一方、数学の世界では加群Mに体Kの作用 K x M -> Mが定義されていて、a,b∈K, X,Y∈Mに対して
(1) a(X+Y) = aX + aY
(2) (a+b)X = aX +bX
(3) (ab)X = a(bX)
(4) 1_K X = X
を満たすものをベクトルといいますね。この2つの対応関係を見たいと思います。
まずn成分をもつA^μ全体をMとして(A+B)^μ = A^μ + B^μとして和を定義すると
Mは加群です。座標の回転を表す直交行列全体をT、その元tの成分をt^μ'_νとすると
TのMへの作用:
T x M ∋ (t,X) -> Σ_ν t^μ'_ν X^ν ∈ M
が定義できます。TをKに対応するとみなすと(1)(3)(4)は成り立ちますが(2)はどうでしょう。
そもそもTの積は定義できても整合性ある和はとれないので体ではないですね。3次元空間の
回転だと積についても可換性がありません。
もしかして実数Rに対してスカラー積 R x M -> Mが定義され(1)(2)(3)(4)を満たすので
ベクトルであって、さらに物理学上のベクトルは直交行列群の作用
T x M -> Mについて(1)(3)(4)をみたすということでしょうか?
つまり
数学でのベクトル⊃物理学上のベクトル
という含包関係にあるということですか?
柳楽@生物系
In article <3EFC73EC...@domain.com>
柳楽盛男 <em...@domain.com> writes:
> もしかして
もしかしなくてもそうです. ところで,
> 実数Rに対してスカラー積
普通スカラー倍といいます.
# スカラー積は内積を意味する場合がある.
物理から学ばれる方はどうしても座標系に引きずられるようです.
反変ベクトルというのは(多様体の)接空間なるベクトル空間に値
を取る物理量の謂ですが, 座標系 {x^μ} から接空間に入る基底
{∂/∂x^μ} を用いて接ベクトル v を v = Σ_μ v^μ (∂/∂x^μ)
と表し, 更にはそれを成分だけで (v^μ) と表す習慣は, むしろ
基底を常に意識していなければならない点で, 初学者にとっては
荷が重い場合もあるように思います.
接ベクトル v と書いてお仕舞いにする方が潔い.
> 直交行列群の作用
直交行列というのは
内積を保つ一次変換
を表す為に用いられることもありますし,
正規直交基底の取り替え
を表す為に用いられることもあります. 後者は基底を用いないで
接ベクトルを表しておくと必要のないもので, その意味でも (v^μ)
と表す習慣は, 直交行列の意味についての混乱を齎すこともあり,
話を無駄に難しくしていると言えるかも知れません.
--
塚本千秋@応用数学.高分子学科.繊維学部.京都工芸繊維大学
Tsukamoto, C. : chi...@ipc.kit.ac.jp
In article <03063002475...@ims.ipc.kit.ac.jp>, chi...@ipc.kit.ac.jp (Tsukamoto Chiaki) writes
> 物理から学ばれる方はどうしても座標系に引きずられるようです.
ま、そうかも。
多重線型写像が基底抜きに存在するってのは物理学者に取っては
難しいものみたいですね。
でも、直交基底は必ず導入できるわけだから(できない例もあるの
かな?)、結局、
(1) 多重線型写像として定義されるテンソル
(2) 座標変換に対して決まった変換をする多次元行列としてのテンソル
は同じものだと思います。
> 反変ベクトルというのは(多様体の)接空間なるベクトル空間に値
> を取る物理量の謂ですが, 座標系 {x^μ} から接空間に入る基底
> {∂/∂x^μ} を用いて接ベクトル v を v = Σ_μ v^μ (∂/∂x^μ)
> と表し, 更にはそれを成分だけで (v^μ) と表す習慣は, むしろ
> 基底を常に意識していなければならない点で, 初学者にとっては
> 荷が重い場合もあるように思います.
たぶん、物理学者は「測定できなければ実在でない」みたいな立場
であって、テンソルが物理量であるとすれば、それは、「なんらか
の数値の集合である」べきだってことなんだと思います。テンソル
の数値表現としては、基底を意識した表現しかないですよね。
しかし、例の「相対論は間違っている」人達も、
> 物理から学ばれる方はどうしても座標系に引きずられるようです.
であることは確かだな。
---
Shinji KONO @ Information Engineering, University of the Ryukyus,
PRESTO, Japan Science and Technology Corporation
河野真治 @ 琉球大学工学部情報工学科,
科学技術振興事業団さきがけ研究21(機能と構成)
Tsukamoto Chiaki wrote:
>
> In article <3EFC73EC...@domain.com>
> 柳楽盛男 <em...@domain.com> writes:
> > もしかして
>
> もしかしなくてもそうです.
>
座標変換を表す群Tが作用する加群Mに(1)(3)(4)をみたすものを「物理的ベクトル」とすれば
「物理的テンソル」の定義も自然かなぁって思ったんですが。。。
> > 実数Rに対してスカラー積
>
> 普通スカラー倍といいます.
>
そうでした。
ベクトルの和をとることと座標の変換に伴ってベクトル成分が変わることに
は物理的なベクトル量を扱ううえで必要と思いますが、スカラー倍の操作は
どんなときに使うんでしょうか?数学ではないのでfj.sci.physicsの皆さんお願いします。
柳楽@生物系
In article <3F005569...@domain.com>
柳楽盛男 <em...@domain.com> writes:
> ベクトルの和をとることと座標の変換に伴ってベクトル成分が変わることに
> は物理的なベクトル量を扱ううえで必要と思いますが、スカラー倍の操作は
> どんなときに使うんでしょうか?
物理量は(共変)微分ができた方が嬉しいのでは?
Tsukamoto Chiaki wrote:
>
> In article <3F005569...@domain.com>
> 柳楽盛男 <em...@domain.com> writes:
> > ベクトルの和をとることと座標の変換に伴ってベクトル成分が変わることに
> > は物理的なベクトル量を扱ううえで必要と思いますが、スカラー倍の操作は
> > どんなときに使うんでしょうか?
>
> 物理量は(共変)微分ができた方が嬉しいのでは?
例えばある物体の運動量ベクトルを1.3倍したりするような単純なスカラー倍にはあまり
意味がない(と思う)のでRが作用する必要性が感じられませんでしたが、微分に必要と
言われれば確かにそうですね。
なにか物理量を観測してその性質を表現できるとするときに、
座標変換と結びついた加群ではなく、微分演算できるように
座標変換と結びついた「ベクトル」で表現しようということになるわけですか。
柳楽@生物系