抽象化の哲学的または論理学的背景を教えて!

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いっしょうさん

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Feb 5, 2017, 10:50:00 PM2/5/17
to ロジバン相談室
ロジバンの勉強を続けていますが、現在、賓述 bridi の抽象化について悩んでいます。
ロジバンは哲学的または論理学的によく考えて作られた言語であると思います。
初めてロジバンを学んだ時は、なぜこのように定義したのだろうと疑問に思いましたが、
各種論理学を並行して学ぶうち、それらの疑問が次々と解決し、
ロジバンを創った人たちは凄いなと感嘆しました。
ところが、bridi の抽象化では、この概念の出所が全く分からず、
何のためにこれほど多くの抽象化を定義したか、疑問に思い、
ロジバンの原子賓述語 gismu のPSの抽象化項の存在の意味がほとんど理解できていません。
私の論理学的背景では、賓述 bridi の抽象化は「命題 du'u」、「事象 nu」、「数量 ni」、それに「様相(不定) su'u」だけで十分であると考えています。
すなわち、述語論理を世界を関係として記述する言語であるとすると、命題抽象化:賓述の項たちに関係があれば真とする、事象抽象化: 項たちの関係があるかどうかを問わず、あり得る事柄や起きた事柄を単に記述する、数量抽象化:賓述から数量を抽出する(自然数の定義に必要)、様相抽象化:賓述の基本的な関係(主に二項関係)が真である時間、場所、様態、様相、基準などを抽出する(様相論理で必要)。
まあ、私の理解はこんなところです。だから私にとってはそれ以外の抽象化は、たとえば概念抽象化は lo sidbo noi/poi ....、など記述する方が理解できるのです。
このロジバン特有の抽象化という概念は、一体どんな哲学的または論理学的または言語学的な背景を持っているのでしょうか?もしできることなら、インターネット上の参考文献、できれば英語のものをご紹介ください。
よろしくお願い致します。

guskant

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Feb 9, 2017, 12:32:49 AM2/9/17
to ロジバン相談室
 abstractor (抽象詞)と呼ばれるものは、もともと Loglan (ログラン)にもありました。  抽象詞の発生の由来を調べるには、ログランを作った James Cooke Brown の
テキストを当たる必要があると思います。
この Available Study Materials の9番めに挙げられている3冊の本が参考になると思います。私はログランを詳しく調べていないので、抽象詞が発生した歴史的な背景については、ご質問にお答えすることができません。

現状のロジバンの abstraction (抽象化)や抽象詞の論理学的基礎については、私の理解する範囲でお答えすることができます。
ロジバンで「抽象詞」と呼ばれるものは、賓述関係を抽象化すると誤解されがちですが、文法上の役割は必ずしも抽象化と関係ありません。
文法上、抽象詞とはNU類のことで、1つの(原子)論理式を1つの述語に変換する役割があります。
# 公式ロジバンでは前置型接続の複合論理式を {NU...KEI} 構造内に入れられますが、中置型接続の複合論理式を入れることはできません。論理学的にはこの性質を欠陥と見なせますが、利便性のために支持されているようです。これについての批判は昨年公開したドキュメンタリー映画『lo vliraitru』の21分08秒あたりから33分17秒あたりで説明されています。日本語字幕もあります。

閑話休題、NU類のこの機能を利用して、単語によって異なるいろいろな意味を持たせることができます。それらの単語が必要であるかどうかは、使う人の哲学的立場によって異なると思います。
NU類の単語を論理学的観点から分類すると、以下のようになります。
- 閉じた原子論理式をとるもの: du'u, nu, jei
- 開いた原子論理式をとるもののうち、
-- 1項、または {ce'u} で指定した項だけ自由変項になるもの: ka, ni
-- 全項が自由変項になるもの: si'o, su'u
- {nu} の意味に別の意味が追加されたもの: li'i, mu'e, pu'u, za'i, zu'o
- 試験的機能語(未分類): bu'ai, ga'ei, ka'ei, kai'ei, kai'u, ni'ai, poi'i

この分類から考えると、NU類の中で、最低限必要な単語は {du'u}, {ka}, {si'o} だけです。私の考えでは、この3つは以下のような意味を持ちます。
{du'u} は論理式の意味をx1として抽出します。
{ka} は {ce'u} で指定された項の場所に入る性質をx1として抽出します。
{si'o} は 述語の意味をx1として抽出します。

{nu} は多くの素朴な実在論者にとって当然必要なものかも知れませんが、哲学的には {du'u} が表す命題とは別に事象が存在するとは考えない立場もあり得ます。この立場を貫く場合、 {nu} の方が短いので、常に {du'u} の意味で {nu} を使うという選択をすることもあります。

{jei} は {x1 jetlai lo du'u 論理式 kei x2} という {du'u} を使う形に展開できます。

{ni} は {x1 klani zo'e lo ka ce'u 論理式} と展開できます。公式には klani の x3 が {si'o} であるために {x1 klani zo'e lo si'o 開論理式} となり、論理式の中のどの項に関する量なのかを指定できないのですが、 {ka} で展開すれば量を測るべき項を {ce'u} で指定できます。理論上は、 {si'o 開論理式} の1つ以外の項を明示的に {zo'e} で埋めてしまえば {ka ce'u 論理式} と同じ意味になるはずなので、このようにして {si'o} を {ka} で置き換えることは型違反とは言えないと思います。

{su'u} については、少なくともこの単語を作った人たちには「様相」と考えられてはいないはずです。
この単語は co'e, do'e, ju'e などと同じように「不特定」の意味を持ちます。この単語は、意味をはっきり伝えたくないときや、既存の機能語で表せない意味を表したいことが出てきたときのために作られたものだと思います。

一般的な文法用語としての modality (法)の意味とかけ離れていることで悪名高いBAI類の英語名 modal は、ロジバンに modal logic (様相論理)を取り込もうとした痕跡かもしれません。結果的に、公式ロジバンの中で様相論理らしい役割を持たせようとして失敗しているのは、英語で "modal aspect" と呼ばれているCAhA類です。CAhA類はBAI類とは区別されていますが、どちらも述語や項に付くタグです。もし Kripke モデルに沿って様相をロジバンに取り込むなら、CAhA類の機能語をNA類に移動し、 {ca'a} の意味を {na ka'e na} と同じになるように定義し直す必要があります。 

試験的機能語のうち、「抽象化」の意味からかけ離れているという点で興味深いのは {poi'i} です。これは原子論理式の中で {ke'a} で指定された「項の場所」を、 x1 に変える働きがあります。ロジバンの方言の一種で、「よく使う機能語を、もっと短くてめったに使わない機能語と取り替える」という立場をとるものでは、 {poi'i} を {voi} と交換して、よく使われています。

 

guskant

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Feb 9, 2017, 12:48:30 AM2/9/17
to ロジバン相談室


Le jeudi 9 février 2017 05:32:49 UTC, guskant a écrit :

{jei} は {x1 jetlai lo du'u 論理式 kei x2} という {du'u} を使う形に展開できます。

すみません、 {se} が抜けていました。 {x1 se jetlai lo du'u 論理式 kei x2} です。 

いっしょうさん

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Feb 9, 2017, 8:47:17 AM2/9/17
to ロジバン相談室
guskantさん、回答ありがとうございます。
早速ログランの参照先をみましたが、目的のページを見つけるには時間が掛りそうです。
今回の質問は、私自身、何を求めるいるのか、よく分かっていません。
もう少し回答を読み返し、自分がどんな答えを欲しているのか、
しばらく考え、再度返信したいと思います。
とりあえず、感謝します。


guskant

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Feb 10, 2017, 4:10:38 AM2/10/17
to ロジバン相談室
ご参考になるかどうか分かりませんが、ログランの3冊のpdfのうち、Part I の初めの数ページがpdf3冊分(紙の本としてはおそらく1冊分)の目次になっていて、その7ページ目に "Lexeme PO: Abstraction Operators p.98" のタイトルが載っています。このタイトルは Part II のpdfの27ページ(紙の本としての98ページ) からの節を指します。他の節にも、abstractorに関係する記述があるかもしれませんが、調べていません。

いっしょうさん

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Feb 11, 2017, 9:14:54 AM2/11/17
to ロジバン相談室
guskant さんのご紹介いただいた文書の抽象化の章を読みました。残念ながらロジバンの説明より短く。それ程役には立ちそうにありませんが、ログランでは、事象、属性、数量の3つの抽象化であったことが分かりました。また、私の、「英語における抽象名詞や名詞節を作る方法に対応するのがそれぞれ LE+NU+brivla とLE+NU+bridi に対応する抽象項たちで、だから抽象化という」、という考えがそれほど間違っていないことも分かりました。と言っても、私の疑問が解決した訳ではありませんが。
 意外と役に立ったのが、guskant さんの閑話休題です。その通りという訳ではなく、私の理解と違うところもあるという訳でです。特に、ロジバンでは抽象化は賓述を述語化すると述べられてから、後にそれを論理式と述べたところにです。guskant さんはこのことに違和感を感じてはいないようですが、私はこれに違和感を感じます。この違和感が、ここに相談した目的の1つです。さらに様相論理の話で、何かその違和感の正体が垣間見えたような気がします。それは私の認識論に関係していますので、直接ロジバンとは関係がないと言っていいでしょう。しかし、現在の現象論的認識論が抽象化を用いてロジバンに取り入れられているところが、ロジバンのすばらしさであると再確認しました。
疑問は完全には解けていませんが、完全ではなくとも、ロジバンの抽象化が、認識論にも利用できるようにした、と考えれば、かなり納得できます。(本当は、認識論から抽象化を再定義したのではないか、と思っていた。)ありがとうございました。
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