書評「発想法 改版」

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T.Tarumoto

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Jul 17, 2017, 8:43:15 AM7/17/17
to アジャイルUCD研究会 - Agile UCD Japanese Study Group
6月に出たばかりの本書は、大型書店の店頭では「名著、刷新!」の赤い帯が付いて平積みされています。
原著は1967年6月発行(50年前!)、そして累計刷数90版目という、中公新書を代表する文字通りの「名著」です。

今回、何が「刷新」されたのかと言うと、フォントサイズが大きくなって、書体も現代風になっています。
原著は見るからに昔の本という風体だったので、確かに「読みやすく」なっています。
しかし、それ以外は(良い意味で)原著と全く同じです。

◎発想法 改版 - 創造性開発のために

本書は「KJ法のバイブル」です。

KJ法は日本発の質的データ分析法です。
考案者である文化人類学者、川喜田二郎が自身のイニシャルから命名しました。
川喜田二郎はKJ法を「発想法」と位置付けていますが、現在、発想のためにKJ法を使う人は少ないと思います。
それよりも、不定型な情報をまとめる手法として、文系/理系、ビジネス/アカデミックを問わず幅広く利用されています。

一般的にKJ法は情報の「分類・整理法」と言われていますが、それが誤解であることは本書を読めば一目瞭然です。
本書の中にはKJ法の例がいくつも掲載されていますが、それらはカードを様々な位置に配置したり、
線で囲ってグループ化したり、そのグループ間を矢印で結んだり、と非常に視覚的に表現されています。
この「図解化(空間配置)」がKJ法の最初のアウトプットです。川喜田二郎はこれを「KJ法A型」と呼んでいます。
一般的に行われているKJ法による「グループ分け」は、実は途中経過に過ぎないのです。

さらに本書の中には「KJ法B型」なるものも明記されています。
これは分析結果を「文章化」するステップです。
そもそも川喜田二郎は文化人類学の論文(いわゆる民族誌)を書くための方法論としてKJ法を編み出したので、
文章化の手順が定義されていることは当然ともいえます。
雑多な資料の山が1 冊の書物になる――それがKJ法の本来の姿なのです。

文字通りの"名著"ではありますが、本書には残念な点もあります。
それは、原著が「50年前」に書かれたために生じる違和感です。
例えば、「女性は抽象化が苦手」といった記述があったり、
ある会議のテーマが「コピー機導入の是非」であったり、
現代人には「えっ?」と感じる箇所が散見されます。
また、本書が主張するKJ法の効用(会議の効率化、アイデア創出など)の多くは、
現代ではもっと効果的な他の手法によって取って代わられています。

50年の時を経て、今なお輝くのは「第3章」の内容(特にKJ法A型について)でしょう。
考案者自らの手でオリジナルのKJ法のプロセスが見事に描かれています。
230ページ中の50ページに過ぎませんが、この3章のためだけでも本書を購入する価値はあると思います。

なお、KJ法は、海外では「Affinity Diagram(アフィニティ・ダイアグラム:親和図法)」と呼ばれています。
そして、UX分野でアフィニティ・ダイアグラムを最も活用しているのは、
カレン・ホルツブラットの「Contextual Design」です。
本家KJ法とホルツブラット流アフィニティ・ダイアグラムを比べてみるのも一興です。

※なお、本書をネタにした「本を読まない読書会」を8月に開催予定です。
興味のある人はPeatixのグループをフォローしておいてください。
◎UXブッククラブ東東京

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