ、残念ながらODIは「オープン」ではありません。
ODIは登録商標ですし、著者はODIに関連する特許も多数取得しているようです。
 
さらに残念なことに、ODIのディテールは一般には公開されていません。
本書は宣伝パンフレット程度の簡便な内容ですし、
1冊目の『What Customers Want?』でも核心部分は書かれていませんでした。

ODIの真の姿を知るのはアンソニー・アルウィック本人だけなのかもしれません。

※なお、7月に本書をネタにした「本を読まない読書会」を開催予定です。
興味のある人はPeatixのグループをフォローしておいてください。

◎UXブッククラブ東東京

以上

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